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[ep.7]3CP pt.2 "Shotgun"

【今回のあらすじ】
キーマンとなり得る方との出会いを果たします。そして3CPは終了の時刻を迎えました。

【前回までのあらすじ】
[ep.6]3CP pt.1 "Incident"
3CP「川湯ふるさと館」に続々と徒歩参加者が到着します。そして私は誤った誘導看板を設置してしまう重大なミスを犯しました。

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路の実行委員である私・便艦(べんかん)が「運営・サポートスタッフ」として、何をして何を感じたかを主観的に書き記すことを試してみるものです。


●クマ(のような姿)の出没証言

18:00を過ぎた後、サポートLINEは活発に投稿が繰り返されます。リタイアされた方が出たこと、CP(チェックポイント)で忘れ物があったこと、CPに移動する予定の荷物が本部の川湯ふるさと館に残っていることなど、縦横無尽に言葉が飛び交います。夜の帳が下りてから運営・サポートスタッフが忙しくなってくるのは毎回のことです。

そんな中、今年も悩ましい問題が襲い掛かってきました。徒歩参加者から本部宛に電話がかかってきます。

美留和とは、3CP「川湯ふるさと館」を少し過ぎて4CP「美留和(びるわ)会館」の界隈です。コース距離だと60~70kmくらいの地点と想定されるでしょうか。ゆくゆく確認してみたところ、実際には「クマのような動物の影が森の奥に走っていくのが見えた」という説明が正しかったようです。それでも目撃した徒歩参加者からしたら非常に肝を冷やしたことでしょう。

気候や環境の変化に因るものなのか、ここ数年はクマの目撃情報が相当増えています。今年の5月にも弟子屈町内でのクマ出没がニュースで取り上げられていました。(この時の出没先はOTS砂湯~コタン温泉付近と思われます)

実際にクマか出没したかどうか最終的には結論付けられるものがなかったのですが、改めて徒歩参加者に夜間歩行を絶対に1人では行わずに必ず複数名で歩いていただくよう依頼することになりました。加えて、徒歩参加者がクマの被害に逢わないようにコース内の巡回スタッフを増員しましたが、幸いにも大会終了までの間、クマの姿を目撃したという報告はありませんでした。

昔、地元の方から聞いた心に残っている話があります。「クマが人間の前に出没するのではなく、人間がクマの生活エリアに踏み入っている」といった内容だったと思います。アイヌのイタク(言葉)で「イヨマンテ」や「カムイホプニレ」というものがあることを何となく知っていましたが、クマは狩猟対象でもあり神の使いとして敬畏の対象でもあるそうです。野生動物と人間との共存は、複雑なジレンマを抱えながら結論を先延ばしにせざるを得ません。

●共通のカルチャーを共有して果たした邂逅

先頭の方が19:02に6CP「摩周第一展望台」に到着したという連絡が来ました。受付開始時間は19:00ですので、これは想定内の時間設定でした。

そして1つ前の5CP「レラ摩周」からは、暴風が吹き荒ぶ動画が送られてきました。

レラ摩周とは摩周湖の麓にある宿泊施設です。前回2019年大会までは「風曜日」という名前のユニバーサルデザインを取り入れた宿泊施設でしたが、経営母体が変わり名称も変更されました。

私がいる3CP川湯ふるさと館は、19:50までに残り4名の到着を待つのみです。館内にはリタイアされた徒歩参加者が満身創痍の雰囲気で、無意識ながらも休息を取ることに勤しんでいるように見えました。

徒歩参加者が来ない間は、私はコントロールセンターに座って相変わらずPCに正対しています。他のスタッフは入口の正面に見る場所に置かれた別のデスクに座って、私の背面の位置で徒歩参加者の到着を待っています。

その背面の方から、事務局炭田さんと地元サポートスタッフ1名が話している内容が漏れ聞こえてきました。フックとなったのは事務局炭田さんが発した「スーパーササダンゴマシンが…」という単語です。この大会で、その名前を知る人が他に居ようとは!失礼ながら2人の間に割って入り、その話をしていた経緯を問い質しました。スーパー・ササダンゴ・マシン氏の詳しい説明は省きますが、ラジオカルチャーで事務局炭田さんと共通の趣味を持つことを知ったことには大きな喜びを感じました。

加えて地元サポートスタッフ1名の方からは、私が好きなスポーツ競技の選手名が口にされ、これにも心からの喫驚と愉楽を禁じえませんでした。図らずも2人の会話へ強引に加わったことは、今大会の私の取り組みを大きく決定づける出来事になったといっても差し支えないでしょう。無事に地元サポートスタッフの方とも打ち解けることが出来ました。この方の名前はトレジャー後藤氏とでもしておきます。

●3CPに最後尾グループが到着(20:04)

20:02~20:04にかけて、最後尾グループが3CP川湯ふるさと館に到着しました。17:54に砂湯付近を歩いていたという情報から割り出した到着時間予想は「20:01ごろ到着」でしたので、到着時刻の誤差は+3分となりました。概ね想定の範囲内でしたね。

今までのCP全てて最後尾を歩くゼッケン46番さん

詳しいことはまだ控えておきますが、最後尾を歩いている46番の方はこの大会に複数回参加していただいており、最大限の感謝と敬意を払って申し上げますと「この大会のmania(メイニア)の方」です。この方が本大会において私の感情を極彩色に彩る一助をしたことは、もうしばらく先の話です。

3CPのクローズ時間は22:00でしたので、2時間近く早い時間で到着したことになります。コースの時間割を決定するときに最後尾の予測徒歩速度は相当緩めに設定したのですが、それでも全員がタイムアップにならずに到着できたことを喜ばしく思います。ただ今回は気温が低いことと湿度が高いために歩きやすかったと考えられるので、気温が高かった場合はもう少しペースが遅くなっていたかもしれません。過去のデータより寒いよりも暑い方が、ペースが遅くなる傾向が出ています。

最後尾グループの4名は、しばらく3CPで休憩してから出発するとのことでした。後半戦に向けて、十分に英気を養って出発してほしいと願っています。

●看板を設置、トレジャー後藤氏を添えて

巡回スタッフから、サンエナジーの交差点に右折の矢印と誘導灯を置いてほしいという指示が入りました。本来看板を設置しなければいけないスポットでしたが、何らかの原因で設置されていなかったようです。

赤丸の部分に右折「→」の誘導看板を設置しなければならない

本部には事務局炭田さんやトレジャー後藤氏の他にも2名ほどスタッフがいるので、私が設置しに行くことにしました。夜間は誘導看板が見づらくなるので、工事現場で使うような大き目の矢印看板、LED誘導灯をセットにして設置するルールと決めていました。

LED誘導灯と矢印看板のセット。実際にはLED誘導灯は点滅している

外に出ると、また霧雨が降り始めていました。雨雲レーダーを見てみたのですが、雨雲がかかっている様子ではありません。雨雲レーダーと実際の天気に乖離が生じている現象は初めての体験でした。

サンエナジーは、川湯ふるさと館から車で2~3分程度の場所にあります。移動と設置をしても10分くらいで終わるでしょう。事務局炭田さんと私の考えで、看板設置にトレジャー後藤氏に同行していただくことにしました。4時間の滞在とはいえ、ずっと屋内にいるのも飽きてしまうでしょう。短い距離、短い時間ではありますが、外に出ればリフレッシュしてもらえると考えました。

霧雨の中、駐車場から川湯ふるさと館の入口に車を移動し、誘導看板やLED誘導灯を積み込んで、トレジャー後藤氏を助手席に乗せてサンエナジーに移動します。共通の趣味を持つことがわかったこともあり、会話も弾んでいたように思います。

サンエナジーに到着する少し手前で、牛歩ごとく1人で歩いている徒歩参加者を目にしました。徒歩参加者の歩くスピードまで徐行し、窓を開け声をかけて様子を伺います。[ep.6]で記載した通り、安全上の都合により夜間は複数名で歩かなければならないと通達しています。3CP出発時には複数名で歩いていたものの、ペースが合わずに取り残されてしまったようです。我々は本心から「大丈夫ですか?」と声をかけました。先に進みたい気持ちも十分に理解できるのですが、現在の体調やペースが次のCP、その次のCPに至るだけの余力を残したものなのかを自身で判断することも必要です。後ほど後続の徒歩参加者と合流できるくらいのペースに見受けられたので、改めて複数人で歩くように依頼し、その場を後にしました。

サンエナジーに到着し、誘導看板セットを設置します。私が看板を設置し、トレジャー後藤氏が徒歩参加者の歩く位置から看板の見え具合を確認して、位置修正の指示を出します。

サンエナジーの交差点に設置した誘導看板セット

1人で設置することも出来なくはないですが、2人で設定したほうが確実で素早く設置完了することが出来ました。

川湯ふるさと館に帰る途中、先程声をかけた満身創痍の徒歩参加者とすれ違います。後ろから来る徒歩参加者よりも相当遅いペースに思えて、合流してもまた離れてしまうことが目に浮かびました。応援したい気持ちと、ここで肩を叩きたい気持ちと、それらの気持ちを行動として起こすことができない自分に歯痒さを拭うことが出来ません。

●日帰り入浴の受付開始と3CPの受付終了

20:23に先頭が6CP「摩周第一展望台」(82.7km地点)を出発したとの報告がありました。最後尾は3CP「川湯ふるさと館」(56.4km地点)に滞在しており、先頭から最後尾までの距離の差分は26.3kmであることがわかりました。徒歩参加者にGPSを手渡し、誰がいつ何処にいるのかを地図上で把握できるようにならないか検討したこともあったのですが、コスト・重量・セキュリティ等を総合的に勘案した結果、諦めることにしました。

サポートLINEは午前中とは比べ物にならないくらい活発に質問と報告が飛び交います。大会も後半戦に入ってきたことを感じさせる問い合わせもありました。

ゴールやリタイアを済ませた参加者は、川湯温泉足湯前交差点に面している「お宿 欣喜湯」にて仮眠をとったり日帰り温泉を利用することができます。有料ではあるものの一般客に比べて安価に利用できるのは、欣喜湯のみなさまのご厚意、そして本大会を応援してくださる気持ちに因るものです。

日帰り温泉は通常1,000円のところ、大会中は大会参加者向けに特価500円で入浴が可能

本当は案内の紙を綺麗な体裁で印刷して提示するべきなのでしょうが、大会開催ギリギリまで詳細が決まらないという事情もあり、毎年手書きで案内しています。これも次回以降の大会の課題です。

20:15、7CP「摩周湖下り」に先頭グループが到着したとの報告がありました。この辺りは濃霧がひどいようで視界が悪く、巡回スタッフや6CP・7CPへと移動しているスタッフは苦労して移動しているとの報告も受けています。安全に大会を運営するために、濃霧や降雨・風の具合によっては徒歩参加者は最寄りのCPで待機してもらうという選択肢も視野に入れるような状況のようです。

道道52号の様子を鑑みるに、まさに「霧の摩周湖」と読み取れる

3CPでは最後尾グルーブが出発しました。この瞬間を以って3CP「川湯ふるさと館」はクローズとなりました。

これで川湯ふるさと館は少し落ち着く…とはなりません。予想では先頭グループが22:00頃にゴール「川湯ふるさと館」へ到着する見込みのためです。ここから川湯ふるさと館は、徒歩参加者のゴール受け入れを行うこととなります。

これから先頭を迎え入れる8CP「川湯駅前交流センター」は現在1人しかいないので、川湯ふるさと館に滞在していた地元サポートスタッフ2名(トレジャー後藤氏を除く)が8CPに移動して対応してくださることになりました。各CPには最低でも3名いないとうまく運営することが出来ません。

●ゴール準備とゴール幕設置の変遷

21:30、最後のCPである8CP「川湯駅前交流センター」に先頭グループが到着したとの報告がありました。受付時刻は21:30ですので受付開始と同時に到着したことになります。8CPからゴールまでは3.6kmと短いスティントですので、今までのペースを考えたら8CPの出発から30分くらいでゴールに到着する計算です。

事務局炭田さんとトレジャー後藤氏は、ゴール幕の設置準備をしていました。今までは頭上にガムテープ等で不細工に貼り付けて幕を設置していましたが、今年は予てより準備段階から「足元に設置するスタイル」を採用したいと提言していました。

今までのゴール幕の設置イメージ(撮影日:2018年7月7日)
私が提言した新しいゴールのイメージ(出展:JIJI.COM

川湯ふるさと館にあるデスクの幅は、ゴール幕の幅とほとんど同じだったようです。ぴったりのサイズでゴール幕を設置することが出来ました。このゴール幕は2007年から利用しているもので、毎年「そろそろ新しいゴール幕を作りましょう」と検討していながら等閑になり、とうとう16年が経ってしまいました。

テーブルに貼り付けたゴール幕。ゴールした徒歩参加者はこのテーブルの後ろに立っていただく

●最初の徒歩参加者がゴールを果たす(22:05)

最後尾グループがゴールまで残り40.7kmを歩いている頃、22:05に先頭を歩いている2名が、ゴール「川湯ふるさと館」に戻ってきました。お疲れ様でした!

この時から明日のAM11:00までの13時間、ここ川湯ふるさと館は大会本部でありゴール地点となります。3CPを出発した徒歩参加者は100名、全員がゴールしてほしいとは思いません。前にも書きましたが、時にはリタイアという勇断をすることも大切だと考えているからです。大会に対して真摯に向き合えたかどうかが一番大切で、それに伴う結果は大会のプロセスの一つでしかありません。大会が終わった後に「参加してよかった」と思えたかどうかに最大限の興味を持って、これから深夜の常闇を過ごす全参加者の動向に注目していきたいと、改めて気を引き締めました。

[ep.8]両極端の誤算-日が昇るまで に続く