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濱田伊織のオーストラリアに暮らしてみれば―毎日がちょっとだけ新しい #1

はじめまして!

こんにちは、濱田伊織です。『洗練された会話のための英語表現集』(ベレ出版)などの英語学習書籍や学術論文・書籍を執筆しています。今月から、オーストラリアでの経験をもとに、私が得た知見を4回にわたってお届けしていきます。

オーストラリアって、こんなに多彩!

オーストラリアと聞いて、何を思い浮かべますか?カンガルー?コアラ?それとも広大なアウトバック?確かに、オーストラリアの自然は壮大で圧倒されます。しかし、この国の魅力はそれだけではありません。実は、多言語・多文化・多民族が共存する、まさに世界の縮図とも言える場所なんです。

Photo by Catarina Sousa: https://www.pexels.com/photo/australia-map-68704/

たとえば、オーストラリアの人口は約2600万人。そのうち約30%が海外生まれで、これは約780万人に相当します。一方、日本の人口は約1億2500万人で、オーストラリアの5倍近くありますが、日本に住んでいる外国生まれの人は約340万人で、総人口のわずか約2.7%に過ぎません。この違い、驚きですよね。

言葉と食—オーストラリア流の多様性

オーストラリアには世界中から移民が集まり、その多様性がこの国の魅力の一つです。特にその多様性が顕著に表れているのが、言語食文化です。
 
最近の国勢調査によると、オーストラリアの家庭で話されている言語は400以上もあるそうです。この多言語環境の中で、オーストラリア英語、いわゆる「オージーイングリッシュ」も日々進化を続けています。シドニーのマッコーリー大学のイングリッド・ピラー教授によれば、オーストラリア英語は他の言語の影響を受けて変化し、アメリカ英語やイギリス英語とは異なる「新しいオーストラリア英語」が形成されているとのことです。
 
確かにオーストラリアでは、インドや中国、イタリアやギリシャなど、さまざまな母国語の影響を受けた英語が日常的に使われています。異なるアクセントの英語が混ざり合っているのが、この国の「普通」の光景です。
 
もう一つ、特に多様性が際立って表れているのが、なんと言っても食文化です。オーストラリアに来て驚いたのは、日本食の浸透度の高さです。寿司やラーメンはもちろん、日本のカフェや居酒屋、パン屋などが都市部を中心に広がっています。オーストラリアの人々が日本食を愛する理由には、健康志向や新鮮な食材への関心があると思いますが、それ以上に多様性と奥深さが魅力なのでしょう。
 
実際、2006年から現在に至るまで、オーストラリアを含むオセアニア地域での「日本食レストラン」の数は驚異的に増加しており、増加率は世界でもトップクラスです。2006年には約500〜1,000軒だった日本食レストランが、2023年には2,500軒を超えました。この急成長を目の当たりにして、「これは一過性のブームではない」と感じ、オーストラリアにおける日本食文化の研究を始めました。
 
その研究の成果の一つが、英語で執筆した『The Japanese Restaurant: Tasting the New Exotic in Australia』という本です。この本では、オーストラリアで日本食が「新しいエキゾチック」としてどのように定着し、現地文化と融合していったのかを探求しています。興味のある方は、ぜひ手に取ってみてください。

進化する日本食!オーストラリア流「寿司ロール」

さらに、オーストラリアでは日本食が独自の進化を遂げ、ユニークなスタイルを確立しています。先日、大学で「オーストラリアの国民食って何だと思う?」と学生に聞いてみたところ、驚きの答えが返ってきました。皆さん、何だと思いますか??



答えは「寿司ロール」です。伝統的な「ミートパイ」や「ベジマイト」を抑えてのランクインとは、ちょっと驚きですよね!
 
寿司ロールは、日本の巻き寿司とは少し異なり、太巻きほどではないけれど、細巻きよりも太く、長さは約10センチ。片手で気軽に食べられる、まさにファーストフード感覚の食べ物です。
 
この寿司ロールがオーストラリアの食文化に根付いていることは、料理家でテレビプレゼンター、日本政府の「日本食親善大使」でもあるアダム・リアウ氏も認めているところ。彼は、オーストラリアの寿司が日本の影響を受けながらも独自に進化を遂げたことを強調し、世界はそれを受け入れるべきだ、と語っています。オーストラリアの食文化は、外からの影響を吸収しつつ、独自のアイデンティティを形成しているのです。

Photo by Matheus Frade: https://unsplash.com/photos/two-round-white-and-gray-plates-on-table-with-egg-sandwiches-KO46ZfbNdtY

知ってましたか?日本とうどんとオーストラリアのつながり

オーストラリアが日本食文化に影響を受けているだけでなく、日本もオーストラリアの食品に大きく依存しています。たとえば、普段食べているうどん。その原料となる小麦の約90%がオーストラリア産だって知っていましたか?讃岐うどんの本場、香川県でさえ、うどんに使われる小麦の80%以上がオーストラリア産だそうです。オーストラリアと日本は、食文化の面でも深いつながりがあるのです。

私がオーストラリアに来たきっかけ

私がオーストラリアに来たのは、日本とオーストラリアが日豪友好協力基本条約の30周年を迎えた際、その記念として設立されたエンデバー・ジャパンアワードを受賞したことがきっかけでした。その後、RMIT(王立メルボルン工科大学)で修士号を取得し、さらにメルボルン大学で博士号を取得しました。現在は、メルボルン大学での経験を活かしながら、モナシュ大学の教員として、研究と学生の育成に取り組んでいます。
 
オーストラリアに来てからもう18年が経ちました。日本で生まれ育った私にとって、南半球での生活は新しい発見と挑戦の連続でした。博士課程を進めながら子育てをし、オーストラリアの大学で教える経験は決して簡単なものではありませんでしたが、その分、大きな学びと成長を感じています。


次回予告

次回からは、私自身の英語体験も交えながら、多種多様な人々が暮らすオーストラリアで働く現実についてお話ししたいと思います。現在、多くの若い日本人がワーキングホリデーを利用してオーストラリアなど海外で「出稼ぎ」をしていますが、平均給料は日本より高い一方、生活費の高さという厳しい現実もあります。
 
また、日本人女性として、そして子供を持つ母親として直面している現実についても、お話しできる機会があればと思います。もし、皆さんが聞いてみたいことや質問があれば、ぜひコメントをお寄せください。次回もお楽しみに!


参考文献
 
Australian Bureau of Statistics. (2021a). Population Census. https://www.abs.gov.au/statistics/people/population/population-census/latest-release

Australian Bureau of Statistics. (2021b). Language Used at Home (LANP). In Census Dictionary. https://www.abs.gov.au/census/guide-census-data/census-dictionary/2021/variables-topic/cultural-diversity/language-used-home-lanp

Hamada, I. (2023). The Japanese Restaurant: Tasting the New Exotic in Australia. Routledge.

Liaw, A. (2023, November 23). Yes, Australian sushi exists. Get over it. The Sydney Morning Herald. https://www.smh.com.au/goodfood/eating-out/yes-australian-sushi-exists-get-over-it-argues-adam-liaw-20231123-p5em7w.html

Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries. (2023). 日本食レストランの海外展開に関する調査結果 [Survey results on overseas expansion of Japanese restaurants]. https://www.maff.go.jp/j/press/yusyutu_kokusai/kikaku/231013_12.html

NHK News. (2023). うどんに使われる小麦の約90%がオーストラリア産 [About 90% of wheat used in udon is Australian]. https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230510/k10014062521000.html

SBS News. (2023). How multiculturalism is changing the way we speak. https://www.sbs.com.au/news/article/how-multiculturalism-is-changing-the-way-we-speak/iifzlbjsk

Statistics Bureau of Japan. (2023). 人口推計 [Population estimates]. https://www.stat.go.jp/data/jinsui/new.html
 



この記事を書いた人:濱田伊織
2006年、オーストラリア政府エンデバー奨学金受賞者として、王立メルボルン工科大学修士課程でコミュニケーション学を専攻、2007年、同大学で修士号取得、成績優秀者として卒業。2012年、食と文化に関する研究を終え、メルボルン大学より博士号を取得。現在、モナシュ大学に在職。専門は社会学、文化人類学。主な研究テーマは、移民の雇用・労働問題、女性の進展を妨げる要因、食文化。主な著書に『CD BOOK 洗練された会話のための英語表現集』『CD BOOK ネイティブのひとりごと英語表現集』(いずれもベレ出版)、『中学レベルで洗練された英会話ができる本』(ダイヤモンド社)などがある。
Website: https://research.monash.edu/en/persons/iori-hamada
Twitter: @hamada_iori


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