見出し画像

約束だったので、盆暮れは千尋の実家へ、飛行機の運賃他で毎回15~6万の出費だった。

最初の1~2回は関門海峡の向こうが物珍しいし、高千穂、島原、雲仙、別府なんかは修学旅行以来の観光が出来て面白かったけれど、毎回催される宴会、同じ話題の繰り返しがうんざり。

千尋の年子の妹、恵利は嫌いw へんに肩肘張って突っ張っている。
その亭主は良いやつで、彼とはいっぱい話が出来た。

その下の妹、高美は僕の妹トン子と同い年で、やはり教員をしているのだが、気取らず素直で、話が合った。


親父が会社から搾取しちゃうし、まだ妹達も金の掛かる年頃だったので、僕の取り分は少なかった、手取りは、家賃を引いて20万ちょい、親父の会社に戻る前の中古車販売店で手取り50 ボーナス年3回で2~4ヶ月分(毎回販売成績に拠る)に比べて地獄だった(笑)

学生時代のバイト時代のコネや地元・新宿の智慧で、あれこれ片手技をしていて、給料はほぼ全部千尋に渡していた。

千尋は専業主婦に徹していて、趣味の掃除に精をだし、実家の台所までピカピカにして、母が表面上は喜んでいたから、まぁ 良いかと想っていた。


会社の給料は信用金庫が現金で袋詰までして、持ってきていたので、そこから、積立を某か渡している、ある程度貯まると定期にしていた。

3月に満期が来たので、僕は片手技で稼いだ銭を併せて定期にしようと、一度住居へ戻った、1月に、ちょい大きな仕事が上手く行って、ふんふんなのさ、美味いものでも食いに行くか、旅行でも行くかと考えたけど、とりあえず預金♪

片手技用の財布は趣味部屋のライティングデスクの引き出しに入れてある、 長財布でチャックの着いているやつ、付き合いで作った普段使わないクレジットカードも入って居る。 
ライティングデスクの上部からサビ猫がこちらを見ている、3畳で南向きの部屋だから、日中は日差しだけで冬でも温かい。
「コマ」
手をのばすと前足で抱え込んでなめてくれた。

緑の財布、あれ100有った、帯封してあったのが無い。 
深呼吸して会社に戻り、積立の満期分だけ定期にした。


仕事を終え、苦行の夕飯が済んでから100万の行方を千尋に聞いた。
「借りたから」
心なしか、声が硬かった。
「誰に?」
「家のお金だから、ちょっと借りた」
吐き捨てるように言う。
「家のお金なら借りる必要は無いけど、相談してから支出する。 あれは家のお金じゃなくて、僕のお金」
妹達みたいに逆ギレはしないけれど、だんまりを決め込むのが千尋。
しまいに、鼻くそをほじり出したりする、美人台無し(笑)

「使途は?」
下を向いて、何も言わない。
「共有財産でしょ」
ぼそっと言う
「そだね、婚姻後の稼ぎは共有財産になる」
「今まで、ヒロさんが稼いだ分、勝手に使っていたのだから、私が借りても問題無いと想う」
「ふぅん、って明人叔父さんが言った?」
よみうりランドに住んでいる、岳父の末の弟、元税務署員で今は税理士をしている、一族では切れ者だそうで理屈っぽい面倒な御仁。 

それからセックスレスに成った、僕が思い通りに動かないと、そっちから責めて、言うことを聞かせようとする。

食事は摂らないと身体も弱るけれど、エッチは出来なくても困らない、第一、好きな女とするので無ければ楽しくない。 もう睦事が楽しくないから、おしまいかなと想って放置しておいた。


会社に岳父から電話が有った、親父は証券会社に出かけていて、居なかった。
「ヒロさん、千尋に何か仕事をやってください」
はぁ?
「専業主婦では毎日辛かけん」
「えっと、前の病院に務めたまま共稼ぎのつもりが、相談無く、寿退職したのは、彼女ですが」
「それは知っちょるけんが、ヒロさんの会社で何か仕事を」
当時の貿易業は、小泉改革の前で、まだまだ書類が多く、僕も書類を作るのにIBMのタイプライターに7枚複写のカーボンを挟んで、一文字もミスが出来ないと緊張して仕事をしていた。
ワープロとパソコンが出た時にいち早く導入したのも、そのせいだ。

貿易自体が、特殊技能で素人には出来ないから、僕の片手技も通用し、稼げたのも有る。
「お母さんの希望で同居して、専業主婦になったとでしょう」
「はあああああああああ?」
岳父には、そういう事に成ってるの? もともと岳父の弟の仲人が本家だから同居しろと言った。

「何か行き違いが有るみたいですね」
無意識に声のトーンが落ちていた筈(笑)岳父が息を飲んでいるのが解った。
「あと、お借りしている金、夏には、お返しします、快くお貸しくだされ、感謝してます」
ん? 100万?

末弟、広斗の学資だったそうで、なんちゃらストアに貸していた駐車場代の上がりで払っていたのが、昨年末で契約が切れてとか言っていた。

うんうん、僕は学資、自分で稼いだし、後で母が出した入学金も親父に返せと回収された。
新宿の住人に随分助けてもらわなかったら、きっとドロップアウトしていた。

で、おまぃさんの倅はよたたにく(世田谷)にお住まいで、綺麗な彼女と おつきあいして、大根2本もって踊りゃんせ?
世田谷に住んでるって自慢してたものなw

さすが7つだか8つだか山をお持ちの方のご子息は違うと想っていたんだけど(笑)

僕は司法書士をしている友人に電話を掛けた。 仕事が終わってから区役所に用紙を貰いに行く。


新婚って楽しくて愛しくて美しいと想ってわくわくも有るんだろうと想っていたけど、苦味と辛さと(笑) 食べ物でも苦味と辛さだけじゃ続かないよね 甘いものがあってそれを引き立てるものだからさ、もう 良いかな。

「僕たちが実家に同居しているのは、僕の母のせいらしいよ」
不器用に飯の支度をしていた千尋が振り返った。
「ガス消して、ちょっと話そう」

「今日、お父さんから電話が有って、話した」
「お金、返すって言っていたでしょう?」
「僕が貸したことになっているみたいね」
「ヒロさんのお金だから」
「あれ?共有財産だから勝手に貸したんでしょ?」
黙り込んだ。

「それは、良いや だけどさ、なんで同居、おふくろの責任にしているの?」
また、鼻くそほじっている(笑)

「僕らに干渉してこないよね、挨拶だけでしょ、おまぃさんに気を使って過ごしやすいように配慮していると想うけど」
黙って頷いた。

「同居しろって言ったの、貴女の叔父さんだよね? 本家だからとかちゃんちゃらおかしな事を言って、だから豊島区のマンション契約しなかったんじゃん」
言ってて面白くなって来た。

「なんで、おふくろのせいにする? なんでそんな嫌がらせをするんだ?」
「嫌がらせじゃなくて、お母さんが言った事にすれば、お父さんも納得するから」
「何を言っているか、何をしてきたか解ってる?」
「ごめんなさい」
「ごめんしない、全部我慢した、貴女が好きだから、一緒に居たい、子をなして、二人で育てたいって プロポーズの言葉そのまんま、だけど、無理、離婚しましょ」
「2年経たずに離婚なんて親戚に体裁が悪いから離婚しない」
「好きだからじゃなくて、体裁で離婚しない?」
あははっと声を出して笑ってしまった。

千尋は寝室へ逃げていった。
暫くすると、着替えて出ていった。
仲人の叔父の所へ駆け込むか、看護学校時代の友人が二人いるから、そのどちらかのところか。

ブック式のバインダー内の緑の紙を見せる前に逃走しやがった。

右の指で顎をかいた、どうやったら一番穏便に済むだろうと考えを巡らせる。

こたつの中からサビ猫が出てきた、初代女王コマは千尋がいる間は、気配を消して大人しい。

動物嫌いの相手を見抜き、出来るだけ衝突しないように暮らしている。
「おまえにまで気を使わせていたね、悪かった」
喉下を撫でるとゴロゴロ言いながら、僕の手をザリザリする。

最近、コマは庭にでて、老犬に成った甲斐犬の清正と寝ているらしい、サビ猫と赤虎の甲斐犬が背中合わせで寝ると、混ざってしまうと母が笑っていた。

清正はブリーディングをお手伝いしている時に、当家で産まれた仔で、もう16歳になっていた。

ブリーディングの時に使っていた犬舎ではなく、1階のバルコンのリビング側に置いた、僕が中学の時にこさえた犬小屋の屋根に乗って、うつらうつらしている。

ティーゲル大王という、キジトラ雄猫他、妹達をサーヴァントにしている猫が下の階に居て、その仔達と清正は折り合いが悪く、他の猫は外へ出ても絶対に庭へ踏み込まないのだが、コマだけは清正と仲良く寝るし、どうかすると清正がご飯を譲って、食べるのを見守っている。

猫も犬も、親父が嫌いだ。 他に人が居ないと猫を蹴るし、清正は主人として、親父を立てて居たが、遊ぶのは僕とだったし、なんなら、脱走して、明治神宮をつっきり、原宿の街を一緒に駆け回ったのも僕(笑) 世田谷の施設に3度引き取りに行ったのも母と僕。

猫並みに3次元立体機動する甲斐犬、フェンスくらい飛び越えちゃうし、万年塀もよじ登って脱走する。

だから1800㍉の塀、壁が有るけれど、散歩以外はハーネスで繋がれている。

それも若い頃は力づくで首輪を壊しても逃げたけどねw

さすがに晩年は14の脱走を最後におとなしかった。

そして、千尋にも犬猫がなつかないw 今までの彼女には、皆なついたのに、うーん(笑)

動物が嫌いな人とは無理、僕が間違っていたし、正直、動物が嫌いな人が居るわけがないと想っていた、結婚してから、義母も牛を買っているけれど、動物は嫌いだと高美ちゃんが言っていた。

高美ちゃんは野良猫がすり寄ってくるくらい、動物になつかれる。
返品交換は無理かしらん、高美ちゃんが良ければだけどw

自分より弱い動物を慈しめない奴は子供だって無理っしょ
間違いを正すのは、早いに限る。

合わない相手と居るのは互いに不幸だし、まだ20代、やり直せるさっと千尋に言うセリフもあれこれ考えながら、こたつでコマを撫でていた。

千尋が居ないと僕、リラックスしている、親父が居ない時のリラックスと同じだと気づいた(笑)

人間も動物、動物を愛せない奴は人も愛せない、愛されたいと望むだけの愛情乞食だ。

お邪魔でなければ、サポートをお願いします。 本日はおいでいただき、誠にありがとうございます。