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バンクス家、最悪の1週間を推察する。


映画『メリー・ポピンズ リターンズ』の考察。

【バンクス家、最悪の1週間を懐古する。】では
出来事を日ごとに振り分け、
【バンクス家、最悪の1週間を比較するでは
前作との相違点について考えました。


今回は第3回。「懐古する」で導き出した
"空白の1日"について考えます。

※私が投稿しました、
「バンクス家、最悪の1週間を懐古する。」
「バンクス家、最悪の1週間を比較する。」
と題した記事をお読みいただいた前提で
お話を進めてしまっています。
ご承知おきください。


◯どうしてそんなことするの?


このスケジュールを見て率直に思うのが…

木曜日を削ることはできなかったのか?
ということ。

最初から弁護士グッディングが
「4日後の真夜中までに返済を」
「今日を含め、5日間差し上げます」
と言っていれば、
"空白の1日"は生まれなかったはずです。

しかし、そうはしなかった。
ということは当然そこにも意図があるはず。

その意図を知りたくなってしまいました。

今回は前回までのような、だんだん埋めていく形ではなく、私の思う答えを最初から共有させていただきます。

◯最悪の1週間とは?


これまで題にしてきた「最悪の1週間」、
これにも私なりの意図がありました。

『メリー・ポピンズ』(1964)と
『メリー・ポピンズ リターンズ』(2018)

2つの映画には、
小説『メアリー・ポピンズ』シリーズという
原作があります。

そして、この小説シリーズには
章のタイトルに"曜日"が入っている物語
3つありました。順に見て行きます。


◯わるい火曜日

第1作『風にのってきたメアリー・ポピンズ』、
(出版社によって作品名は異なります。)
第6章「Bad Tuesday/わるい火曜日」。

マイケル少年にとって、とにかく災難な物語。
虫の居所が悪く、癇癪を起こし、何に対しても反抗的になってしまったマイケルが、"メアリー・ポピンズ"や"ジェイン"たちと一緒に公園の散歩中、世界一周の旅をすることになります。

このお話、小説においても映画においてもかなり語れる一作。これだけで2〜3記事書けてしまいそうな話ですが、今回必要なところだけを端的に挙げていきますと…

小説において「わるい火曜日」は3パターン存在します。理由は2度の改編が行われたから。

結果、日本で広く知られているのは(おそらく)改編前の1パターン目。海外で広く知られているのは最終改編された3パターン目。

そしてこの3パターン目には、1パターン目では登場しない「イルカ」がいます。私の推測では、映画『メリー・ポピンズ リターンズ』のお風呂のシーン《♪想像できる?》で登場したのが、この「わるい火曜日」のイルカです。


◯わるい水曜日

第2作『帰ってきたメアリー・ポピンズ』、
第3章「Bad Wednesday/わるい水曜日」。

これは"ジェイン"にとって、とにかく災難な話。
何もかも嫌になり、イラだった挙句に投げた物が飾り皿に当たって割れてしまいます。そして皿に描かれた人々に招かれて絵の中の世界へと入って行きます。

映画をご覧になっている方でしたら、これが
《♪ロイヤルドルトン・ミュージックホール》の
一幕だと勘付かれる方も多いはず。


つまり、なぜ私が「最悪の1週間」と題したの
かと言うと、『メリー・ポピンズ リターンズ』は
マイケルとジェインにとっての"わるい"物語を
詰め込んだ1週間の物語だから。

ここまで言い切ると、「わるい火曜日」はイルカが登場したのみで、若干弱い気もしますが、実は他にも"細かな要素"が映画のあちこちに散りばめられているのです。

一つ挙げてみると、《♪想像できる?》の
「耳の裏もゴシゴシしてね」という歌詞。
小説ではマイケルが反抗的な態度の一つとして
耳の裏を洗わないという描写があり、ここから
歌詞に繋がっているかもしれない…
これくらい細かな要素です。

続きは、別の機会にお話ししたいと思います。


◯もうひとつの"曜日"

さて小説シリーズの"曜日"を扱った物語、
最後は第4作『公園のメアリー・ポピンズ』
第3章「Lucky Thursday/幸運の木曜日」。


マイケルが星に伝えた願いごとが叶っていき、
なぜかメアリー・ポピンズもやたら優しいうえに頼みごとを聞いてくれてしまう…


そう、『メリー・ポピンズ リターンズ』には
この幸運の物語が存在しないのです。

ただの"わるい"1週間ではなく、
幸運が抜かれてしまった"最悪の"1週間

とは言っても、この「幸運の木曜日」も
最終的には災難が待つ物語となっています。
ではなぜ抜かれたのでしょう?

一つは今挙げたように"Lucky"を単純に抜くと
いうことがあったように思います。もう一つは
これが第4作に収録された物語であることが
関係しているかもしれません。

小説第4作『公園のメアリー・ポピンズ』は、
第1作から第3作までの間に起きていたけれど
まだ語られていなかった話…という位置付け。

つまり、連続した1週間を描いた映画に
"空白の1日"を作ることで、小説と同様に
まだ語られていない話が入り込める余地
作ったのではないか?



…と深読みをしています。


◯第2水曜日

この話題も挙げておきましょう。

前々回「懐古する」でもヒントにしたトプシーの
「第2水曜日」。これに該当する2作目の第4章
「Topsy-Turvy/あべこべターヴィーさん」を
確認すると、元々は「第2月曜日」だったことが分かります。

もし映画でもそのまま「月曜日」としていたら?

メリー・ポピンズは2日前にズラして金曜日にやってくることになります。もしどうしても彼女を日曜日に来させたいとなれば、その日のうちに器を割ってしまわなければなりません。
またメリー・ポピンズが金曜日に来ていたならば、その日のうちにジェーンとマイケルは銀行に行けていたでしょう。
そして何より"空白の1日"が火曜日にズレてしまい、せっかくの「わるい火曜日」を抜くことになります。

と考えると…「第2水曜日」という設定もまた、
幸運の木曜日を抜くために設定されていたのかもしれません。

◯おわりに

全3回にて『メリー・ポピンズ リターンズ』の災難な1週間を振り返ってきました。

用意されたヒントを押さえていった結果、
以下のような情報に辿り着きました。

・1週間には"空白の1日"があったこと。
・前作とは見かけ以上に相違点が多く、
 共通点は細部にまで仕込まれていたこと。
・小説の災難が詰め込まれていたこと。

しかしあくまで私の個人的かつ大変都合の良い
解釈ですから、これらの情報を作品の愛好家の
皆さんがどのように解釈し、空白の1日をどう
埋めるか?そもそも"空白の1日"の存在自体を
肯定するか、否定するか…

あらゆる考えを聴いてみたいと思っています。



…また一つ大事なことを忘れていました。

◯スケジュールの総仕上げ

第1回「懐古する」で作った1週間を
より詳細なものにしておきましょう。

今回、追加したのは「日付」です。
映画の冒頭でバンクス家の扉に打ち付けられた
書類には差押えの期日として1934年3月16日
と書かれていました。

そこから数えると、メリー・ポピンズが来たのは同年3月11日。実際1934年3月のカレンダーを見てみると、11日は日曜日、16日は金曜日というように当てはまっていました。3月14日は、ちゃんと「第2水曜日」に当たります。

これを踏まえて申し上げたいことが3つ。

❶1934年は小説1作目が刊行された年

これをどのように解釈し、想像を広げるかは
人それぞれだと思います。

❷ペニー・ファーシングのカレンダー

頭取ウィルキンズの秘書ファーシングの机上には、1934年3月とは異なるカレンダーが置いてありました。なぜでしょう?

想像を膨らませる限り、
この作品に終わりはありません。


❸3月16日に鑑賞してみては?


実は、これが最も伝えたかったこと。


この映画を観るのに最も相応しいのは
公開日すら抑えて【3月16日】ではないか?
と思っています。

ちなみに3月16日が金曜日に当たったのは
最近で言うと2018年、映画公開前。

そして次回は2029年…
待つにはちょっと長過ぎますね…


ということで、2025年の3月16日も
ご覧になってみてはいかがでしょう?



91年前、3月の第2週に発生した"嵐の雲"は
チェリーツリーレーンのバンクス家を飲み込み
最悪の1週間をもたらしました。


彼らが刻一刻と迫る3月16日の期日までを
どのような気持ちで過ごしていたか。


そしてメリー・ポピンズがどれだけ計画的に
バンクス家の幸せを取り戻そうとしていたか。


より深く彼らの想いを推察することで、
また新たな発見に繋がるかもしれません。


以上、
【バンクス家、最悪の1週間】
にまつわる考察でした。

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