決行した場合のリスク?
「芸能人の権利を守る団体 ERA」共同代表理事を務める佐藤大和弁護士が次のように述べています。
現在、契約段階で中止条項を検討していなかったため、ライブ中止に伴う高額なキャンセル料が発生するアーティストらが多数いると思う。そのなかで高額な負担を避けるため、ライブを決行せざるを得ないアーティストらもいると思われる。ただ、決行した結果、感染が発生した場合には法的なリスクもある。
https://twitter.com/yamato_lawyer/status/1234120527582617602
しかし、アーティストらがライブを決行したところ、観客の中に新型コロナウィルスの感染者が混じっていたために、他の観客が感染してしまったとして、アーティストに損害賠償責任が発生する余地があると思われません。
飛沫感染や接触感染するウィルス等の病原体って、新型コロナウィルスに限られたものではありません。風邪のウィルスやインフルエンザウィルスなどもそうです。私たちは、他人と接触したり近接したりする場所に赴く場合には、常にそのような病原体に感染するリスクを負っており、その中で自衛策を講ずることが求められています。そして、これらのウィルス等の保有者を識別してその入場等を排除する方法が確立されていないので、場の提供者に、当該場所からこれらのウィルス等の保有者の入場を排除する義務は課されていません。
また、風邪のウィルスやインフルエンザウィルス等を根絶する見込みが立たないので、これらのウィルスが根絶されるまでの間、当該場所からこれらのウィルス等の保有者の入場を排除できない場の公衆への提供を中止または延期する義務も課されていません。
すると、ライブの主催者と入場者との間に、ライブ提供契約の付随義務としての安全配慮義務を一応認めることができるとしても、特定のウィルスが根絶されておらず、他の入場者の中に当該ウィルスに感染している者が含まれているという抽象的な可能性を予見することができたとしても、この者の入場を排除しまたはライブ自体を中止して他の入場者への感染を防ぐ義務までは認められないということになります。
もちろん、当該会場で行われるライブで通常期待される程度の感染拡大防止策が講じられていなかった場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性がありますが、そのような感染拡大防止策を講ずる責任は通常アーティスト側ではなく会場側にあるように思います。