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生成AIによる曖昧文判定 ~猫は家内が好きでね~

1.はじめに

ここでは、さまざまな曖昧文について、生成AIが曖昧文と判定できること。および、これを改善した文章を、生成AIが明確と判定できることを確認しました。
 元ネタは以下です。

 野田尚史「日本語のあいまい文」 日本ファジィ学会誌 Vol.14, No.1, pp.7-14

2.事例

2.1.事例1:「は」と「が」を含む文

猫は家内が好きでね。

宮本輝 「避暑地の猫」 p12

 この文では、猫が、家内に懐いており好きなのか、または家内が猫好きなのかが不明確です。この文章を ChatGPT 4o に問い合わせました。

「猫は家内が好きでね。」という文章は、多義的に解釈される可能性があります。以下にその理由と異なる解釈の例を挙げます。

1.猫が家内を好き
この解釈では、「猫」が主語で、「家内が好き」というのは「猫が家内を好きだ」という意味になります。
例: 「猫は、家内(妻)のことが好きで、いつも彼女に寄り添っている。」
2.家内が猫を好き
もう一つの解釈では、「家内」が主語で、「猫は家内が好き」というのは「家内が猫を好きだ」という意味になります。
例: 「家内(妻)は猫が好きで、いつも猫と一緒にいる。」

文脈が不明なため、どちらの解釈も可能です。文脈によっては、どちらの意味かが明確になるでしょうが、単独の文章では多義的です。

 このようにChatGPT 4o は、正しく多義的であることを判定できました。そして、第1の解釈に一義となるような、以下の文章を示してきました。

猫は、家内のことが好きだ。

少し猫が大きいですが・・・

 この修正文をChatGPT 4oに問い合わせてみました。

「猫は、家内のことが好きだ。」という文章は、一般的には多義的ではなく、比較的明確な意味を持つと考えられます。具体的には、「猫が家内(妻)を好きだ」という意味に解釈されます。しかし、文脈や文化的な背景によっては多義的に解釈される可能性も考えられます。

具体的な解釈例:
1.通常の解釈
「猫が家内(妻)のことを好きだ」という意味。
例: 「猫は、家内(妻)のことが好きで、よく彼女に寄り添っている。」
2.文脈による解釈
「家内」という言葉が別の意味を持つ場合。
例: 「家内」が家の中全体や家族全体を指す場合、「猫は家の中や家族全体のことが好きだ」という意味にも解釈できる。
しかし、これは通常の日本語の使用法からは外れるため、特定の文脈が必要です。


したがって、一般的な文脈ではこの文章は多義的とは言えず、ほとんどの場合は「猫が妻のことを好きだ」という意味に解釈されます。

 このように ChatGPT 4oは、修正文が原則として一義的であることを判定しました。

家内は、猫のことが好きだ。

猫が大きめですが・・・・

 この修正文をChatGPT 4oに問い合わせてみました。

「家内は、猫のことが好きだ。」という文章は、文脈が明確であれば多義的ではなく、通常は「家内(妻)が猫のことを好きだ」という意味に解釈されます。しかし、場合によっては多義的に解釈される可能性もあります。以下にその理由と異なる解釈の例を挙げます。

1.通常の解釈:
「家内(妻)が猫のことを好きだ」という意味。
例: 「家内は、猫が好きで、いつも猫と遊んでいる。」
2.文脈による解釈:
「家内」という言葉が別の意味を持つ場合。
例: 「家内」が家の中全体や家族全体を指す場合、「家内(家の中や家族全体)が猫のことを好きだ」という意味にも解釈できる。ただし、この解釈はあまり一般的ではありません。

結論として、通常の文脈では「家内は、猫のことが好きだ。」という文章は多義的ではなく、「妻が猫のことを好きだ」という意味に解釈されます。ただし、特定の文脈や説明が加わる場合には、異なる解釈が生じる可能性もあります。

 このように ChatGPT 4oは、修正文が原則として一義的であることを判定しました。

2.2.事例2:省略の多い口語文

夫が「またスイスに行きたくなったなあ」。

朝日新聞 1995.3.19 日曜版 p.5 「いわせてもらお」

 この文章は「行った」のがまたという解釈と、「行きたくなった」のがまたという解釈ができます。これは「また」が「行き」を修飾するのか、「行きたくなった」を修飾するのかが曖昧であることによります。
 この文章を ChatGPT 4o に問い合わせました。

「またスイスに行きたくなったなあ」という文章は、多義的に解釈される可能性があります。以下にその理由と異なる解釈の例を挙げます。

1.過去の訪問経験
以前にスイスに行ったことがあり、その経験が良かったため、もう一度行きたくなったという意味。
例: 「前回のスイス旅行が楽しかったから、またスイスに行きたくなったなあ。」
2.未来の計画
将来の計画としてスイスに行きたいという意味。
例: 「今度の休暇にはスイスに行こうと思っていたけれど、やっぱりまたスイスに行きたくなったなあ。」
3.影響を受けた動機
何か(写真や話題など)がきっかけでスイスに行きたくなったという意味。
例: 「友達がスイスの写真を見せてくれたから、またスイスに行きたくなったなあ。」
4.強い感情表現
単にスイスへの強い憧れや願望を表現しているだけ。
例: 「あの美しい景色をもう一度見たい、またスイスに行きたくなったなあ。」

これらの解釈は文脈に依存します。具体的な状況や会話の流れによって、どの意味が適切かが決まります。そのため、この短い文は多義的に解釈される可能性があります。

「行った」のがまたという解釈は、「1.過去の訪問体験」に該当します。「行きたくなった」のがまたという解釈は、上記の4つの解釈に該当するものがありません。このような口語の省略が多い文章は、多義性の解釈が難しいのだとおもいます。

2.3.事例3:代名詞の省略・「の」の前後の名詞のうちどちらに掛り受けているか不明確

女性は、O工業社員でミリに単身赴任地中の植村輝久さんの妻小由利さんで、輝久さんが七日、ミリの病院で遺体を確認した。

朝日新聞 1997.9.8 朝刊p.1 

 この文章では、「O工業社員でミリに単身赴任地中」が、「植村輝久さん」を修飾するのか、または「妻小由利さん」を指すのかが不明確です。この文章を ChatGPT 4o に問い合わせました。

この文章は多義的に解釈される可能性があります。以下にその理由と異なる解釈の例を挙げます。
1.「女性」の指す人物の解釈:
「女性」が誰を指しているかが曖昧です。文中では「O工業社員でミリに単身赴任中の植村輝久さんの妻、小由利さん」と説明されていますが、「妻小由利さんで」という部分がどのようにかかっているかが不明瞭です。
2.遺体を確認した人物の解釈:
「輝久さんが七日、ミリの病院で遺体を確認した」という部分が、誰の遺体を確認したのかが曖昧です。文脈上は小由利さんの遺体を確認したように読めますが、明確に指定されていないため、多義的な解釈が可能です。


具体的な解釈例:
1.「女性」は小由利さん:
・「女性」は「O工業社員でミリに単身赴任中の植村輝久さんの妻、小由利さん」であり、小由利さんが亡くなり、輝久さんがその遺体を確認したという意味。
・例: 「女性は、O工業社員でミリに単身赴任中の植村輝久さんの妻、小由利さんで、輝久さんが七日、ミリの病院で小由利さんの遺体を確認した。」
2.「女性」は別の人物:
・「女性」が小由利さんとは異なる別の人物であり、輝久さんがその女性の遺体を確認したという意味。
・例: 「女性は、O工業社員でミリに単身赴任中の植村輝久さんの知人で、輝久さんが七日、ミリの病院でその女性の遺体を確認した。」
3.複雑な状況の解釈:
・輝久さんが確認した遺体が小由利さんではなく別の人であるが、文中の説明が不十分で曖昧さを生んでいる可能性。
・例: 「女性は、O工業社員でミリに単身赴任中の植村輝久さんの妻、小由利さんだが、輝久さんが七日、ミリの病院で確認した遺体は別の人物だった。」

このように、文章の構造や説明の不明瞭さから、複数の解釈が生じる可能性があります。文脈や追加の情報があれば、より明確な解釈が可能になるでしょう。

ChatGPT 4oは、この文章の「女性」と「遺体」との関係が示されておらず不明確であることを指摘しています。また「妻小由利さん」という表現についても疑義が生じることを指摘しています。
 この文章を、当職が以下に修正してみました。

植村輝久さんが七日、ミリの病院で遺体が妻の小由利さんであることを確認した。小由利さんは、O工業社員でミリに単身赴任地中であった。

 この修正文をChatGPT 4o が判定した結果が以下です。

「植村輝久さんが七日、ミリの病院で遺体が妻の小由利さんであることを確認した。小由利さんは、O工業社員でミリに単身赴任中であった。」という文章は、多義的に解釈される可能性が低いです。以下に理由を説明します。

1.遺体の確認:
植村輝久さんがミリの病院で確認した遺体が、妻の小由利さんであることは明確に述べられています。この部分に曖昧さはありません。
2.小由利さんの身元と状況:
次の文では、小由利さんがO工業の社員であり、ミリに単身赴任中であったことが説明されています。これは、小由利さんがどのような状況であったかを補足するための情報であり、前の文の内容と矛盾しません。


この文章の解釈は比較的明確であり、以下のように要約できます:植村輝久さんが七日にミリの病院で遺体が妻の小由利さんであることを確認した。
小由利さんはO工業の社員であり、ミリに単身赴任中であった。

文中の「遺体が妻の小由利さんであることを確認した」という部分が明確であるため、文章全体の意味に曖昧さはほとんどありません。したがって、この文章は多義的に解釈される可能性は低いと考えられます。

 これにより、修正文が多義的に解釈される可能性が少ないことが確認できました。

2.4.事例4:一つの主語が二つの動詞に掛かり受け

男がMPに逮捕され、変質したペニシリンを売った暴力団からもねらわれる羽目にも陥った。

朝日新聞 1979.11.2 朝刊 p.22

 この文章は、「男が変質したペニシリンを暴力団に売った」のか、「暴力団が変質したペニシリンを売った」のかが不明確です。この文章を ChatGPT 4o に問い合わせました。

この文章は多義的に解釈できます。具体的に、以下のような点で異なる解釈が可能です。
1.「変質したペニシリンを売った」人物の特定
「男がMPに逮捕され」た男がペニシリンを売ったのか。
それとも、別の「暴力団が変質したペニシリンを売った」ために男が狙われる羽目になったのか。
2.「狙われる羽目になった」原因の特定
男が逮捕されたために暴力団に狙われたのか。
あるいは、ペニシリンの売買に関連して狙われたのか。


これを具体的に分解すると、次の二つの主要な解釈が可能です。
解釈1
「男」が変質したペニシリンを売り、その結果としてMP(憲兵)に逮捕された。そして、その売買行為が原因で暴力団に狙われることになった。
・男がペニシリンを売った。
・男がMPに逮捕された。
・男が暴力団に狙われる羽目になった。

解釈2
「暴力団」が変質したペニシリンを売ったことで、「男」がMPに逮捕され、その結果として暴力団に狙われることになった。
・暴力団がペニシリンを売った。
・男がMPに逮捕された。
・男が暴力団に狙われる羽目になった。

このように、文中の関係性や行動の主体が曖昧であるため、多義的な解釈が生まれます。

ChatGPT 4oは、この文章が「男が変質したペニシリンを暴力団に売った」のか、「暴力団が変質したペニシリンを売った」のかが不明確であることを正しく指摘しています。

 この文章を、当職が以下のように修正してみました。この文章は「男が」という主語が「逮捕された」「陥った」の2つの動詞に掛かり受けた文です。このような文章は多義的な解釈が発生しやすくなります。これを、2つの文章に分けてみました。

変質したペニシリンを売った男はMPに逮捕された。この男は、変質したペニシリンの購入先である暴力団からもねらわれる羽目にも陥った。

 この修正文をChatGPT 4o が判定した結果が以下です。

この文章は明確で、多義的な解釈はほとんど生じません。以下のように内容が整理されており、解釈の余地が少ないです。
1.「変質したペニシリンを売った男」は誰か?
変質したペニシリンを売ったのは「男」です。
2.「MPに逮捕された」のは誰か?
MPに逮捕されたのは「変質したペニシリンを売った男」です。
3.「暴力団からもねらわれる羽目になった」のは誰か?
変質したペニシリンを売った男が、暴力団からも狙われる羽目になったのです。

文章を具体的に分解すると次のようになります:変質したペニシリンを売った男がMPに逮捕された。
この男は、変質したペニシリンの購入先である暴力団からも狙われる羽目になった。

したがって、この文章は多義的に解釈できる可能性は低く、特定の人物(変質したペニシリンを売った男)がMPに逮捕され、暴力団からも狙われるという一貫した内容が伝わっています。

 これにより、修正文が多義的に解釈される可能性が少ないことが確認できました。

3.おわりに

 口語で省略が多い文章では、多義文の意味を正しく判定できない場合もありますが、新聞記事のような書き言葉では概ね正しく多義文として判定できているようです。

4.曖昧文の過去記事

5.挿入イラストについて

 挿入イラストは、拙作のGPT のManga Draw を使用いたしました。ChatGPT Plus (有償版)から使用可能です。
 単なる文章よりも、少しだけイラストを挿入すると、ウケが良いようです。


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