ジェンダーギャップ指数が低い理由と改善策(その1)
ジェンダーギャップ指数における日本の順位が低いことをもって日本において男女差別があることの根拠とする見解があとを絶ちません。しかし、特定の集団間において特定の指標に格差があることは、その社会において当該集団間に差別的な制度・構造等があることを意味しません。当該集団間に能力や意欲等に差があれば、結果としての指標に格差が生ずるのはやむを得ないからです。例えば、ニューヨーク市内の市立高校の2018年の卒業生の大学進学率については、アジア系が80.5%、白人が73.4%、黒人が55.9%、ヒスパニック系が54.1%だったわけですが、この数字を見て、大学進学に関してアジア系住民が制度的に優遇されているという見方をするのはおかしいのです。
そして、当該指標格差が、その社会の差別的な制度・構造等に起因しているのか、当該集団間の能力・意欲等に起因しているのかを見定めることは、当該指標格差が人為的に解消すべきものかを見定める上で重要ですし、当該指標格差をどのように解消すべきかを模索する上でも重要です。
ジェンダーギャップ指数においても同様のことがいえます。ジェンダーギャップ指数において日本の順位を引き下げる要因となっているのは、①国会議員における男女比率、②地方自治体の首長における男女比率、③企業等の管理職における男女比率です。
①②③とも、現代日本においては制度的な男女間格差はありません。男性にも女性にも等しく選挙権、被選挙権が与えられており、有権者の数は女性の方がやや多いというのが実情です。
では、女性の方が立候補しにくい構造があるのでしょうか。
令和3年10月の衆議院選挙における立候補者の女性比率は17.7%、当選者の女性比率は9.7%です。この立候補者の女性比率よりも当選者比率の方が大きく下回る現象は、平成2年2月の衆議院選挙から一貫しています。民主党が大きく議席を伸ばした平成21年8月の衆議院選挙ですら、立候補者の女性比率16.7%に対し、当選者の女性比率は11.3%です。
また、令和3年10月の衆議院選挙について見ると、立候補者の女性比率→当選者の女性比率は、自由民主党で9.8%→7.7%、立憲民主党で18.3%→13.5%、公明党で7.5%→12.5%、日本維新の会で14.6%→9.8%、国民民主党で29.6%→9.1%、日本共産党で35.4%→20.0%です。票読みが的確で落選者率が極度に低い公明党以外、軒並み立候補者の女性比率よりも当選者の女性比率の方が低いのが実情です。これを見る限り、各政党とも、むしろ有権者の意識を超えて女性候補者を多めに擁立しているといえそうです。
では、なぜ、日本では、女性候補者の当選率は低いのでしょうか。
令和3年10月の衆議院選挙における主要6政党の小選挙区における立候補者と当選者の男女比率を見る限り、小選挙区における弱さが目を引きます。公明党はそもそも女性候補者を小選挙区では擁立していませんし、日本維新の会は、小選挙区での女性候補14名、全員落選です。
ではなぜ、女性候補者は、小選挙区において弱いのでしょうか。
小選挙区の場合、幅広い有権者から支持を集める必要があります。そうすると、女性候補者にありがちな「女性の声を届ける」という自己の役割設定が却って徒になりがちです。男性有権者にとっては無意味な話です。また、そこでいうところの「女性の声」がしばしば「高学歴かつホワイトカラー労働に従事している女性の声」に過ぎなかったりするので、それ以外の女性にとっても無意味だったりします。なので、女性候補者が「女性」の代弁者であることを強調すればするほど、小選挙区での当選は難しくなります。
逆に言うと、小選挙区での当選を重ねている女性議員の多くは、女性の代弁者であることをあまり強調しません。例えば、稲田朋美先生も、野田聖子先生も、女性の代弁者であることをあまり強調しませんし、(前回は落ちましたが)大阪で孤軍奮闘してきた辻元清美先生も女性の代弁者であることをあまり強調しません。
これは、小選挙区である自治体の首長選挙についてもいえることです。小池百合子都知事も、女性の代弁者であることをあまり強調しません。
では、女性の代弁者たろうとする女性が小選挙区で当選しにくいという現状は「女性差別」的な構造かといわれると、そうではないということになります。有権者が自己の利害を最優先させて投票行動を行うことは当然のことですし、そもそも国会議員は「全国民の代表者」であるというのが憲法上の建前なので、全国民のうちの一部に過ぎない「女性の代弁者」になろうという人たちを有権者が避けるのは当然だからです。
以上の点からすると、日本のジェンダーギャップ指数順位を引き下げる要因の1つである国会議員の男女比率を改善するためには、国会議員になろうとする女性が、女性の代弁者たろうとすることをやめることが有益だという結論になりそうです。
なお、国会議員の女性比率を高めるためにしばしば提唱される「クォータ制」ですが、小選挙区制との相性が絶望的に悪い上に、国会議員を「全国民の代表」と位置づける日本国憲法との相性も最悪です。