特許図面の作成上のヒント
1.はじめに
特許法36条2項より、日本国特許庁において、図面は特許における任意書類と記載されています。しかし、特許出願の殆どに図面が付与され、かつ各出願の実施形態は図面の説明文が大半です。よって、特許図面は、実務上極めて重要です。
そして、米国特許法第113条には「出願人は,特許を受けようとする主題を理解するために必要な場合は,図面を提出しなければならない。」と記載されています。米国特許規則1.83(a) (37 CFR $1.83) には、「図面は,クレームに記載されている発明の全ての特徴を示さなければならない。」と記載されています。米国では特に図面は重要なものと考えられているようです。
以下では、特許図面作成上のヒントを記載してゆきます。
2.図面の白黒二値化
韓国を除く殆どの国でカラーの特許図面は容認されていません。グレイスケールの特許図面は、PCT出願時にグレイスケール図面で出願すると、国際公開のパンフレットおよび各国移行時に単純二値化されて情報が欠けてしまうおそれがあるため注意です。
ここでは「ぱくたそ」のフリー写真を例に、これを特許図面として使えるようにするための手順を説明します。
以下画像処理ソフトGIMP(ギンプ)を用いてカラー写真を白黒二値化します。GIMP(ギンプ)は、無料で使用可能なソフトウエアです。
(1)画像の読み込み
例えは、発明者から写真画像の提供を受けたと仮定します。この写真画像をGIMPに読み込ませてください。
(2)グレイスケール化
GIMPの画像メニューから、モード⇒グレイスケールを選択します。
(3)輪郭抽出
フィルターメニューから、輪郭抽出⇒ガウス差分を選択します。
(4)階調反転
色メニューから階調反転を選択します。
(5)レベル合わせ
色メニューからレベルを選択して調整します。
入力レベルには、画素の輝度ヒストグラムが表示されています。下側の三角形アイコンをずらして入力レベルの範囲を調整し、輪郭の太さ(濃さ)を調整します。
(5)二値化
画像メニューのインデックスを選択します。
インデックスカラーに変換ダイアログにて、「モノクロ2階調(1bit)パレットを使用」にチェックします。
色ディザリングは、「ディザリングしない」を選択します。そして変換ボタンをクリックすると、二値化画像に変換されます。
(6)処理した画像をエクスポートします。
なお、このような手順を踏まずとも、最近は写真をイラスト化するWebサービスも幾つかありますので、活用いただけるかとおもいます。以下は、写真加工ドットコムで写真をイラスト化した例です。
3.Guide for Preparation of Patent Drawings
Guide for Preparaton of Patent Drawingsは、USPTOによる特許図面の規定ですが、各国特許庁もこれを参考にしているようなので、是非とも見ていただきたいです。
3.1.線の規定
例えば、二点鎖線は仮想線、一点鎖線は寸法補助線・投影線、破線は隠れ線と規定しています。
以下の回路図は、不適切な線の例です。手書きでかつ適切な筆記具を使用しておらず、線の太さが不安定なのが良くないのだとおもいます。
3.2.断面図
以下は、断面図の例です。米国特許規則§1.84に「断面図の切断面は,切断される図の上に破線で表示されなければならない。」と規定されています。ここでは、FIG.1の符号2の破線に相当します。
そして「破線の両端には断面図の図番号に対応するアラビア数字又はローマ数字が記載されていなければならず,また,視線の方向を示す矢印を有していなければならない。」と記載されています。破線に交差する矢印が、FIG.2の視線方向を示します。
3.3.矢印
米国特許規則§1.84に「引出線に関して,他に接していない矢印は,その矢印が指し示す部分全体を示す。」と記載されています。つまり、以下のモータの分解図の符号3は、符号3a,3bを示しています。
「引出線に関して,線に接している矢印は,その線が矢印の方向に向いている面を示す。」と記載されています。つまり、符号1は、モータ外枠円筒の外周面を示しています。
3.4.記号
米国特許規則§1.84に「図解の図面記号を慣例的要素に対して使用することができる。特許図面の図形記号を選択する際の指針としてANSI文書やその他の出版物を利用することができます。」と記載されています。つまり、標準規格などで定められた記号を特許図面に使えます。
以下は、回路記号を記載した例です。
4.フローチャートの書き方
フローチャートは、JISX0121で規定されていますので、これに準拠することが望ましいとおもいます。JISX0121で規定された主な記号は、PowerPointの図形に組み込まれています。
フローチャートの判断には、否定文を書かないでください。英訳すると判断の分岐が逆になることがあるためです。
5.公序良俗違反とその回避方法
日本では、「図面等が、特許公報に掲載することが公の秩序又は善良の風俗を害する おそれがあると特許庁長官が認める場合、当該事項・内容は特許公報に掲載さ れない。」と規定されています。具体的には、具体的な個人名、URL、商品名、サービス名、商標名などの記載は避けるべきです。
公報に図面不掲載になったとしても、経過情報の「図面」には、不掲載となった図面が示されているため、これを調査しました。
5.1.著作物
以下の曲名とキーワード番号の対応図は、現実の著作物の曲名が記載されていたため、職権訂正を受けた例です。このような著作物は、架空のものを記載することが望ましいと思われます。
なお、同日に別出願された特許公報には、職権訂正が掛かっていません。
以下の遊園地のロボットは、図面不掲載となった例です。 ガンダム風のロボットと、空飛ぶミツバチの遊具が著作物と認定されたのだとおもいます。
これは図面不掲載などの処分を受けなかった例です。以下は、フィギュアの目を消すことで著作性を主張しないように配慮しているのだとおもいます。
以下の図面は、不掲載とはなりませんでした。このあたりが掲載可能な線なのだとおもいます。
5.2.商標・商品名・サービス名
現実の商標(アップルマーク)が示されていたため、図面不掲載となったものと思われます。商標は図面に描かないようにすることが必要です。
以下のスマートフォン画面も図面不掲載となりました。iTunes, iPod などの商標が示されていたためと思われます。
以下のBLUETOOTHは、ついうっかりと商標を使ってしまった例です。Bluetoothロゴも含めて使われているために図面不掲載となったとおもわれます。これを書き換えるならば「BLUETOOTH」「短距離無線通信」でしょうか。
以下のシステム概念図は、商品名「ウルトラファイン」が問題になったようです。
以下の装置構成図は、「ラズベリーパイ」が問題になったようです。単に「制御基板」とすれば良かったのだとおもいます。
以下の図面は、「ファミマなんでもランキング」が問題になったようです。このように、画面キャプチャをそのまま使うときには、商標・商品名やサービス名が含まれるため公序良俗違反にならないよう注意が必要です。
以下は、"ALPS ALPINE"が含まれているため問題になったと思われます。
以下は、商品カタログの画像の流用と思われます。商品名を消せば大丈夫だったかもしれません。
以下は、ソフトウエアプログラムの画面キャプチャそのままとおもわれます。Yupiteruが問題になったのでしょう。
この図面もスマートフォンの画面キャプチャそのままです。VISAのロゴ、スターバックスの商標、Key Payというサービス名と、色々と問題となりそうな要素があります。画面キャプチャそのまま使うというのは鬼門ですので、できるだけトレスして問題ないものに作り変えることをお勧めします。
5.3.URL
現実のURL(sartorius.com)が示されていたため、図面不掲載となったものと思われます。なお、QRコードに http://sartorius.com がエンコードされています。
QRコードにエンコードされたURLであっても図面不掲載となります。特許庁の審査官は、自らQRコードをチェックされているのでしょう。
5.4.自らの主張
本願発明の技術的事項とは関係のない思想、写真、図画等を記載し、公開公報を自らの主張の開示手段として利用しようとしているものと思われます。
出願人が経営している歯科クリニック名を図面に示したために不掲載になったとおもわれます。
6.いらすとやの利用
いらすとやのイラストは、1作成物あたり20点まで無料で使用可能ですが、それ以上は有償という使用条件を守ることが必要です。また、いらすとやのイラストはカラーであるため、五極出願に対応するため、二値化することが望ましいです。
なお、いらすとやのよくある質問には、イラストの一部を加工することは、元の素材のイメージを保ったものであれば問題ありませんと記載されています。よって、元の素材イメージを保つような二値化ならば問題ないと思われます。
7.最後に
以上、特許図面作成上のヒントを記載しました。ちょっとしたヒントですが、これが特許図面の作成に役立つことがあれば幸甚です。
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