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「日本語の作文技術」の曖昧文を生成AIで判定

1.はじめに

 本多勝一氏の著作 「日本語の作文技術」は、文章を書くことを生業とする者にとっての必読書です。この中に幾つか、複数の意味に解釈できる文章である多義文が記載されております。これを ChatGPT 4o に読ませて、複数
の意味を解釈できるか否かを試してみました。

2.多義文とその判定結果

2.1.第39ページ

「シンガポール海峡は、東京湾、瀬戸内海のように巨大船の航路が決められ、対抗船が違うルートを運行するよう航路が分離されていない。」

日本語の作文技術 第39ページ

この文は、東京湾、瀬戸内海は巨大船の航路が決められ、対抗船が違うルートを運行するよう航路が分離されいるのか、それともいないのかが明確ではありません。この文章について ChatGPT 4o に聞いてみました。

はい、「シンガポール海峡は、東京湾、瀬戸内海のように巨大船の航路が決められ、対抗船が違うルートを運行するよう航路が分離されていない。」という文章は2つの意味に解釈できます。
1. シンガポール海峡には巨大船のための特定の航路がない:東京湾や瀬戸内海のように、巨大船のための専用の航路が決められておらず、対向船と異なるルートを運行するような航路の分離がない。
2. シンガポール海峡には航路の分離がない:東京湾や瀬戸内海のように、巨大船の航路が決められており、対向船が異なるルートを運行するような航路の分離が行われていない。

ChatGPT 4o は、巨大船のための専用の航路が決められていないのか、巨大船のための専用の航路が決められているのかが不明確であることを指摘しています。これに付随して、東京湾や瀬戸内海では巨大船のための専用の航路が決められていないのか、決められているのかが多義的に解釈しうることを間接的に指摘しています。

この表現を明確化するため、筆者の本多勝一氏は以下のように修正していました。

シンガポール海峡は、東京湾、瀬戸内海のように巨大船の航路が決められ、対抗船が違うルートを運行するよう航路が分離されていない。

修正した文章をChatGPT 4o がどう判定するかを問い合わせました。以下がChatGPT 4o の回答です。

はい、「シンガポール海峡は、東京湾、瀬戸内海のようには巨大船の航路が決められ、対抗船が違うルートを運行するよう航路が分離されていない。」という文章は2つの意味に解釈できます。
1.シンガポール海峡には巨大船のための特定の航路がない:東京湾や瀬戸内海のように、巨大船のための専用航路が決められておらず、対向船と異なるルートを運行するような航路の分離も行われていない。
2.シンガポール海峡には航路の分離がない:東京湾や瀬戸内海のように、巨大船のための専用航路が決められているが、対向船と異なるルートを運行するような航路の分離が行われていない。

ChatGPT 4o は、「は」を加えただけでは未だ不明確であると判定しています。確かに「は」を加えただけでは、シンガポール海峡は巨大船の航路が決められているのか、それとも決められていないのかはいまだ不明確です。

これを、当職が、以下のように修正してみました。新聞記事っぽくない技術文章ですので、文体的には新聞記事から離れています。

東京湾、瀬戸内海では巨大船の航路が決められており、かつ、或る方向の航路とその反対方向の航路とは分離されている。しかし、シンガポール海峡ては、巨大船の航路は決められておらず、かつ、或る方向の航路とその反対方向の航路とが分離されていない。

修正した文章をChatGPT 4o がどう判定するかを問い合わせました。以下がChatGPT 4o の回答です。

この文章は、特に多義的に解釈される可能性は低いです。明確に対比を示しており、それぞれの海域における航路の状況を説明しています。

具体的には:
1.東京湾と瀬戸内海:
巨大船の航路が決められている。
ある方向の航路とその反対方向の航路が分離されている。
2.シンガポール海峡:
巨大船の航路が決められていない。
ある方向の航路とその反対方向の航路が分離されていない。

文章全体を通して、東京湾・瀬戸内海とシンガポール海峡の航路設定と分離の違いが明確に述べられています。したがって、多義的に解釈される余地はほとんどなく、読者に明確な対比を理解させることができる内容です。

2.2.第74ページ

渡辺刑事は血まみれになって逃げだした賊を追いかけた

日本語の作文技術 第74ページ

この文章は、渡辺刑事が血まみれなのか、賊が血まみれなのか多義的です。ChatGPT 4o の回答は以下です。

はい、「渡辺刑事は血まみれになって逃げだした賊を追いかけた」という文章は2つの意味に解釈できます。
1.賊が血まみれ:賊が血まみれになって逃げ出し、それを渡辺刑事が追いかけた。
2.渡辺刑事が血まみれ:渡辺刑事が血まみれになりながら、逃げ出した賊を追いかけた。

この二つの解釈の違いは「血まみれになって」が誰にかかるかによります。

ChatGPT 4o は、渡辺刑事が血まみれなのか、賊が血まみれなのか多義的であることを指摘しています。

賊が血まみれであることを明確化するため、筆者の本多勝一氏は、以下のような修正をしています。

渡辺刑事は、血まみれになって逃げだした賊を追いかけた

修正した文章に対するChatGPT 4o の回答は以下です。

いいえ、「渡辺刑事は、血まみれになって逃げだした賊を追いかけた」という文章は、基本的に一つの意味にしか解釈できません。

賊が血まみれ:賊が血まみれになって逃げ出し、それを渡辺刑事が追いかけた。

「血まみれになって逃げだした」という部分が賊にかかるため、この解釈が明確です。渡辺刑事が血まみれであるという解釈は文脈上成立しません。

ChatGPT 4o は、この文章の修正案を正しく一義的であることを判定しています。

2.3.第140ページ

小さな子供の学校がある。

日本語の作文技術 第140ページ

この文章は、子供が小さいのか、学校が小さいのかが多義的です。この文章に対するChatGPT 4o の回答は、以下です。

はい、「小さな子供の学校がある。」という文章は2つの意味に解釈できます。
1.子供が小さい:小さな子供たちが通う学校がある。
2.学校が小さい:小さい規模の学校があり、その学校には子供たちが通っている。

筆者の本多勝一氏は、これを以下のように修正しています。

子供の小さな学校がある。

修正した文章に対するChatGPT 4oの回答です。

「子供の小さな学校がある。」という文章は、次の二つの意味に解釈できます。
1.小さな学校:学校自体が物理的に小さい、つまり規模が小さいことを意味します。例:「この地域には子供たちが通う小さな学校がある。」
2.子供のための学校:学校が子供向けであることを強調している意味で、学校の目的が子供に教育を提供するものであることを示します。例:「この地域には子供向けの学校がある。」

このように、文章は「小さい学校」であることを強調する意味と、「子供向けの学校」であることを強調する意味の二通りに解釈することができます。

「小さい」が学校に掛かることは一意ですが、指摘のように学校が小さいことを言いたいのか、子供のための学校であることを言いたいのかは多義的です。このようにChatGPT 4o は、詳細に多義文を判定しています。

2.4.第171ページ

メコンデルタでは日本のようにガラスやブリキの破片がころがっていることはないので、思ったよりケガの危険は少ないものです。

日本語の作文技術 第171ページ

この文章は、日本ではガラスやブリキの破片がころがっているのか、いないのかが多義的です。この文章に対するChatGPT 4oの回答は以下です。

はい、「メコンデルタでは日本のようにガラスやブリキの破片がころがっていることはないので、思ったよりケガの危険は少ないものです。」という文章は2つの意味に解釈できます。

1。メコンデルタにはガラスやブリキの破片がない:メコンデルタでは、日本のようにガラスやブリキの破片が転がっていないため、思ったよりケガの危険が少ない。
2.日本にはガラスやブリキの破片が多い:日本ではガラスやブリキの破片が多く転がっていてケガの危険があるが、メコンデルタではそれがないので思ったよりケガの危険が少ない。

ChatGPT 4o は、日本ではガラスやブリキの破片がころがっているのか、いないのかが多義的であることを間接的に指摘しています。

筆者の本多勝一氏は、上記文章を以下のように修正しています。

ガラスやブリキの破片がころがっていることは日本と違って殆どないので、思ったよりケガの危険は少ないものです。

日本語の作文技術 第172ページ

ChatGPT 4o の回答は以下です。

この文章は2つの異なる意味に解釈することができます。以下にその解釈を示します。
解釈 1: 「ガラスやブリキの破片がころがっていることは日本と違って殆どないので、思ったよりケガの危険は少ないものです。」
ここでは、外国の状況について述べています。日本と比べて、外国ではガラスやブリキの破片がころがっていることがほとんどないため、予想よりもケガの危険が少ないと説明しています。
解釈 2: 「ガラスやブリキの破片がころがっていることは、日本と違って殆どないので、思ったよりケガの危険は少ないものです。」
ここでは、ガラスやブリキの破片がころがっていることが、日本国内の状況について述べています。日本ではガラスやブリキの破片がころがっていることがほとんどないため、予想よりもケガの危険が少ないと説明しています。

文章の切り方やコンマの位置によって、意味が異なることが分かります。

外国の状況(メコンデルタ)を説明している解釈1のほか、日本国内の状況を説明する解釈2を導いていますが、これは誤読のように思います。

 この文章を、2つの文章に分けてみました。

日本の海岸ではガラスやブリキの破片が多く、ケガの危険があります。しかしメコンデルタでは、ガラスやブリキの破片は殆どころがっていないので、思ったよりケガの危険は少ないです。

この文章に対する ChatGPT 4o の回答は以下です。

この文章は明確で、多義的に解釈される可能性はほとんどありません。以下の理由により、内容がはっきりしています。
1.「日本の海岸ではガラスやブリキの破片が多く、ケガの危険があります。」
日本の海岸にはガラスやブリキの破片が多く、それがケガの危険を引き起こすことが述べられています。
2.「しかしメコンデルタでは、ガラスやブリキの破片は殆どころがっていないので、思ったよりケガの危険は少ないです。」
メコンデルタではガラスやブリキの破片がほとんどないため、ケガの危険が少ないことが説明されています。


この文は二つの対比された状況を明示的に示しており、以下のように整理できます。日本の海岸:ガラスやブリキの破片が多い → ケガの危険がある。
メコンデルタ:ガラスやブリキの破片がほとんどない → ケガの危険が少ない。

文の構造は明確であり、主語や述語の関係もはっきりしているため、多義的な解釈は生じにくいです。したがって、この文章は明確で、多義的に解釈される可能性は低いです。

ひとつの文章では、かなり苦労しても、やはり多義的に解釈できると指摘されました。そこで上記のように2つの文章に分けて、日本の海岸とメコンデルタを対比することで、ChatGPT 4o から明確であるとの言質をとることができました。

3.おわりに

ChatGPT 4o を使うことで、文章の多義性を検出できることが判りました。やたらと細かなところまで指摘してくる傾向がありますし、誤読する場合もあります。しかし、文章の作成者には気付かないような微妙な多義性を検出してくれるので、役に立つ場合もあるとおもいます。

4.イラストについて

当記事のイラストは、ChatGPT Plus のGPT である Manga Draw を使って生成しました。


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