今昔酒物語 -マジェスティックホテル-
ベトナム ホーチミン1区 サイゴン川沿いにそびえ立つホテル。マジェスティックホテル。その名の通り雄大だ。フランス植民地時代の名残りを残す建築様式。ロココ調とでも言うのだろうか。門構えからいい感じだ。足を踏み入れると、そこはシンプルだが気品、優雅さが垣間見える。いい雰囲気だ。ホテルスタッフの感じも良い。さすがファイブスターホテルである。私自身、ベトナム生活四年に渡る中で、多いとも言えないがそれなりの数のホテルにはお邪魔した。観光客のアテンド、自身のロマンスなどなど、安宿から星付き、多くはホテルにあるバーに酒を飲みにいくのがメインだったのだが。ベトナムで日本人バーテンダーとして日本人街で働いていた私は、ホテルのみならず屋上で飲み食いができる店が多いことを知り、そこから色んな店、建物の屋上にある飲食店に魅せられ、休みの日、観光案内、デートなど色んなシーンでベトナムの屋上飲食店に行く事になった。その中でもやはりバーだ。そしてここマジェスティックホテル。新館と旧館に分かれているのだが、ぽっと出の方達などは新館に行かれるのであろう。いやはや愚か。私などになっとくると、もう嗅覚、感覚、アンテナが旧館だと囃し立てる。(たまたまテキトーに右に行っただけなのだが)まぁ新館には一度行ったことはあるのだが、その後は旧館ばかりである。
ちなみに四年間ベトナムライブにおいてマジェスティックホテルのルーフトップバーには何時行ったか覚えていないくらい行っている。何故旧館なのか。そうここベトナム、そしてホーチミン1区、雑多なのだ。猥褻なのだ。まぁ所どころ、少ないながらも静寂ももちろんあるのだが圧倒的にやかましい街なのだ、まずバイクの数、クラクション、喧騒、騒音、四方八方から飛び込んでくる様々なジャンルの音楽。それはそれで十分にベトナムらしく楽しめてはいたのだが。そんなホーチミンだが、一言でいえば-活気-がある。である。平均年齢が私と同い年との話である。それとホーチミンの人たちは老若男女問わず、みんなサイゴンと呼んでいる。サイゴンなのだ。サイゴン陥落のサイゴンなのだ。まず思い浮かぶと言えばベトナム戦争。ベトちゃんドクちゃん、フォー、コーヒー、美女、、、等々色々あるのだが。昭和最後生まれの著者くらいの持ち得る情報などそれくらいまでのものであった。しかしその地で暮らしていると、新たな発見、驚き、感動、恐怖、不安なども見えてくる。海外で暮らす経験をした事がない、著者にとってはそれはそれ日々驚きの毎日であった。外国人と言う立場、言葉もほぼわからない。そんな中ではあるが、暮らしてみるとなんとかなるものだ。時にはその暮らしに馴染めなかったりする人もいる。お客さんの半数は日本人、残りの半分は欧米人とベトナム人でというお店でいた私。若さもあったと思うが、ほぼ良い記憶しかなく、本当に楽しい四年間を過ごせたと思う。とまぁ話をマジェスティックホテルに移しましょう。
何故このホテルのルーフトップバーがいいのかと言うと、先にもすこし述べた様に日頃は、常夏のサイゴン、雨季と乾季のサイゴン、けたたましいバイクの音、クラクション、怒号、笑い声、基本的にやかましいのだ。それと違いマジェスティックホテルの旧館のバーは無音なのだ。下からバイクの音などは多少聞こえてくるのだが、喧騒かり完全に逃れられているのである。エレベーターは降りて左手に、少し弧を描きながら進むと、バーカウンターがある。私が行く時はあまり他のお客さんを見た事がないが、それでも綺麗に整えられたカウンターがあり、ベトナム人のバーテンダーがにこやかに微笑みながら迎えいれてくれた。それでも私はそこをスルー。カウンターを抜けると屋根のないスペースに出る。さらにそこをもうひとスルー。もちろんカウンターに座ってもよし。その屋根なしスペースでもよし。しかしそこを抜けるとー。もう一つ小さな階段見えてくる。そこを登るとテーブルが一つ、椅子が四脚おいてある。周りから見れば小高い白い塔みたい感じだったと思う。オーダーする時は少し声を出さなければならないのだが、そんな事はあまり気にならないくらい、いい感じの空間なのだ。何時か日中に来た事もあるのだが、やはり夜がいい。ここに来るまでの熱気、多少の疲れそういったものから一気に解放される感じがするのだ。涼しい風が吹き、目の前にはネオンを写した汚いはずのサイゴン川がひかり輝いてみえる。思うはずだ。ここが都会のオアシスだと。
そんな場所で飲む一杯は美味いに決まっている。そう。もう慣れている私は手前のバーカウンターで各自のドリンクをオーダー済みなのである。普段は飲まないであろう、トロピカルカクテルを頼むのである。モヒートが大人気だったが、私はいつもサイゴンスペシャル。中身はありきたりなリキュールにクラッシュアイスにカットパインが刺さっている王道スタイル。まぁ味はさておき、言いたいだけなのである。みんながあれこれ悩んでいるうちには私はサッと発音良く、サイゴンスペシャーと頼む。なにそれ?とみんな聞いてくるが、サイゴンスペシャーと答える。ここでサイゴンスペシャーを飲まずに何を飲むのでござるか。ミーハーな私はもちろんのこと期間限定ものに弱く、ご当地品が大好きなのだ。まぁカクテルだからだいたいは甘いものになるのだが、ご愛嬌。この空間のマジックにかかればなんだって合うのだ。それくらいに私にとっては大好きな場所であった。マジェスティックホテルのルーフトップバー。みなさまもベトナム、サイゴンにお立寄りの際は寄ってみるとよろしい。くれぐれも新館とお間違えのない様に。私自身、ベトナムにまた行く機会があれば必ず立ち寄ろうと思う場所である。