アヤと言う女の子 44頁
冷たい雨の降る大晦日
寺で年末の御挨拶の封筒をお渡しして線香を6本お願いした
「お線香消えない?」
「小雨だから割と大丈夫じゃない?」
「6本なんだ」
「うん」
僕は花をアヤに任せて線香と桶をもって歩く、飛び石を下っていき左に折れて4つめがうちの墓
「待ってて」
桶を地面に置いて墓所の鎖を外す、地面から70センチほど上に墓石が3つ、線香の挿し口を6か所持参した割りばしで綺麗にして、煙にむせながら線香を立てる、アヤから花を受け取って6か所に立てて手を合わせ、3段の階段を降りてアヤを促す
1段上がり後ろから傘をさしかけているとアヤは長い間手を合わせ何かを語り合って居るみたいだ
ゆっくりと階段を降りてきてあいあい傘
「一番右側の墓石、文化文政なんだね」
「それ以前のはもっと奥だったらしいんだけど、文化文政の御先祖が儲けて、この場所をお願いしたらしい」
来た坂を戻り桶を所定の場所に返すと玄関が開き四十年配の住職に手招きされた
僕の記憶では、おつきあいする3代目で母がジャニ坊と呼んでいたイケメン坊主、母の葬儀の時に初お目見えしたが、十数年叡山で勉強をし、戻ってきたら寺のお嬢と一緒になったらしい。
「ご苦労様でございます」
合掌された、お辞儀をする
「お持ちください」
赤と青の御守、最近檀家が減ったので観光誘致にも力を入れていると言っていた、手裏剣を持った忍者、刀を構えた忍者が描かれている
「忍者の御守」
アヤが目を丸くした
僕はアプリでタクシーを呼ぶ
ストーブに当たりながら住職と世間話をしていたら、ほどなく境内に入って来た、住職に挨拶をして乗車
「雨でも歩くって言ってたのに挫けた?」
「御守を頂いたろう、さすがに西念さんの寺で騒動は起きないけど、道中気をつけろって意味さ」
鈍通、秘書課の米倉美智子お姐さんがわざわざ警告してくれているしね、 三笠山はデパ地下で買おう、焼き立てが美味いんだけど、しゃあない
伊勢丹につけてもらった、ラッシュの電車並みのデパ地下であれこれ買って
エントランスからタクシーで帰る さすがに手出しは無かった
「嫌な気が有った」
「あら、感じてたんだ、凄いねアヤ」
「なんだったんだろう」
「良いんじゃない、ここは安全だし、この先ちょい気をつけなきゃだけど」
危険なんて、いつでもどこでも転がってる、遭遇しないのは偶々運が良いだけなんだと思い知らされる
僕たちは家畜じゃない、野生の人間だから税金払った分で足りなければ自分の身は自分で護る(笑)
リビングのこたつ、YouTubeで穏やかなクラッシックを聴いて、抱き合って微睡む
風呂も済ませた風呂上がりのアヤの香りが幸せだ 後は二人の周りを時が流れるのを感じているだけ
年が明ける
「あけましておめでとう、涼次」
ぐっと抱き着いてきてキス
「おめでとうアヤ、今年も来年もずっとずっと宜しく一緒に居て下さい」
「はい」
僕にしがみつく腕に力が入る、また、キス
ダメな奴だ糞だと言われて育ってきた、家を飛び出して独りで生きようと藻掻いた、追い回された野良猫気分だったけど、野良猫に餌と寝床をくれる人が居て、餌の捕り方を覚えても、いつも身構えていた
心の底から信用できる相手なんて居なかったけど、今腕の中に居る綺麗で可愛い生き物には自然に心を赦していた
護らなきゃいけないと手が掛る分、自分が自分で居られるのだと安心できる
アヤの為にやること為す事慶びだ
女と漢、陰と陽 本来必ず一対で在るもの
存在そのもので僕に教えてくれている
恋愛って生きていて良いのだと気づかせてくれる相手と共に過ごす事
なんの掛値も無く駆け引きも無く、ただ好きで温もりに存在を感じ
隣に居ると楽に息が出来る相手
墓参りをして先祖に感謝って奴を始めてだった
あそこで眠っている母が僕をこの世に呼んでくれて
アヤに逢わせてくれた
親父はくそだけど、奴が居なければ僕も居ないわけで
奴も僕をここに呼んでくれたのだから感謝は捧げよう
アヤの御両親に感謝、ふるさとに感謝を
「私も御江戸に感謝、涼次のお父さんお母さんに感謝、凄く幸せ」
アヤの頭に頬を乗せる、ヨギボがぐずっと音を立てる
足先はこたつに温められている 抱き合っているアヤと僕
ねむーくなる
「ビッグキャット、寝て良いよ」
頬に唇が当たる 喉の下をしなやかな手が撫でる
本当にゴロゴロ言いそうだ
「お嬢、寝ましょうかね」
「うん、抱っこ」
立ち上がり御姫様抱っこで寝室へ
「50㎏越で悪かったな」
「肥えてないから良いじゃん、霜降りじゃなくて赤身だし」
きゅっと頬を抓られ唇を重ねている、アヤがノブを回してドアが開く
そっと横たえて二人で毛布に潜り込む
「おやすみビッグキャット」
「おやすみお嬢」