ばれ☆おど!⑮
第15話 天守閣からの絶景
さて、正面エントリーの方はというと――。
「フフフ、お前らにはずいぶん痛めつけてもらったな! たっぷりとお礼をしてやるよ!」
そう西氷が言うと、黒服たちの一人が言った。
「降参しろ! 得物を捨ててゆっくりとこっちに来い」
その時、明かりが突然消えて、あたり一面真っ暗になった。
敵はパニックに陥る。
特に西氷の狼狽ぶりはひどかった。
こうなれば緑子の独壇場である。
暗闇からの正確な射撃は緑子の得意とするところだ。
敵はめくらめっぽうに銃を撃ちまくってくるが、次々に放たれるボウガンの矢は確実に敵をとらえる。
銃が弾き飛ばされた敵は恐怖と絶望に正体を失い、逃げ惑う。
だが、次々に腕や足を撃たれて、戦闘不能となる。
ところが、その時、突然明かりがついた――。
「バカめ。同じ手は食らわないぜ。そんなことがあろうかと、予備電源に切り替えられるようにしておいたんだよ」
そこには、敵のリーダー、スペクターがいた。十人ほどの黒服を従えている。
そして拘束されて身動きできないカン太もいた。二人の黒服に銃を突き付けられている。
「俺の部下も不甲斐ないがな」
そう言いながら、倒れて伸びている部下を蹴り上げた――小さなうめき声が聞こえる。
「だがな。今回は俺の勝ちだ! おとなしく投降しろ!」
「断る!」
源二はそう叫ぶとシータに何かの合図を送った。
「ならどうする? こいつの命はないぞ」
「こうするんだ!」
「では起動します。源二兄様」
シータがそう言うと、一瞬だけその目が光った。
すると、カン太の制服のポケットから、10匹ほどの虫のようなロボットが這い出してきた。
そう。あの時〝ランドサット〟の体内から出てきた捜索用昆虫型ロボットたちだ。
ロボットたちはカン太を拘束しているインシュロックを切断すると、黒服たちの胸ポケットに侵入した。その間わずか10秒弱。
同時に起爆装置が作動し、小さな爆発が起こった。
その衝撃で黒服たちは全員気を失う。
スペクターは爆発音におどろき、振り返る。
そして、慌ててカン太を拘束しようと近づいた。
「ダメよ!」
配電盤から駆けつけていたうるみが、カン太の前に立ちはだかる。
「わははははは……」
スペクターは銃を構えながら言う。
「この前も言ったはずだ。おれには通常の攻撃は効かない。お前たちの行動はすべて読める。見切れる。それが俺の能力だとな」
源二はフルオートでBB弾を撃ち込む。
緑子はボウガンを連射する。
キーン、キン、キン、キキキキキーンキーン、キン、キン、キキキキキーン、キン、キン、キン、キン、キキキキキーンキーン、キン、キン、キキキキキーン、キン、キン
「わははははは……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄」(作者注※まあ、あれですよ。あの有名なあれです)
スペクターは銃身ですべてを受けて弾き飛ばした。
「じゃあ、こういうのは無駄かしら?」
うるみはそういうと目を閉じてスペクターの前に出て攻撃の構えを見せた。
「なんのマネだ?」
「あなたは、相手の目の動きから、本能的に相手の行動を予測しているんじゃないのかしら?」
「考えたな。だが、お前はそれで、どうやって俺を攻撃するんだ?」
「緑子さん! 目を閉じて撃って!」
うるみがそういうと緑子は目を閉じて、ボウガンの矢を放った。
鈍い音とともに、その矢は深々とスペクターの左腕を貫く。
「うっ……クソ……目を閉じて攻撃できる奴がいるとはな。暗視能力が高いだけと思っていた俺のミスだ……」
緑子は次の矢をセットして引き絞る。
「……組織の人間をなめるなよ!」
そう言うとスペクターは右手で、何かのスイッチを押した。
するとあたり一面が霧に包まれたかのように白くなる。
どうやら催涙ガスのようだ。
全員がせき込み攻撃どころではなくなる。
ゴホゴホ、ゴホ、ゴホン…………
咳込みながら、シータの誘導で辛くも動物愛護部の面々は、その場から脱出することができた。
だが、その隙にスペクターはまんまと姿を消していた。
◇ ◇ ◇
一週間後の放課後。動物愛護部の部室は、晴天の空の青さを窓から取り込んで絵画のような落ち着いた美しさをたたえていた。
うるみはカン太に声をかける。
「吾川先輩。部活が終わったら少し時間あるかしら?」
「え? なんで?」
「この前、手荒なマネをしたことを謝罪したいとおじい様がおっしゃるの」
「そんなこと気にしないでいいよ」
「いいえ。これはケジメです。お願いします」
そういうと、うるみは大きな瞳でトキメキオーラを放ちながら、じっとカン太を見つめた。
カン太の心拍数は確実に上昇の一途をたどった。
「は、はい。ではお邪魔します!」
すると、緑子が部室に入ってきた。
「カン太? なんか顔が赤いんじゃない?」
「い、いや、気のせいだろ」
「なんかあやしい」
「だから、気のせいだって!」
「なに、ムキになってるのよ」
「え、ええと…………」
「ちょっと! 漆原さん! 私のカン太に手を出さないでよ!!」
「あら、なんのことかしら」
「とぼけたって、私にはわかるんだからね!」
こうして、動物愛護部の部室はいつもの光景が繰り広げられた。
◇ ◇ ◇
それから数時間後、カン太は約束通りうるみの自宅に来ていた。
「さあ、召し上がってください」
うるみの祖父、半蔵がお詫びの言葉とともに食事を勧める。
「それにしても、どうして急に謝罪を?」
「それはじゃな。うるみが、怒ってな。それでこうなった次第なのじゃ」
カン太がうるみに視線を移すと、少し頬を染めているような気がした。
「……あ、そうだ! そういえば西氷はあれからどうなったの?」
「あ、そうね。西氷の悪行は証拠とともに、ネットで大々的に拡散させたの。当然だけど大炎上ね。警察もやっと重い腰をあげたわ」
「そうか。それじゃあ、アイツは」
「そう。親に勘当され、社会的にも抹殺されて、もう何もできなくなったのよ。私たちの警告を聞き入れなったから、仕方ないわね」
「そうか。でもちょっとだけど、同情するよ」
「やさしいのね」
「ハハハ……ところでさ。このマンションの人たちから、なぜか深々と頭を下げられたんだけど、どうしてなんだろう?」
「それは、このマンションのすべての住人はこの漆原家の下忍だからじゃ。ガハハハハハ……」
「えぇ! それじゃあ、まるでここは江戸時代の城みたいじゃないですか」
「さよう。ここは天守閣みたいなものじゃな」
高層マンションの最上階から見渡す雀ケ谷市の夜景は、まるで宝石箱のようにきらめき、暗闇を美しく彩っていた。
カン太は思う。
(リアルお姫様なんだね。彼女はプリンセス! そう。彼女は疾風のプリンセス!)
(第三章おしまい)