[ep.8]両極端の誤算〜日が昇るまで
【今回のあらすじ】
何だかTwitterやお腹の調子がおかしくなってきた頃、徐々に空が明るくなってきました。
【前回までのあらすじ】
[ep.7]3CP pt.2 "Shotgun"
最後の徒歩参加者が3CP(チェックポイント)を出発し、先頭の徒歩参加者がゴールを果たしました。私は初めてお会いした地元サポートスタッフとの邂逅を遂げます。
【メインテーマ】
100km歩こうよ大会 in 摩周・屈斜路の実行委員である私・便艦(べんかん)が「運営・サポートスタッフ」として、何をして何を感じたかを主観的に書き記すことを試してみるものです。
●ゴール受付の動き、来たる瑞祥
最初の徒歩参加者2名のゴールを迎えたとき、ゴール地点「川湯ふるさと館」のサポートスタッフは3名(事務局炭田さん、トレジャー後藤氏、私)しかいませんでした。これは毎年の宿命でもあります。現在は4CP(チェックポイント)・5CP・6CP・7CP・8CP・ゴール・巡回という7つの役割を、限られた人員で運営しなければならないので致し方のないことでもあります。本当はゴールされた徒歩参加者全員に絶え間ない称賛の声と拍手を捧げたいのですが、ゴールされたことをささやかに祝います。
ゴール地点でのサポートスタッフの仕事は以下の通りです。
ゼッケン番号の写真を撮影してLINEに投稿する(私・便艦)
徒歩参加者到着時刻を紙に記録 ※LINE投稿に不具合が生じた際の予備作業(事務局炭田さんまたはトレジャー後藤氏)
完歩賞(小さい賞状みたいなもの)に到着時刻を書いて渡す(事務局炭田さんまたはトレジャー後藤氏)
ゴール幕の後ろに移動してもらい、ゴールの写真を撮影する(便艦)
出発前に預けた荷物を返却する(3名のうち誰か)
休めるところを案内し、飲食物を自由に召し上がっていい旨を説明する(事務局炭田さんまたは便艦)
ポットのお湯を補充する(便艦)
徒歩参加者がゴールしたときに一気に忙しくなるのがゴール地点の特徴であり醍醐味です。かつてはサポートスタッフも今までより人数が多かったので、巡回スタッフが小休止のために本部に立ち寄ったりしたため、今よりは少しだけ賑やかだったように思います。今年はとにかく各配属先にて慢性的に人員が足りていないと感じました。
そういえば、最初の徒歩参加者がゴールした時点で22:00を回っていましたので、そろそろトレジャー後藤氏も帰らなければならないでしょう。どうにか事務局炭田さんと私でヒーヒー言いながらゴールされた方の対応をしなければならないと覚悟を決めていました。
そんな中、僥倖に遭遇します。なんとトレジャー後藤氏が、この先もゴール地点に残ってくれるというのです。これは大変喜ばしい申し出ではあったものの、事務局炭田さんと私の間では「初めて夜通しのサポートを行う」という点が懸念事項と捉えていました。しかし実はトレジャー後藤氏は過去にこの大会に徒歩参加しており、7CP「摩周湖下り」ではリタイアを決断したものの、夜間歩行の経験があることがわかりました。それであれば多少は「過酷な深夜のお仕事」を任せても大丈夫でしょうか。本人の意思と体力を最優先とした前提の下で、協力できる範囲で本部サポートスタッフを担ってもらうことにしました。
川湯ふるさと館に6名がゴールを済ませた頃、遠隔サポートを担っているドロンジョ様から少し休憩したいとの連絡がありました。ミスだらけの私なんかよりも余程この大会をコントロールしてくださっていますので、せめて休めるときに休んでもらいたいと思います。ところで、LINE画像を元にしたタイムチェックの記録一覧作成を、ドロンジョ様は全てスマホで行っていると知り、非常に驚きました。何という体力たるや!
ドロンジョ様が休憩している間、私は各CPで到着した参加者の時刻をGoogleスプレッドシートに登録していきます。私はPCを操作しているので苦労しないですが、スマホでこれをやるなんて…自分にはやれる気がしないだろうと、スタート直後に感じたドロンジョ様への尊敬の念を改めて感じることになりました。その後ドロンジョ様は23:33に復帰しました。
●美留和(びるわ)とは
時刻が0:00を回り、日付も7月2日となりました。これまでにゴール地点には14名の方がゴールを済ませています。さすがこれだけの早い時間にゴールされることだけのことはあり、見る限りはとても100kmを歩ききったようには見えないくらい元気な様子です。ゴール後の歓談や飲食を楽しんでいました。
日を跨いで間もない0:03に、最後尾グループが4CP「美留和(びるわ)会館」に到着したと報告がありました。最終受付は1:30ですので、余裕をもって到着されたことになります。
そう言えば、今まで4CPの美留和会館について何の説明もしてこなかったですね。私には美留和会館が何の建物なのかよくわかりません。公民館みたいなものでしょうか。Youtubeにて美留和会館で行われたイベントについて紹介している動画がありました。動画では中の様子を窺い知ることができます。
さらに、少し歩いたところに「摩周湖の伏流水」を採水できる場所があります。街灯がないので、夜間の採水は少し手間がかかりそうです。
美留和の地域をコースに組み込んだのは今年の大会が初めてです。昨年行われたウォーキングイベントにてCPとして設定され、その知見や経験が生かされて今年の大会のCPに設定されることとなりました。
個人的に美留和という地域は思い出深いところです。初めて弟子屈町に足を踏み入れた日にJR美留和駅に立ち寄り、素敵なデザインの駅だと殊勝な想いに耽った経験があります。
●大会も後半戦、あれとこれとこれとあれと
大会が後半戦を迎えた頃、不定期に各CP・ゴールの到着人数をサポートLINEに投稿することを決めました。前後に何名の徒歩参加者が滞在し、あと何人が各CPに到着する見込みなのかを把握できるようにする狙いがあります。どのくらいこの情報が役に立っていたのかはわかりませんが、あと何人の徒歩参加者が各CPやゴールに到着するのかを把握する判断材料になればと考えています。
この投稿を始めるあたりの頃、入口に来訪者が現われました。私には存じ上げない方で、どうやらサポートスタッフや巡回スタッフには見えません。両手にビニール袋をぶら下げてきたその方は「これ、差し入れです。夜遅くまで本当にお疲れ様です。」と話し、飲料や軽食を我々に渡しました。少し硬めの表情ながらも淡い笑顔でお話しする姿が印象的です。この方については後々、今回大会に参加されている地元参加者の知人ではなかろうかと結論付けられました。
頂戴した差し入れの中から、私はブラックコーヒーだけをいただきました。思い返してみると、山わさびのおにぎりをスタート直後に食べてからは固形物を口にしていません。大会中という興奮や緊張なのか、コース誘導の失敗を引きずっているのか、それ以外に別の要因があるのかわかりませんが、何だか食欲が湧きませんでした。
徒歩参加者のゴールを待つまでの間、事務局炭田さんとトレジャー後藤氏と私でBGMを流しながらカルチャー談義をしていました。
事務局炭田さんと私が知っている曲をトレジャー後藤氏に教えたり、トレジャー後藤氏と私が知っている曲を事務局炭田さんに教えたりと、狭義的な文化交流を試みていました。昔は各CPにラジカセを用意してCDを流していた時代もあります。徒歩参加者を待ち望む長い時間は不安に苛まれるようで、音楽を流して静寂を拭うことでサポートスタッフの士気を上げる効果があったと聞いています。
●まさかのフード描写「スタッフがおいしくいただきました」
ふと、ゴールを済ませた徒歩参加者より声を掛けられる場面がありました。「弁当を食べたいと思ったんですが、これ賞味期限が切れてないですか?」
ンんなわケッ(NNNAWAKE)!と心の中で呟きながら弁当が置いてある机に赴き賞味期限を見てみると、賞味期限は「2023年7月2日 0時」と書かれていました。ショックでした。前代未聞の出来事であり、実行委員会の失態です。徒歩参加者にはカップ麺をお召し上がりいただくように依頼しました。事務局炭田さんと私で相談し「自己責任で判断してもらう」という案も出ましたが、賞味期限切れの弁当を食べて体調を崩されるのは実行委員として容認出来ないとの結論に至り、最終的には廃棄することに決めて飲食物が置いてあるテーブルから全て撤去しました。大会終了後に聞いた話だと、真偽は不明ですが、残り全てを資材運搬スタッフが持ち帰って美味しくいただいたそうです。
その頃4CP美留和会館では、最後尾グループが出発したとの報告がありました。
ここからしばらくの間、サポートLINEの動きが緩慢になります。これは夜間の傾向として毎年感じられるものであり、各CPや巡回が徒歩参加者の受け入れと滞在時の対応を行うことにより多忙を極めるために生じる現象の一つです。ゴール地点の川湯ふるさと館は、まだチラホラと徒歩参加者がゴールされるに留まっています。初めて夜通しのサポート対応をするトレジャー後藤氏に私は「今の状況であれば事務局炭田さんと私で対応できそうです。寝られる時に寝ておいた方が良いですよ」と伝えると、少し迷う表情を見せながらも、決意したかのように休息を取りに移動していきました。おやすみなさい!
●Twitterサ終?
大会の状況をライブ投稿するために活用してきたTwitterですが、突然投稿が出来ない不具合に見舞われました。過去の投稿も表示されません。「問題が発生しました。再読み込みをしてください。」と書かれているのでリフレッシュしましたが直りません。右側の「いまどうしてる?」のトレンドには、「サ終」や「不具合」の文字が表示されています。
ブラウザを変えたり通信環境を変えたりPC再起動をして直りません。スマホから試してもダメでした。この深夜のタイミングでサ終とかあり得るの?ああでもTwitter本社のサンフランシスコはAM11:12だから考えられなくもないのかな、いや告知無しのサ終はないでしょう、やはりただの不具合か。
しばらく経ってから、手探りの中で試験的に投稿した内容が確認できました。
どうやら投稿が出来たり出来ていなかったりしていたみたいです。それにしても、なぜ大会中にこのような不運に見舞われるのかと、心底落胆しました。結局、この投稿を最後にライブ投稿を断念することになります。
●腕湯
このくらいの時間帯、私は頻繁に川湯ふるさと館と川湯温泉足湯前交差点を行き来します。暗い時間帯は徒歩参加者がゴールに近づいてくるとライトが遠くに見えるので受け入れの準備がしやすいためです。
外はかなり湿気を含み、風は肌寒く感じました。気温計を見てみると11.4℃です。そりゃ寒いわけだ。
交差点からコースを見回してみますが、徒歩参加者が来る様子はありませんでした。寒さを感じた私は、足湯に浸かって少し体を温めようと決めます。
ところが実際に湯船に移動すると、着ていたツナギの足の部分を捲し上げて靴下を脱ぐことと、濡れた足を拭いた後にまた靴下を履かなければならないことがひどく億劫に感じられ、湯船を目前にして足を入れることをやめました。
代わりに、肌がむき出しになった肘から手の部分を片方ずつ湯船に沈めていきます。これは北海道音更町で真冬に行われる「彩凛華」というイベント会場に置かれていた「手湯」をイメージして試してみたものです。
足湯に腕を浸けたこの時が、今年最初に川湯温泉に皮膚を当てた最初の時となりました。思えば年々、弟子屈町に慣れてくるにつれて温泉に入る機会がなくなってきたように思います。弟子屈町に馴染んできたことの喜びと、初心を忘れてきていることの寂しさが鬩ぎ合う音色を聞いた気がしました。
川湯ふるさと館に戻ってPCを見ると、リモート実行委員のドロンジョ様が休息している様子と見受けられましたので、代役としてGoogleスプレッドに徒歩参加者のCP到着状況を記録することにしました。
●下り坂、上り坂
このくらいの時間に、どうにも腸の動きが怪しい雲行きになります。ほとんど食事を摂っていないのになぜだろう?むしろ食事を摂らずにモンスターエナジーばかりやコーヒーを飲んでいるからでしょうか。突然襲う便意に抗うことは許されず、何度もお手洗いに駆け込むことになります。腹痛が生じていないことだけが救いですが、これから訪れる徒歩参加者のゴールに支障が無いよう、どうにか全て出し切ってしまいたいと願いながらも、もうしばらくの間はコントロールセンターとお手洗いの洋式便器との間を行き交うこととなってしまいました。
洋式便器との頻繁な逢瀬を愉しんでいる頃、5CPレラ摩周にて3:47に最後尾グループが到着したとの連絡が入ります。
受付終了時間は4:00なので、少し余裕がないペースだと感じました。その後休憩を挟み、3:59に5CPを出発したとのことです。5CPレラ摩周から6CP摩周第一展望台までは5.7kmで、後半は上り坂です。
6CPの受付終了時間は5:30としており、1.5時間で5.7km(平均時速3.8km/h)で区間を歩ききる必要があります。これは相当チャレンジングと言えます。果たして6CPへ時間内に到着することができるでしょうか。川湯ふるさと館にいる私には「前へ、そしてさらに前へ」と願い、加えて「英断する時が訪れるのかもしれない」と覚悟を決めるしかありません。
●夜が明ける
4:00過ぎの時点で、ゴールした方は34名。計算上ではあと50人の徒歩参加者がゴールを目指して歩いているようです。外は次第に明るくなってきて、入口の窓越しに木々の緑が見えるようになってきました。
曇天でなければ、弟子屈町はAM3:00くらいに空が明るくなってきます。日本でもかなり東部に位置する場所ですので、関東や関西、九州に比べて朝を早く迎えるようです。
●新採用「エネルギーゼリー」の評価について
ゴールを済ませた方が増えてくる中、私には少し気になることがありました。各CPで提供している飲食物のうち今年初めて採用したエネルギーゼリーのニーズを知りたかったのです。
エネルギーゼリーを提案したのは、私が4年前に徒歩参加した時に後半に進むに連れて固形物が喉を通らなかったため、口にしやすいものがあると嬉しいのではないかと考えたためです。サポートLINEに問い合わせてみたところ概ね好評のようであるとの報告が届き、ほっとしたような嬉しいような気持ちに包まれました。
時刻はAM5:30になりました。既にドロンジョ様もトレジャー後藤氏も復帰しています。グランドフィナーレのAM11:00まであと5時間半。この時点でゴールされた方は47名、あと39名がゴールを目指して歩いています。今は全く眠気を感じません。とにかく徒歩・サポート・運営問わず参加者全員が怪我なく健康に5時間半を過ごし、無事に大会を終えられることを願い続けます。