バイリンガル教育(3)~ドイツで実践中~
日本ハーフの子どもを取り巻く言語環境
ドイツに住む日本ハーフの子どもを取り巻く言語環境はどのようなものでしょうか。
・パパとママが子どもにどんな言語で話しかけるか、
・パパとママがどんな言葉でコミュニケーションしているか、
という観点から、具体例を見ていきたいと思います。
私が遭遇した、ドイツに住む日本人の家庭の例です。
※ちなみにドイツでは子どもがいてもいなくても、必ずしも結婚しなくてもいいですし、実際、そのケースが多いですが、パパとママのどちらかが日本人の場合、結婚していることが多いです。
※日本人とドイツ人、日本人とドイツ以外の外国人、どっちの組み合わせでもいいですが、私が知っている限り、日本人女性と外国人男性の夫婦というケースが圧倒的に多いです。
1.日本人とドイツ人の夫婦の場合
上の※にも書きましたが、国際結婚の場合、女性が日本人、男性が外国人の組み合わせが圧倒的に多いです。そのため、ここでもそのパターンを前提に書いていきます。
ママが日本人の場合、ママは基本的に子どもに日本語で話しかけます。
日本語を話すのがパパかママか、というのはどうでもいいようで、実は結構重要です。というのは、育児参加率の高いドイツにおいてさえ、やはり育児、とりわけ乳児・幼児の時期はどうしても子どもはママと過ごすほうが多いからです。つまり、子どもはママの言葉のほうを多く聞くことになります。
今回のコロナ・パンデミックでドイツは2度、ロックダウンをしました。その間には子どもが思うように保育園や学校にいけない時期があり、多くの子どもが家でママと過ごすことになりました。パパもホームオフィスをしていた人が多かったと思いますが、やはり育児はママが引き受ける部分が多いです。そのため、子どもの日本語が上手になった、という声を数名の日本人ママから聞きました。
※ちなみに日本人男性&ドイツ人女性の夫婦の場合、ドイツ人女性が日本語が上手なケースが多いように感じます。
一方、パパは、といえば、私の場合のように、配偶者がドイツ人であれば通常、パパは子どもにドイツ語で話しかけます。
日本人ママ・ドイツ人パパの夫婦間のコミュニケーション言語は?といえば、
①ドイツ語
②日本語
③英語
④ドイツ語と日本語と英語
と、ざっくり4パターンあります。
個々に見ていくと、
①(ドイツ語)は、私のケースでもありますが、ママが一定程度ドイツ語ができて、パパが日本語がほとんどできないパターンです。パパも、とりわけ子どもとママの会話を通して日本語を学んでいくので、子どもに対して簡単なフレーズや片言の日本語をしゃべったりしますが、夫婦間は基本的にドイツ語です。
※このケースの場合、ママが非常にドイツ語が上手だと、子どもにもドイツ語で話しかけることがあります。
②(日本語)は、ママがドイツ語があまり得意でない&パパが日本語がとても上手、というパターンです。①のケースは、そもそもママがドイツやドイツ語に近いところにいたためにドイツ人と知り合った、というのに対して、②はパパが日本や日本語に近いところにいて日本人と知り合った、というケースになるかと思います。例えば、大学で日本語を専攻したり、日本に留学をしたことがある人がドイツに無縁な日本人とつきあう、といったケースは決して珍しくありません。日本語が上手になればなるほど、つきあう相手にドイツ語や英語の能力を求めなくてよくなるわけです。またはドイツ語のできる日本人と知り合った場合でも、日本語のできるドイツ人の日本語のほうがドイツ語のできる日本人のドイツ語よりも上手であれば、2人の共通語は日本語になったりします。要するに意思疎通が早くできる言語が優先されることが多いです。
※このケースの場合、パパが子どもに話しかけるときも、日本語の割合が多かったりします。
③(英語)は、ママがドイツ語があまり得意でない&パパが日本語がほとんどできない、というパターンです。これは例えば、パパとママがそもそも、日本ないし外国の、英語を共通語とする職場で知り合った、というケースが当てはまります。ママの多くは、まさか自分がドイツに暮らすことになるなんて!と思っていたりします。本当に、たまたま知り合ったのがドイツ人だった、というパターンですね。
④(ごっちゃまぜ)は、ママがドイツ語がほとんどできず、英語も得意ではない&パパが日本語がほとんどできない、というパターンです。こういうケースが国際結婚にはよくあるものなのか、レアなのかはよくわかりませんが、少なくとも私は1例知っています。意思疎通をするメインの言語がない状態で(とはいえ、おそらく最初は英語を駆使していたと思われますが)結婚まで至ったというのはミラクルとしか言いようがありません。が、男女の出会いや縁というものはそもそもミラクルで、どんなことも乗り越えちゃうものなのだと思います💛。
さて、この分類でいくと、子どもが日本語を耳にする量が圧倒的に多いのが②のパターンです。※にも書きましたが、パパも子どもに日本語で話しかけたりするのでぶっちぎりの1位ですね。ドイツでドイツ語と日本語のバイリンガル教育をするには最適の環境だと思います。
①のパターンは子どもの身近にある言語が日本語とドイツ語の2つです。なので、バイリンガル教育を意識するならば、シンプルにママががんばって子どもに日本語で話しかけ続ければいい、ということになります。
ただ、特に子どもが保育園や学校に通いはじめ、ドイツ語でのやりとりのほうが理解が早くなってきたり、ママがそもそもとてもドイツ語が上手だったりすると、子どもとママの間でもドイツ語の割合が高くなっていくことがあります。ここは、バイリンガル教育を頑張りたいなら、ママの踏ん張り時、ということになると思います。
③と④のパターンは、子どもの身近にある言語がドイツ語と日本語と英語の3つになります。
親の片方が日本人なので、子どもが耳にする日本語の量という意味では①のパターンとさほど変わらないはずですし、日独のバイリンガル教育を意識するなら同様に、ママががんばって日本語を使い続けることがまずは大事だと思います。
ただ、子どもが処理しなければならない言語が3つある、という意味では、①のパターンとまったく同じとは言えないのではないか、と個人的には思っています。2つの言語に集中すればいい、というのと、3つの言語に注意を払わねばならぬ、という場合では、耳に入ってくる日本語の量は同じでも、その後脳で処理される/記憶される量には差が出てくるのではないか、と想像したりします。ただ、これは私の想像にすぎません。子どもは大人では考えられないキャパシティーと吸収能力を持っているので、私の危惧など単なる老婆心かもしれません。
また、このパターンでは、子どもをトリリンガルにする可能性もあります。親の片方がドイツ語母語話者で、そのままドイツに住んで現地校に通えばドイツ語は第一言語として身につくうえに、ドイツ語と英語は似通っていて学びやすい言語である、となれば、バイリンガル教育と同様に日本語の習得を意識的にやればトリリンガルも可能だと言えます。
では、もっと複雑だけど、決して少なくない例として、ドイツに住む日本人とドイツ人以外の外国人の夫婦の場合をみていきましょう。
2.日本人と、ドイツ人以外の外国人の夫婦の場合
ドイツに来て、日本人のママ友と知り合ってびっくりしたことは、
・ドイツに住んでいるからといって、配偶者がドイツ人とは限らない、
ということです(この場合でもママが日本人のケースが圧倒的に多い)。
もっというと-上の②~④のケースでも当てはまることがありますが-、
・ドイツに住んでいる人だからといって、必ずしもドイツやドイツ語が好きというわけでも、興味があるとも限らない、ということです。
私は大学でドイツ語を専攻、大学院でドイツ現代史を研究し、ドイツ語非常勤講師として勤務していたことから、友人・同僚・先輩後輩・先生など、これまでドイツがらみの人たちに囲まれてきました。その中にはドイツ人の配偶者がいる人もいました。
つまり、ドイツに興味がある人がドイツ人と結婚してドイツに住む、という事例は見てきましたし、私自身もいってみればこのパターンに当てはまるので、それが普通だと思っていました。
けれど実際にドイツに来て、
・ドイツにいながらドイツ人以外の人と結婚する、ということが決して稀ではないということ、
・ドイツがとりたてて好きなわけでもなく、ドイツに興味があるわけでもない人たちがドイツに住んで子育てまでしている、
ということを知りました。
これにはびっくりでした。
ドイツやドイツ語に興味のない人はドイツに住むな!ということが言いたいのではなくて、親が特にドイツ語に執着がないとなると、子どもの言語習得にも少なからず影響があるだろうと思うのです。
実際、ここで述べる「配偶者がドイツ人ではない」パターン(特に以下の②)では、子どもがドイツ語を第一言語として習得する意味を見いだせないとして、子どもが小学校に上がる前にドイツを離れたり、子どもをあえて、英語で授業が行われるインターナショナルスクールや、2言語を使ういわゆる「バイリンガル学校」(独英はもちろん、独仏、独伊、独ロなどがあります)などに通わせたりすることが多いようです。
では、配偶者がドイツ人ではないケースを具体的にみていくと、
①ドイツでドイツ人以外の外国人と出会って結婚した日本人、
②ドイツ以外の国の人と結婚した後、仕事などの関係でドイツに住むことになった日本人、
が挙げられます。
この場合、子どもを取り巻く言語環境は、
・ママとは日本語
・パパとはパパの母語(例えば、フランス語やイタリア語、ギリシャ語、スペイン語、ポーランド語などなど)
・ママとパパのコミュニケーションは:
ードイツ語(特に①のパターン)
ー英語
ー日本語
ーパパの母語(英語以外) の可能性があります
・現地の保育園や学校ではドイツ語
となります。
ママと日本語でやり取りするという点はどのパターンとも共通していますが、それ以外に最大で3つの言語が身近にあることになります。私にはもう想像を超えた世界です、、、。
この場合、子どもの母語はパパとママからそれぞれということで2つになり、第一言語は、現地の保育園や学校に通えば、ドイツ語になるはずです。
パパとママがドイツ語がある程度できる場合には、子どもの第一言語がドイツ語になっても特に問題はないのだと思います。が、パパとママが(またはどちらかが)ドイツ語があんまりで、特に身につけたいとも思っていない場合、子どもがドイツ語を第一言語として習得することは、親にとっても子どもにとっても利点が少ないように思います。親が学校の勉強をみてあげられないというのもそうですし、子どもが友だちとしている会話の内容がわからない(プライベートを侵害しないという意味では〇?)というのも、親としてはさみしい気もします。
いずれにしてもこれらの場合、言語環境と言う意味ではいろんなパターンが考えられ(例えば、パパが日本語ができるかどうか、ママがパパの母語がどのくらいできるのか、親はドイツ語がどのくらいできるのか、などなどなど)、また子どもが何語を好むのか、言語的な才能がありそうかどうか、なども考慮するとなると、ドイツでバイリンガルないしトリリンガル教育をするのか、その場合子どもの第一言語はどれにするのか、そうなるとどの学校にいれれば一番よいのか、それともドイツを離れてパパかママの母語が話されている国に行くのか、その選択は家族によって異なるだろうと思います。
3.ドイツにすむ日本人夫婦
さて、思ったよりも少なくないのがパパもママも日本語母語話者というパターン。
大きく、
①ドイツで日本人と知り合った日本人、
②日本から夫婦でドイツにやってきた日本人
というケースがあります。
①は夫婦ともドイツ語が多かれ少なかれできる可能性が高いです。
②は例えば夫の仕事の都合で、となると、夫はドイツ語、少なくても英語ができる可能性が高いですが、妻はドイツ語はもちろん英語もあまり、という場合もあります。
いずれのパターンも家庭内では日本語が共通語になるはずなので、子どもの日本語教育という意味では環境ばっちりです。
また、子どもは現地の保育園や学校に通えば、ドイツ語はできるようになるはずなので、その点もクリア。ということで、母語は日本語、第一言語はドイツ語という、理想的なバイリンガルが可能になる?!
とはいえ、現実は厳しそうです。
ドイツで日本人学校に勤務していたときのことですが、両親ともに日本人でドイツ生まれドイツ育ちの子が何人かいました。
本来、ドイツの日本人学校は小中学校までしかないので(ドイツには日本の高校はありません)、中学卒業後の進路を考えると、特に日本への帰国の予定がないならば、現地校に通わせるほうが得策です。
それをあえて日本人学校に通わせていたのは、親が望んだからというよりも、子どもたちがドイツ語で勉強をするのがしんどいからという理由からでした。
つまり、ドイツに住み、ドイツの保育園や幼稚園、場合によっては小学校まで現地の教育機関に通ったが、第一言語がドイツ語にはならなかったということです。
もちろん、ドイツ語も「聞く」「話す」はやはりよくできていたので、「会話型バイリンガル」であるとはいえます。が、中学卒業後にドイツの高校に通ったり、大学まで進学するのはかなり難しいと思います。実際、その子たちは日本の親戚の家から高校に通ったり、寮のある日本の高校に進学するなどしていました。
これらは決して頻繁にあるケースではないと思うのと、日本人学校を選んだ理由が、言葉の問題だけではない可能性もあるので(例えばたまたま仲良くなれる友だちができなかったとか、先生との相性が良くなかったとか)、バイリンガル教育云々という観点からだけではなんとも言えません。
ただ、要するに、環境があっても簡単にはバイリンガルができあがるわけではない、ということがここからわかると思います。そこで、次は、言語環境だけではない要素について書きたいと思います。