研究論文の要約1
訪問介護におけるケアマネージャーのICT利用実態と情報需要
ーアンケート調査に基づく分析ー
新潟大学経済学部准教授)大串葉子さんの論文を要約します。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsim/37/1/37_42/_pdf/-char/ja
1.はじめに
・2017年の時点で、高齢化率は26.0%(四人に一人が65歳以上)
・急増する高齢人口に伴って、施設を中心とした介護サービスでは対応できないのは明らか。
・高齢者への調査でも、自宅で介護を受けたいと回答する方が30~40%存在する。
・介護ニーズと医療ニーズを併せ持っている高齢者が、自宅等の住み慣れた生活の場で生活し、自分らしい生活を続けるためには、地域における医療、介護を担う関係機関が連携する必要がある。
・地域の在宅医療、介護を一体的に提供できる地域の関係機関の連携が重要で、そうした連携を支えるのは、関係者の意識的かつ円滑な情報の共有と、ツールとしてのICTの利活用である。
考察:介護と医療はセットで考える必要がある。その関係者間の連携が重要となり、連携の手段としてICTの利活用は必要ということと、それを使う関係者の意識を高める必要がある。
2.訪問介護事業所におけるICTの現状
・訪問介護サービスは、一人の利用者を複数のヘルパーが持ち回りで訪問するケースが多いため、ヘルパー間でサービス提供の記録と利用者情報を共有することが重要。
・ヘルパーは、サービス提供後、サービス実施記録を作成し、利用者印をもらい、控えを発行しなければならないが、中小事業所においては手書きの実施記録をデータ入力する時間がなく、電子化できていない。ただし、介護報酬請求は電子請求のため、全ての介護事業者が電子請求のためのシステムを導入している。
・小規模事業者(一か月利用者数40名以下)が69.7%、中規模事業者(同40~100名)が26.3%、大規模事業者(同100名以上)は4.0%となる。
・約7割の小規模な事業所では、ICT投資余力が大きくない。
・小、中規模の居宅介護支援事業所では、電子化、ICT管理に努めることができておらず、投資余力も乏しい。
・医療に関しては進んでいるが、介護との連携はできていない。
・相互接続などによる医療、介護の連携については未改定な部分が多く残されている。
考察:介護報酬の請求のため、すべての事業所に電子請求システムが導入されているが、事業所のほとんどが中小規模で、投資余力に乏しいため、電子請求システム以上のICTを導入検討する投資余力が少ない。ただし、利活用できる余地は多大にあるため、低コストまたは無料のツールなら検討の可能性がある。
3.ケアマネージャーのICT利用と情報需要の調査
・ケアマネージャーは、介護プランを作成して、ヘルパーと連携する必要があり、利用者が医療サービスを利用している場合は、医療従事者との連携も必要になっている。
・ケアマネージャーの年齢は、40~50代でほぼ7割を占める。
・ケアマネージャーの75%が居宅介護支援事業所に勤務している。
・利用者家族間でのもっとも困難な要因は、家族と利用者の意向の違いである
・利用者は、「家族に苦労をかけたくない」と、必要な介護サービスを断念しようとする方もいる。
・介護を困難にする一番の要因は、利用者に対する家族の理解不足である。
・利用者の体調や症状の変化について家族の理解が進まず、ケアマネージャーが利用者と家族の調整で苦悶している実情がある。
・ケアマネージャーが業務で利用している機器は、男性はパソコンのみ、女性はスマホのみの使用が多い。
・ケアマネージャーが日常業務で情報機器を使う目的は、薬の情報を得るためという目的が全体の7割で、次いで記録をつけるため、34%だった。
・飲み合わせや副作用について最新情報を検索することが主な目的。
・使ってみたいアプリケーションで上位は、「アセスメントやモニタリングで活用できる」、「病気や薬、介護や医療に関する最新情報が調べられる」、「介護費用の簡易的な算出」、「サービス提供施設や担当者と情報共有、連絡(36.6%)」、「必要なサービスの空き情報を調べる」
・介護サービスの空き情報については、10年前から需要があったが、解決できていない
考察:ケアマネージャーは関係者間と連携が必要だが、調整に苦心している。ICTの活用として、薬やサービスの最新情報を調べるという用途に大きなニーズがある。アセスメントやモニタリングにICTを活用したいという声が多く、ここが逆に課題と言える。
4.個人的な考察
訪問介護事業者は労働集約型のため、従業員(ヘルパー)の人数と受け持ち可能な利用者の人数が連動するため、大手であっても中小であってもヘルパー一人当たりの労働時間に大きな差はない。逆に中小事業者の方が多くの労働時間が掛かる傾向にあり、その理由としては、中小規模であるほど投資余力が乏しくなるから、と考えられる。
一方で、ケアマネージャーの業務特性として、利用者や利用者家族、医療やヘルパーとの意識合わせや調整ごとが多く、その連絡手段として当社でオススメするチャットツール(Slack)での情報共有は有効だと思った。
しかし、ICT機器への期待として、情報共有の優先順位は意外と低い。この理由としては、実際に使ったことが無いため、改善イメージが描きにくいとも考えられる。近年はLINEの普及などによって、個人的な運用の延長として受け入れられているのかもしれない。
施設空き状況や医療との連携については、今後のプラットフォーム整備が期待される。
薬やケア技術の最新情報を得るという目的で、スマートフォンやタブレットは有効活用できると考えられる。ただし私物機器によって間に合っている場合、施設管理者はそれがヘルパー個人の負担によって成り立っていることに気付きにくい。社用携帯をスマホにして、タブレットも持たせたりして、業務上の情報を得る手段を会社負担とすることを徹底することが、人材不足の中でも定着率を維持するためにも、今後は重要になってくると考えられる。
介護が必要になってくる絶対数は増加する傾向にある中で、ICTの利活用による省力化は必要だが、それを行うための業務見える化や分析が出来ない、投資余力が無い事業者が9割を超えているため、ICT利用が進まない、という現実がある。コミュニケーションにおいては、無料のチャットツールやWeb会議ツールを使う上でも、スマートフォンやタブレットの普及が最優先事項だと考えられる。