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[ep.17]別れ、そしてひとりきり

【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路 2019の実行委員がリアルに100kmを歩くことを決意し、実行したらどうなるのか?

【前回の記事とあらすじ】
[ep.16]超絶技巧マッサージ/摩周温泉の飲泉
第4CPでマッサージを受けていたら時間が押してさあ大変。第5CPの途中にあるOTS(オフィシャルトイレスポット)の「JR摩周駅」に立ち寄ったら、なんと飲泉があってビックリ!

●23:23、OTS「JR摩周駅」を出発

ここJR摩周駅の建物の右側には足湯もあるのですが、入る時間がないのは当然のこと、マメまみれの足の裏の状態で温泉に浸かるなんてとんでもないので、一瞥してその場を去るほかありませんでした。

摩周駅の脇にある足湯「ぽっぽ湯」。徒歩参加中は入っていません。
撮影日:2019年11月12日

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私がお手洗いに入っている間、あいぼん氏をお待たせしてしまっていました。気を取り直して、第5CP「ピュア・フィールド風曜日」を目指します。

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JR摩周駅から第5CPへのルートは、道道53号を東に向かって国道391号に合流し、道道52号の交差点を右折して摩周湖への峠へと向かいます。

第5CPのクローズ時間が1:00、現時点でだいたい23:30くらい、どんなに遅くとも1時間半で6.7kmを歩く必要があります。

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第5CPから第6CPへの山登りを考えたら、せめて10分でもストレッチの時間を作りたいものです。それを考えたら、歩く速度は時速5.4kmが望ましいと言えます。これは、足のマメの痛みと足の疲労を考えたら、相当チャレンジングな徒歩速度と思えました。それでも、今の我々に出来ることは前に進むことだけです。前に進めないのなら、その時点でこの大会への参加はリタイアするしかないのです。

道道53号の跨線橋を渡る時に、暗闇の線路をキハ54形気動車500番台が右から左に進んでいきます。こんな時間にも走っているものなのか?回送か何かか?とあいぼん氏と話していました。車内は数名程度が見受けられた気がします。

この時間に通過した列車について後々調べてみたら、釧路駅22:16始発→摩周駅23:31終点の最終列車(列車番号:4738D)のようです。摩周駅が終点ということは、乗客は摩周駅で降りた後に、摩周駅で休んでいる徒歩参加者やねぎぽぽ夫妻を見て驚いたのではないかと憂慮しました。

国道391号に合流し、地元警備会社「ユーカラ警備」さんに誘導されて右側の歩道を西に進んでいきます。普段であれば気にならないような緩い勾配が、少しだけ山道のように感じられます。

少し進んだ時に、JR摩周駅のお手洗いでお会いした徒歩参加の奥野氏がいました。自分のペースを崩したくない一心で、恐縮ながらも先を急がせていただきました。

その直後に、あいぼん氏から声をかけられました。

●相棒、あいぼん氏との別れ

徒歩参加の奥野氏の前に出させていただいたタイミングと同じくらいの時に、あいぼん氏が口を開きました。

「自分は、ちょっとこれが精一杯かもしれません。自分のせいで第5CPでタイムアップになってしまうのは本意ではないので、先に進んでください」

測ることの出来ない寂寥感に襲われます。ひとときの逡巡も、結論が袋小路に突き当たることを繰り返して、うまく思考が働きません。優先順位は何が一番高いのかを決めかねます。逆説的に言えばむしろ、その時点で自分の腹は決まっていたのかもしれません。

第5CPのタイムアップが1:00よりもしばらく後だったなら、先に行くなどということは考えもしなかったでしょう。しかし現実的に考えて、このままのペースでは第5CPでタイムアップにはなりませんが、休憩出来ずにその先へ進まないといけないことを考えると、このままのペースでは厳しいとも思います。

「わかりました、第5CPで待っていますので、お気をつけて」と、私はあいぼん氏に伝えました。

歩く速度を一気に速めました。後ろは振り返りませんでした。両手で力強く杖を突きながら、前だけをじっと見つめて勢いよく進み始めました。

●伝えられた距離の誤差を己が持つ慰撫の心で埋める

まずは第5CPに早く到着しなければならないという思いに駆られて、息もあがるほどに、全力で前に歩いていきました。ローソンがある交差点を右に曲がるのですが、この時の記憶がほとんどありません。心に迷いが無いというのは、この時のような状態を指すのでしょうか。

息が上がるくらいに歩いているので、かなり喉も渇きます。JR摩周駅で買った麦茶をポケットから出してキャップを開け、口に浴びさせるような形で乱暴に飲みます。服が濡れていますが、麦茶で濡れたのか、汗で濡れたのかわかりません。

道道52号、摩周湖に向かう道の交差点に差し掛かりました。ここには「セイコーマート やまな店」があります。今までは24時間営業だったのですが、大会開始より事前に最近0:00閉店と時短営業になったと聞いていました。開いていれば飲み物を買いたかったのですが、窓から見える店内は明るくなっているものの、入口のシャッターが閉まっていました。つまりは、この場所を以って7/6から7/7に日付を跨いでいたのでした。

この交差点で2名のサポートスタッフがいらっしゃいました。笑顔で応援しながら「あと2kmで第5CPですよ!」と説明してくださいました。

応援と情報をいただけたことに感謝の気持ちがありながらも、ふと「第5CPまで2kmで着くのか?」と疑問に思いました。いや、そんなに近くなわけがない、念のためスマホで実際の距離を測ってみました。

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うむ、やはりそうか…。セイコーマートやまな店から第5CP「ピュア・フィールド風曜日」までは2.9kmの距離がありました。一瞬自分の中の邪念が「この状態での+900mの誤差は致命的だ、何ということだ」と攻め立てますが、これはスマホで調べてみたためにわかったことでもあります。

知らぬが仏というのも少し違う気もしますが、実測値を知らずに進んでいたなら幸せなこともあるのでしょう。また、いつ来るかわからない徒歩参加者を暗闇の中で待ち続けるサポートスタッフの大変さは、何よりも自分がよくわかっていたはずです。

この件の本質は、誤った距離を説明してしまった罪ではなく、少しでも徒歩参加者の力になりたいと思うサポートスタッフの思いこそを斟酌することこそが、誰もが幸せになれる方法なのでしょう。

●第5CPに向けて、ラストスパート

道道52号に入ってすぐに、青看板での距離の表記があります。

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単語と距離は目で見られるのですが、第5CPの着くことが頭の中を支配していたせいで、この地名と距離がどのように作用するのかを判断出来ませんでした。どのような意図で写真に収めたのかも覚えていません。

この道路には電光掲示板の気温表記があります。0:14の時点で14℃でした。

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繰り返しとなりますが、息もあがるくらいに全力で前に進んでいたせいで、14℃とは思えないくらいに蒸し暑く感じていました。

実際、このあたりに差し掛かってから靄が出始めてきたようです。私の黒いツナギと顔面が、靄と汗で混ざっていくことを感じます。

スパートをかけているためか、歩道がある道ではあるものの少し斜めの勾配があり歩きづらさを感じ、歩道ではなく車道の白線の外側を歩くようにしました。たまに小石が靴に入るのがストレスです。

歩けど歩けど、第5CPが見えてくる気配がありません。暗闇の中に一人残されているような感覚です。果たして、歩いているこの道の先に第5CPは在ってくれるのか?靄のかかる暗闇の中を、息を弾ませて、足の痛みに耐えながら前に進みます。スマホで現在地と第5CPの感覚を確認すると、進む道は間違っていません。距離も少しずつ縮めてきています。

暫く進むと、前方にぼんやりと明かりが見えてきました。それでも、自分のイメージしているよりも、なかなか明かりが近づきません。

必死に前に向けて足と杖を勧めていきます。路面を突く竹杖の音は、あいぼん氏と私への、慰みの音色のように聞こえてきます。

靄が深かったためなのか、突然のように第5CPの入口が顔を出しました。コース上で何度も顔を合わせている、地元本部スタッフの佐々木氏がタイムチェッカーの場所へと誘導します。道道52号から左に入っていき、ピュア・フィールド風曜日の敷地内へと進んでいきます。

●0:42、第5CP「ピュア・フィールド風曜日」に到着

建物の入口には、地元本部スタッフの上村氏がタイムチェックを行っていました。佐々木氏との再開もそうですが、顔見知りに会えると、少し安心した気分になります。

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クローズ時間が1:00と、あと20分足らずのため、フロアは片付けが始まっていました。第3CPのときには片付けが始まっていて残念に思っていたのに、今の自分には、片付けが始まっていることは瑣末なことでした。

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とりあえずは、敷かれた布団に着座させてもらいます。座った瞬間に、風曜日のサポートの方が「カレーパンいかがですか?」と訪ねてこられました。

カレーパンと言うと、サクサクの茶色の揚げパンを想像しましたが、目の前に出されていたのは、ロールパンの中心部を縦に切ったところにカレーを注いだものでした。私が一般論に基づいて名前をつけるのであれば、それはカレーパンではなくて、「カレーロールパンサンド」です。

写真を取り損ねてしまいましたが、イメージとしてはこういうものでした。

せっかくですので1ついただきました。息を切らすほど必死に歩いて筋肉を酷使してきた身体に対して、優しく美味しさが広がります。

その後、あれこれと飲食のご提案を頂いたのですが、オーバーペースで歩いてきた疲労と、途中で別れたあいぼん氏を案じていたために、申し訳ないのですが一旦全てを断りました。心身に余裕がないことが、どれだけ周りの人たちの期待に応えることが出来なくなることかを思い知ります。

●「ピュア・フィールド風曜日」とは?

ところで紹介が遅くなりましたが、このチェックポイント「ピュア・フィールド風曜日」は、摩周湖に向かう峠道の手前に位置しているホテルです。

ユニバーサルデザイン(UD)を特徴としており、一般の方はもちろんのこと、ハンディキャップを持たれた方や、高齢で身体の自由がきかない方にも安心して滞在が出来る宿泊施設です。そのため、施設内は手すりが設置されていたり、数cmの段差すらも無いフラットなフロアになっているのが特徴です。

数年前より本大会のチェックポイントとして利用させていただいているのですが、私が屋内に入るのは、今回が初めてです。状況が状況ではあるものの、非常に興味深く屋内を観察させていただきました。

●1:00、タイムリミット

セルフストレッチを施しながら、あいぼん氏をはじめ、後から来る参加者を待ちます。

私は、JR摩周駅から第5CPまでの6.7kmを約1時間20分で歩きましたので、平均時速が約5.1kmで歩いたことになります。これは、第3CPを越えてからのペースを考えると、あまりにもオーバーペースでした。

あいぼん氏もさることながら、第4CPを出てから追い抜いた方々は、果たしてここのタイムリミットに間に合うのか、心配で胸が痛くなってきました。

地元本部スタッフの佐々木氏が何度も外を見に行きますが、コース上に徒歩参加者のライトが見えないと話しています。私は、サポートリーダー向けのMessengerに、身を切る思いで以下の投稿をしました。

「風曜日、タイムアウト10名弱発生しそうです」

そしてついに、私の携帯電話の時計の時刻が1:00となりました。

[ep.18] 濃霧の摩周湖、黎明 につづく