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天使かなんかの恋

すべてをなくしてしまった。わたしにとって、“すべて”というのは彼のことだ。

以前にも書いていたように、9月から中国に留学に行く予定だった。コロナがあって延期になってはいるものの、行くこと自体は決定していた。

はずだった。

入学直前になぜか奨学金取り消しになった。似たようなことはこれで三度目で、こんなことならコロナが理由だったらまだ良かった。ある日突然夢が絶たれた。私の夢は叶うことはない。

仕事は辞めることになっていたし留学のために携帯を買い替えたり必要なものを買い揃えたり何万円も支払って東京まで中国語で書いてもらえるグローバル健康診断を受けに行ったりもした。何度も行った時のことを想像して楽しみにしていた。

今から8年前、あの人出会ってなかったらわたしは中国語を勉強することも、中国に旅行することも、留学をしたいと思うことも、夢を持つこともなかった。彼に出会ってからわたしの人生は本当の意味で意味をもらったといっても過言ではないし、あれからわたしの人生は「ただ生きているだけ」ではなくなったのだ。

ものすごくショックだった。ショックを受けすぎてご飯が食べれないし毎日毎日泣いている。生きる意味を失った。親友に泣きながら電話した時「これまでと今、たくさん苦労してる分、ぜったい人の何倍になっていいこと返ってくるはずだから」と言われ大号泣した。

生きるのに意味なんてないよ、と友達に言われた。その通りかもしれない。でも私は、意味を見つけないと、この世界で生きれなかった。私にとってはただ生きるだけがものすごく大変だった。つらかった。だから彼と出会って夢を見つけた時わたしは「これを叶えるまでは、彼に夢を叶えた姿を見せるまでは、あの人にまた会うまでは死なない」と思った。実際、ものすごく頑張れた。

出会ったあの日から、彼はわたしのすべてだった。選択も考え方も未来も夢もそのための行動も努力もすべてひとつだけに紐づいていた。ドンマイとか傷心とかそんな言葉を投げられる度「すべてをなくすって、意味、わかる?」と怒りが込み上げる。すべてだよ、すべて。生きてる意味もここまで歩いてきた道も諦めないでいたことお金も努力も8年という歳月も、全部。この痛みが一時的なものではなくこの先私が一生抱えて生きていくほどのものだとわかっていない人にから言われる言葉ひとつひとつに、馬鹿みたいに傷ついて、ひとり泣く。わたしが今ここにいるのも、目の前にいるあなたを助けているのも、全部、あの人に出会ってなかったらありえないことだと知っているんだろうか。この痛みが癒えることは一生ないと思う。

だけどいくら言ったってこの状況は変わらないし、わたしが生きる意味をなくして8年前のようにただ生きている「だけ」になっても時間は過ぎる。

こうなった今、わたしはどうやって生きていったらいいんだろう。どうやって未来を見つめたらいいんだろう。出会わなかったらよかったな。こんなことになるんだったら。だってさ、中国人じゃなくてもよかったじゃん。日本人でもカナダ人でも台湾でもオーストラリアでもアルジェリアでもよかった。なのにどうして、わたしが出会ったのは彼だったんだろう。中国人の彼だったんだろう。

出会ってしまったことは消せない。貰った感情も消えない。愛はなくなって顔も思い出せなくなって連絡もしなくなって楽しかったことを伝えようとも思わなくなって生きてるかどうかを気にすることもなくなって、それでもわたしの中に、わたしの一部になって消えないでほしい。なくならないでほしい。

こんなに辛いのに、これ以上辛いことなんてないのに、仕事に行ってジョークには笑って普通に生活を送っている自分が怖かった。気持ち悪くて最低だと思った。

昨日好きなバンドの人がインスタライブをしていて、私が今思ってることをそのまま言葉にしてくれていて深夜三時に号泣した。

「極端に言うと人身事故で誰か死んでるなぁって思いながら読む電車の中でのジャンププラスとか。なんだろうなぁ、なんか、やべぇつらいことあったのに割と人と会えば社会生活してりゃあ冗談は言われるし冗談は受け止めるしそれでなんかまあ笑えなくもないっていうのはキモっていうか。怖っていうか。天使の恋っていう曲ができたんすわ」

瞬きの0.4秒の隙間 滑り込んでた 天使かなんかの恋
癇癪と僅かでも確実な違和感が 見ないようにする
ちょっとした冗談を受け取って一つや二つ返して笑えちゃってるのがおかしくって こわくて 情けないのさ
憂いても何も変わりはしないぜ なんて言葉でこそ何も変わりはしないぜ
テレビの人殺しのゆるふわパーマって あれ どこのどいつが当てたんだろう
瞬きの0.4秒の隙間 ただの幸せなどないと思い知る

歌なんて聴けないと思ってたけど泣いてしまった ありがとう 会いたいしありがとうって直接言いたいしそんなことだけどまだ死なないでおく

なんだか正直もう自分の将来のこととか考えたくなくて、本当に嫌で、もうずっとこのまま考えずに働いていよう。自分の行きたいところに自分の力でなんとかして向かおうとする、というのを何年もやってきたけど、そうではなくて、大して何かをやるつもりはさらさらなかったけど打たれた玉を全力で打ち返していたら、気づいたら思いもやらない場所に辿り着いていた、みたいなこともあると思う。それでいいやって思ってしまった。これからがこれまでを決める、という言葉がお寺の看板に書いてあって出会うべき言葉に出会うべき瞬間に出会っているなぁと泣きそうになった。

未来のことなんて考えたくなくて、それで許されたい。

2021/10/16 やっと連絡できるまで精神状態が回復した。また故郷を離れるそうだけど二年後戻ってきて自分の生まれ育った街で小さな病院を開くそうです。泣いちゃったよ、あまりに素敵でさ。

中国留学とか彼のいる未来を選ばない。諦める、という選択をした。書いてしまうと簡単だけど、正直そう決断するまでにものすごく時間がかかった。つらい作業だった。でも、その道を選ばないと決めたらなんだかスッと楽になった。出会わなければよかったとまで思ってしまっていたけど、忘れられても覚えていたい。この先ふたつの線が交わることがなかったとしても最近どう?って連絡をしたい。あなたの近況を知りたい。二人は一生違う場所で違う方向を向いて、まったく関係のないひとになっても、同じ惑星のどこかで生きていることを感じながら自分の道を歩いていきたい。

あの人と出会ったことはなかったことにならない。あの人と出会って違う道を進んだ私の今が、輝きますように。いつか、また、どこかで。

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