
日記(2022/08/27-29)
土曜日。彼女と池袋へ。グランドシネマサンシャインでウォン・カーウァイ4Kレストア上映『ブエノスアイレス』。ウォン・カーウァイ、不潔なものがいっぱい写ってるのにメシはいつもウマそう。男が厨房で働くときの所作がええんよね。トニー・レオンが従事する労働は全部メシ関係。
夕方から彼女の友達と渋谷でごはん。その後、八額の鯨。普段全然飲まないのにこの日は映画カクテル頼みたさに四杯も注文。『東京物語』『ダーティハリー』『ベニスに死す』『グレムリン』。彼女は『ドラゴンへの道』を注文。あまりの強さにびっくり。むせずに飲むことができないレベル。『ダーティハリー』もかなり強かったので、タフっぽい俳優の映画はアルコール度数も上がるのかもしれない。『グレムリン』出されたときお店の人に「12時までに召し上がってください」と言われて一瞬何のことか分からなかったが『グレムリン』の設定をふまえた粋な計らいであったとすぐに気づく。楽しくて終始「映画ファン」って感じのリアクションになってたと思う。
日曜日。昼寝を3〜4時間くらいしてしまいショック。『勝手に逃げろ/人生』を30分くらい見て寝てしまった。起きて続き見てみるとめちゃくちゃ面白い。食卓で皿を飛び散らしながら取っ組み合う男女の姿は通常の速度(24コマ)だと諍いに見えるが、ゴダールのスローモーションによって愛の交歓に変わる。この場面を演じたナタリー・バイ自身の明晰な言葉でそう語られている。皿がバリンバリン割れる暴力的なサウンドとともに怪しく流れる謎のシンセ!音はスローの映像を引き離し先へ先へと進んでいく…音が果てまで辿り着きついに途切れてしまっても取っ組み合う男女を写した映像は無音で蠢き続ける……80年代ゴダールのサウンドビジュアル感覚に痺れまくる。映画を見終わったあとは多少なりともさっきまで見ていた映画のことを思い出すものだが、ゴダールの映画の場合、思い返して頭の中で映写するそのときには映像よりもむしろ音響の方をはっきりとイメージ(?)している、ということに気づいた。これはソニマージュ以降のゴダールを見たあとだと特にそう。自転車乗ってるナタリー・バイにオーバーラップされるトラクターという目を疑うような呑気かつ異常な映像とか、爆死覚悟でこういうの死ぬほどやってみたい。
月曜日。『ゴダール全評論・全発言Ⅱ』の『勝手に逃げろ/人生』に関する箇所を読んだりしていた。空間/時間のそれぞれの「拡大」としてのズームとスローモーション。古井由吉『槿』は二、三日空けて読むと全然文章が入ってこなくなってしまう。毎日読まないとすぐ馴染まなくなる。