ばれ☆おど!㊻
第46話 異能力者集結!
え? えええ? 拒否?
ぜんじろうの意外な答えに、うるみは戸惑った。
快く引き受けてくれる筈のぜんじろうである。だが、何故かそうではなかった。
うるみはぜんじろうから目をそらし、視線を落とした。
「そう……。無理強いはできません。でも本当に困ったわ」
ぜんじろうは強い目をうるみに向ける。
「そうじゃない。誤解だよ。俺がどうなろうと構わないんだ。だけど、漆原さんを危ない目にあわせたくない。それだけだよ。俺はもちろん行く。人質も必ず助け出す。だけど、そのかわり、漆原さんは行かないでくれ。頼むから!」
うるみの妖精を想わせる透き通った声がする。
「……ありがとう。でもね。そういうわけにもいかないの。私も行くことが人質の交換条件になっているし。それにね、私はどうしても行かなければいけないのよ」
「どうしても?」
うるみは、青みがかった瞳をまっすぐにぜんじろうに向ける。その瞳は、深い森の中にひっそりとたたずむ泉のような、神秘的な輝きを放つ。
「そう。どうしてもよ。だって。ずっと一緒に戦ってきた仲間ですもの」
「そうか。うん。わかった!」
ぜんじろうの表情が急に明るくなった。
「じゃあ、一緒に行ってもらうわ。もちろん、私を守って頂戴」
うるみはいたずらっぽく微笑んだ。
「はーい。お強い漆原さんの足手まといにならないように気を付けます」
ぜんじろうも肩をすくめて微笑み返した。
そして、ぜんじろうの表情は何か決意を秘めたものに変わった。
◇ ◇ ◇
翌日の放課後。
南校動物愛護部の部室には、物々しい様子で集まっている学生たちがいた。
カン太をはじめとする南校のメンバー、そして他校から樹里とぜんじろうが訪れている。
それぞれに二つ名がある異能力者たち――。
吾川緑子 暗闇からの執行人(弓矢必中能力)
漆原うるみ 疾風のプリンセス(瞬間移動能力)
深牧樹里 歌う猛獣使い(動物催眠術)
毛塚ぜんじろう 邪眼の人形使い(動物憑依能力)
吾川カン太 インスタントパイロット(機械操作超理解力)
――この5人の異能力者たちが人質解放の交換条件になっている。
南校動物愛護部、現部長であるカン太が最初に発言する。
「今日はこちらまで集まっていただき、ありがとうございます」
ます、他校から出向いてくれた樹里とぜんじろうに謝辞を述べた。
すると、カン太は全員を見回しながら、ポツポツとした声の調子で先を続けた。やや聞き取りづらい。
もともと、陰キャであるカン太は、大勢の人の前で話すのが苦手だ。そのせいもあり、はっきりと大きな声で話すことに慣れていない。すると、このような話し方になる。
だが、それが、うまいことに逆効果を生んでいる。よく注意して聞かないと、聞き逃してしまうため聞き手の集中力を高めている。
「さて、今回の誘拐事件で人質の交換条件は、ここにいる5人が指定の場所まで行くことです。もちろん、行くだけでは済まないでしょう。我々を恨んでいると思われるので、どこかへ連れ去って、復讐を果たそうとしているに違いありません。ですから、我々は言いなりにならずに、何とか人質を救出しないといけません」
そこに綾香がすねた口調で横やりを入れた。
綾香の声は、反対に大きくはっきりして聞きとりやすい。
「まあ、部外者から言わせてもらいますとね。これ、警察に頼んだ方が、早いんじゃないの?」
カン太はいつもの口調に戻った。
「いや、すでに、人質のご両親が、警察に連絡していると思うよ。でもさ、警察が動いていることが分かった時点で、人質が殺されることになっているんじゃないかな? 警察だと動きに制限があるし、期日を守ることは無理だろ? だから、僕ら有志で救出しようというわけなんだ」
金髪お団子頭の綾香はお餅のように、頬を膨らませた。
「あ、そう! 頑張ってね」
すると、カン太は、鋭い目でまっすぐに綾香を見つめた。
「その有志には、間宮さんも含まれている。協力してくれないか?」
綾香の表情が、みるみるうちに明るくなる。
「……もちろん! もちろん協力する。するよ。やっと、わたしの活躍が脚光を浴びる日がきたわ。アハハハハハ……」
大喜びして、はしゃぐ綾香に、カン太は少し後ずさる。
「……いや、あくまで裏方に徹してくれることを約束してもらわないとね。それが条件だけど」
「わかったわ。腕の見せ所ね」
カン太の声の調子が、だいぶ聞き取りやすいものになってきた。
「さて、みなさん。漆原さんの家の関係の人で、コトリさんという方に今回協力してもらいました。現地まで調査に行っていた彼女が、たった今情報を持ち帰ってきました。それらをもとに皆さんと今回の件の作戦の打ち合わせをしたいと思います」
カン太はそう言うと、ディスクを取り出し、PCに挿入した。
画面が立ち上がると、現地の地図の詳細、各ポイントの画像。付近の施設など詳細なファイルが目に飛び込んできた。
重要な画像や地図だけ印刷して、全員に配る。
すると、カン太はシータを呼ぶ。
「シータ。悪いけど、状況の詳細を説明してくれないか?」
シータがヨタヨタとかわいらしく、歩いてくる。カン太の傍に到着すると、止まった。
すると、ぬいぐるみ型ロボット〝シータ〟は話しだした。
「みなさん、こんにちは。私はシータ……」
それを見て、もちろん、綾香はなごんでしまう。
「かわいい……」
綾香はシータを抱き上げた。
「間宮様。私を下ろしてください」
「ダーメ。このままお話してね」
綾香の目は、すでにハートマークになっていた。
「わかりました。ではこのままで、お話し致します」
そう言うと、シータはこれまでの経過と、先ほどのコトリが持ち帰った情報をもとに分析を行った結果を伝える。
「まず、状況を整理してみます――犯人たちが指定した場所ですが、港に係留されている船のようです。5艘用意されていて、分散して移動するようです。そこから近くの無人島に隠してある大型船に乗り換える用意がされています。人質は二人、港にある小屋に監禁されています。手足を拘束された状態です。見張りが一人小屋の前にいて交代で監視しています。犯人の構成人員と装備ですが、リーダーのメデューサ以外に戦闘員が5名いるようです。武器は短機関銃〝ウージー〟で、夜間戦闘用のレーザーサイトが装着されています。全員防弾チョッキを着こんでいます。戦闘員の熟練度までは確認されていません」
「その戦闘員たちは、どこで待機しているの?」
カン太が真剣な面持ちで疑問を口にする。
「はい。戦闘員は分散して待機しています。今は無人になっている建物が港を中心として幾らかありますが、港を挟んで東側と西側の建物に二手に分かれて待機しているようです。西側にはメデューサがいるようです」
その後、さらにシータの説明が続いた。
説明が終わると、カン太が話しだす。かなりはっきりした口調である。
「みなさん。それではこれから作戦を説明します。部長であるオレの独断ですが、何かあればご意見をどうぞ」
即座に緑子が口をはさんだ。
「ちょっと、部長の独断って何よ?」
「みんなでワイワイやってもなかなか話しはまとまらないだろ? 今は何よりも急ぐことが優先だよ」
「だからって、カン太が独断で決めるなんてありえないわ。みんな命かかってるんだから」
「…………」
緑子の発言にカン太は黙り込んでしまった。
しばらくの間、誰も口を開こうとしなかった。
長い沈黙が訪れた。いたたまれないような緊張した空気がその場を支配する。
………………………………。
その沈黙を破ったのは、うるみだった。
「私は部長に命をあずけるわ!」
澄んだ声が部室に響き渡った。
(つづく)