死刑廃止と被害者の権利
弁護士会の死刑廃止決議に反対する弁護士たちの発言を読んでいて一番わからないのは、死刑制度があることで犯罪被害者またはその遺族にどんなメリットがあるのか、逆に言えば、死刑制度が廃止されると犯罪被害者またはその遺族にどんなデメリットが生ずるのかと言うことです。
死刑制度を廃止すること、あるいは、具体的な事件において被告人に死刑判決以外の判決を下すことが、被害者ないしその遺族の人権をないがしろにするものだというのであれば、被告人を死刑とし判決確定後これを処刑することによって、被害者ないしその遺族のどのような権利ないし利益が生じまたは維持されるのかを説明する必要があると思うのです。
それが具体的に提示されれば、それは被告人を死刑とし判決確定後これを処刑しなければ実現できないものなのか、完全な実現は無理としてもある程度代替的な権利ないし利益を被害者またはその遺族に提供できないものなのかという検討が可能です(人命は重大なので、被告人を死刑としこれを処刑することによって実現する権利ないし利益と同等ないし匹敵する権利ないし利益を実現する他の手段が存するのであれば、後者の方法によるべきと言うことになります。)。
また、被告人を死刑としこれを処刑することによって実現する権利ないし利益がどのようなものなのかが具体的に提示されれば、それが被告人の命を奪ってまで実現する価値のあるものなのかという議論が可能です。
で、仮にそれが、被害者ないしその遺族の怒りを鎮めるということだとすると、それは、被告人の命を奪う理由としては弱いように思うのです。感情と命との利益考量になりますから。さらに言えば、死刑制度がなければ、刑罰のもつ、被害者の怒りの鎮静効果は実現できないのかということも問題となり得ます。その社会において被告人に科され得る最も重い刑が科されると言うことで被害感情が鎮静するのではないかという問題です。欧州を中心にすでに死刑が廃止されている国は多く、米国においては週ごとに死刑制度が残っていたり廃止されていたりするのですから、それは死刑でなければ実現不可能なのかということは、実証的に検証することが可能だと思います。
そういう意味では、死刑制度存置論者は、国家権力に人の命を奪う権限を引き続き付与しようという話をしている割には、その根拠を空虚な感情論に置きすぎだと思います。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?