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ばれ☆おど!㊷

第七章 爆炎の貴公子


第42話 薄紅色の瞳の魔術


 大歓声の中、ひとりの女がギロチンの前に曳きだされた。

 任務に失敗した者に死を!
 任務に失敗した者に死を!
 任務に失敗した者に死を!!

 大観衆が狭い空間でひしめき、がなり立てている。

 その女の水色の髪は、なぜか毒蛇を連想させる。
 ――四肢は鎖でつながれ、厳重に目隠しされている。そして彼女の傍らのギロチンの刃がきらめき、これから彼女に訪れる不幸を物語っていた。


〝サテンドール〟の本拠地ともいえる地下巨大施設〝ハーミット〟は香港にあると噂されている。

 いま、その地下10階の闘技場に集う大勢の者が、その女への制裁を望んでいた。

 闘技場の周りを囲む観客席の一角に貴賓席がある。
 その中央に、組織のリーダーらしき人物が、じっと、その女を見据えている。
 執行人が、女を跪かせる。

「さあ、最後の言葉を聞かせてもらおうか」

 貴賓席の中央に堂々と陣取る美丈夫は、そう言うと手を上げて執行を促す。
 執行人は合図を認めると、女の水色の髪を乱暴に引っ張って、傍らのギロチンの木枠に彼女の首を嵌め込んだ。

 そして、闘技場は大歓声に包まれた。

「メデューサよ。任務に失敗した罪は重い。我が組織が失ったものは大きい」

 彼女の額にはうっすらと汗が浮かんでいる。その中の大きな一粒が流れ落ち、目隠しの布に吸い込まれていった。メデューサは声の方向に向かって顔を向け釈明する。
「お待ちください。スザク様。どんな罰もお受けする覚悟ですが、このメデューサは、まだお役に立てます」

「お前は我がサテンドールの掟を知っているはずだ」
「スザク様、お願いでございます。私はどうしてもあの高校生たちに復讐したいのです。罰は必ずお受けします。どうかお聞き届け下さい」
「そう言って、お前は逃亡しようとしているのではないのか?」
「わが組織の追跡者(チェイサー)から逃げ切ることなど不可能なのは、スザク様もご存じのはず」

「フフフ……ハハハハハ……」
「スザク様?」

「そんなに復讐を果たしたいか?」
「はい!」
「そうだったな。お前とスペクターの報告は聞いている。その報告はわが父上が非常に興味を示されている」

「……といいますと?」
「お前たちを倒した高校生たちを我が組織に従わせたいと仰せだ」
「?!」
「スペクターはまだ意識が戻らぬ。おまえに償いのチャンスをやろう。ただし絶対に殺すな。必ず生け捕りにして連れてくるのだ」

「ははっ、ありがたき幸せ!」


 ◇ ◇ ◇

 その頃、カン太は巨大モンスターと格闘していた。
 体長は優に人間の身長の五倍を超え、頭に二本の角をもち、全身は固い鱗に覆われている。時々、口から火を吐きながら襲い掛かってくる。

 ユニークスキル〝三刀流〟!!(作者注※ちょっと似てますがアレとは違います)

 カン太の華麗な技の前に、モンスターは静かに倒れた。
 こんな雑魚には用はない。カン太は急ぐ。

「よし! 間に合った! あと五分。つーか、先客がいるし。もう攻略法が出回り始めたのか。それにしても、弱そうなやつらだな。五人パーティーか、たぶん全滅だな。あれじゃ」

 五分後、カン太は時計を見ながら猛ダッシュする。
 これはタイミングの勝負だ。
 出現個所はあの三つの岩があるところと、その反対側の窪みのところだ。どちらかの周辺に必ず出現する。

 カン太は窪地に向かって行く。
 五人パーティーの方は岩の方に向かう。
 カン太は、レアモンスターがドロップする貴重なアイテムを入手するために、何度も倒す必要があった。
 そのアイテムを合成して武器の威力を確かめたい。その一心で、何度も狩りをしている。実にこれで八十九回目だ。さすがはネトゲ廃人と言えよう。
 しかし、いまだドロップには至っていない。

「ちっ、向こうに行ったか。仕方ない。それじゃあ、見物でもするか」

 案の定、五人パーティーは瞬殺される。カン太はため息を一つ吐くと、気をとりなおして、街に向かった。別の場所で狩りをする準備のためだ。

「また三十分後だな。今日中になんとかドロップさせたいものだ」


 吾川カン太。十七歳。雀ケ谷南高校三年生。この春より動物愛護部部長。趣味はゲーム(おもにMMORPG)。そして女装。
 先月、前部長の源二光蔵から、動物愛護部の部長を引き継いでいる。だが、部活動はなおざりだ。
 まあ、春休みのせいもあるのだが、ずっと、引きこもってネトゲ廃人と化している。(作者注※外出自粛要請に協力的な理想の市民である)


 別の場所で狩りをしていたカン太は、時計に目をやる。
「よし、あと十分だ」
 岩山のわき道から入る洞窟の奥深くに、お目当てのレアモンスターの出現ポイントがある。
 到着すると、また、あの五人パーティーがいた。

「チッ、またかよ」
 カン太は舌打ちすると、五人パーティーに向かってチャットを試みる。

「わるいけど、この狩り場は譲ってもらえないだろうか?」
「なんでですか?」
「さっきのでわかったろう? 君たちではあのモンスターを倒すのは無理だよ」
「そんなことやってみないとわからない。さっきとは装備が違うし」
「俺にはわかるんだ。その装備では無理だ」
「早い者勝ちだ。それがこのゲームのルールだ」
「……わかった。そこまで言われたら仕方ない」

 出現時間まで残り30秒。タイミングを計る。1000分の1秒でも早い方が、交戦することができる。

 残り10秒……9秒、8秒、7秒……。

 5、4、3、2、1

 その時、カン太のスマホに着信があった。
 いま、流行りのアニメの主題歌が鳴り響いている。(作者注※呪術廻戦のOPです)

 カン太はかまわず突っ込んだ。
 五人パーティーと今度は同じ方向だ。どちらが早いのか勝負だ。
 慣れているカン太に僅かながら分がある。とはいえ、スマホの着信に集中力をかき乱されたカン太は、またしても相手にモンスターを譲る羽目になってしまった。

「クソがっ!」

 カン太はコントローラーを思いっきり床に投げつけた。

 まだ、スマホからはアニソンが流れている。
 スマホに目をやると、新生徒会長である千年満里奈からの電話だった。
 慌てて、電話に出る。去年の夏以来の電話に緊張が走る。
「もしもし、吾川君? ごめんなさい。急に電話して……いま、私、学校で悪い人たちに捕まっているの」
「え?!」
「吾川君。助けて」
「いったいどうしたの?」
「…………」
「はい。もしもし……? ……え?!」

 満里奈からの連絡は、驚くべき内容であった。

 春休み中で、休校だが、部活動などの生徒や教師、数名が学校に来ていた。運が悪い者は、まるで石のように固まって動けなくなってしまっているという。

 難を逃れた者は、学校から逃げ出し、今学校にいるのは、動けなくなった者数名と、今電話している新生徒会長の満里奈だけだそうだ。

 奇妙な催眠術を使う水色の髪の女が、黒ずくめの男たち三人を従えて、動物愛護部の部室に居座っているという。風紀委員の冷泉玲奈が満里奈と一緒に人質として捕らえられているらしい。
 そして、その女は動物愛護部部長であるカン太との交渉を希望しているというのだ。

 カン太はスマホを持ったまま家を飛び出す。
 そして、自転車にまたがると、全力で漕ぎだした。


 風を切りながら、カン太は思う。
(きっと、あいつだ!)



(つづく)



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