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ばれ☆おど!㊲

 第37話 決め台詞は空振りで


「キャーーーー!!」

 エントランスの方から、大きな悲鳴が上がった。
 すると、瞬く間に大騒ぎとなり、イベント会場は大パニックに陥った。

 源二、サクラをはじめとする、動物愛護部の部員たちが、ボランティアで、猫の譲渡会を手伝っている時であった。
 騒ぎを聞いて、彼らは一斉にそちらに振り向く。
 源二、カン太、うるみ、シータを抱いた緑子は走り出す。続いて、サクラ、ぜんじろうもそのあとを追う。


「なんだ? この臭いは?」

 途中、あまりもの臭いに、源二は顔をしかめる。

 エントランスホールに到着――。

 すると、そこには、見たこともない姿になり果てた動物がいた。
 おそらく、すべて猫なのだろう。
 彼らは、様々な手段で虐待を受けていたに違いない。
 その姿はとても正視に堪えないものであった。

 苦しそうによろよろと歩く猫が、腹から飛び出た内臓を引きずりながら、恨めしそうに、うつろな目を、こちらに向けている。
 そうかと思うと、焼けただれ、ぶらさがった皮膚を跳ねさせながら、暴れまわる猫が、異臭をはまき散らしながら、こちらに迫ってくる。

 うわっ!

 思わず、源二は後ろに飛びのいた。
 その後ろから、目から血を流して、歩き回る猫がぶつかってきそうになる。
 おそらく、眼球をくり抜かれたのだろう。
 他にも、ナタのようなもので、四肢を切断されて、息も絶え絶えになった猫。
 バラバラになった猫の死体の数々……。

 狂気としか言いようがない。
 誰が、こんなことを? 想像すらかなわない。
 およそ、まともな人間のなせる業ではなかった。


 源二が叫ぶ。
「シータ! 保健所と警察に連絡する。まずは警察だ!!」
 さらに、カン太にも指示を出す。
「アカン! ユーは保健所に連絡だ!」

 警察との通話が始まると、源二は現場の状況を、気持ちの高ぶりを抑えながら、できるだけ冷静に説明する。

 数分後、パトカーが何台もやってきた。イベント会場は物々しい雰囲気に包まれた。
 妖精を想わせる美少女、うるみは口を開いた。
「部長、まさか、これは?」
「うむ。異常者の仕業で間違いないが、サテンドールとの関りも、否めない」
「そうね。西氷の一件(※11話参照)の時も、裏でつながっていたわ」
「これは、我々が動く必要があるな」
「ええ」


 しばらくすると、事件を嗅ぎ付けて、新聞部のアイリと大福丸が駆けつけてきた。
 金髪のツインテールのアイリの声が響きわたる。
「クソがぁ! もう少しでスクープ写真をゲットできたのに」

 二人が、駆け付けてきたときには、すでに保健所から派遣されたと思われる業者によって、すべての猫が引き取られていた。
 大福丸が、言う。
「部長、残虐すぎる画像は校内新聞では、ちょっと」
「確かにな。学校側からストップがかかるな」
「今回は取材内容を掲載して、よしとしましょう」
「そうだな。ただし、見出しはド派手にな!」
「はい!」

 新聞部の二人は、後輩を一人を連れて、現場取材に取り掛かった。
 一方、源二たちは犯人像について検討中であった。
「シータよ。ユーに搭載されたAIの推理力を駆使する時がきたようだ」
「いいえ。源二お兄さま。まずは情報収集が先決です。ここは新聞部に協力して、目撃者の証言を集めることから、始めましょう」
「確かに、その通りだ。では……」

 そこにアイリが割って入る。お馴染みのポップコーンを片手にしている。
「おおー、そうか。そうか。お前たちも取材に協力するとはな」
「ノン、ノン。ただの情報収集だ。取材とは全く違うのだが」
「……ではお互い情報を共有するという協定を結ぼう」
「ふむ。そうだな……。わかった。その申し出、受けよう」
「じゃあ、別行動で、しらみつぶしだ!」
「わかった」

 ここにいる源二、アイリ、うるみ、のほかに、カン太、緑子、サクラ、ぜんじろう、大福丸、のほかに市立高校の部員6名。以上14名での聞き込みが始まった。
 イベント会場にはまだ、何人かの人たちが、残って話し込んでいる。老若男女を問わず、聞いて回った。


 すると、事件の概要が見えてきた。
 あらましはこうである――。
 黒いワンボックスカーが入り口に入ってきたと思ったら、
 中から、二人の男女が下りてきた。
 二人とも面を被っていた。
 男の方は狐の面。女の方はカエルの面。
 車から、スケボーに大きな箱を載せ替えて、エントランスホールまで運ぶ。
 移動すると、箱をひっくり返した。
 すると、中から、虐待を受けた生きた猫と、バラバラの死体になった猫が出てきた。
 事が済むと、男女はスケボーに乗り、車まで、あっという間にもどる。
 彼らが乗り込むと車はその場から走り去った。

 そして、イベント会場は大騒ぎになったという。

 源二が口を開く。
「問題は、面を被った男女の正体だ。必ず突き止める。必ずだ!」
 ショックで青ざめていたサクラは、それに賛意を示す。
「そうですね。こんなことは許されない。絶対に犯人には罪を償って貰いましょう!」
 両部長が、そう言うと、全員気勢が上がる。
 そこに、アイリが入ってくる。
「ふふふ、面白くなってきた。取材させてもらうが、異存ないな?」

 カン太が、申し訳なさそうに、言う。
「あのぅ、言いづらいんですが、それって、警察に任せた方が……」

 ボスッ

 鈍い音がした。
 カン太が、苦しそうにうずくまる。
 そう。あのアイリのボディーブローが、カン太のみぞおちに決まっていたのだ。
 そこに、アイリの得意技である回し蹴りが炸裂する。

 カン太は思う。
(今日も無地の白だ! うへへ)
 後頭部に衝撃を受け、カン太は前のめりに倒れ、気を失った。

 アイリは高らかに右手を上げ、ガッツポーズをとる。
 そして、地面に、のびているカン太の頭を左足で踏み、ぐりぐりしながら言う。
「我が新聞部のネタを奪うものは、何人たりとも許されない。わかったか!」
 気絶しているカン太に、その声が届くことはなかった。

 そして、アイリの迫力にのまれたイベント会場は、沈黙した。


「……………………」


 最初に口を開いたのは、源二である。
「見事な技であった。ユーの情熱には感服する。だがな……」
 源二の発言を遮るように、うるみが言う。
「でも、現実問題として、犯人捜しは警察の方が、早いのは確かね」

 アイリは少し悩んでから、答えた。
「確かにそうね。でも、お前たちは、本当にそれでいいの?」
「そうね……。それじゃあ、ダメね。私たちにはどうしても、やらないといけないことがあるの」
 うるみは、妖精が囁くような声で続ける。
「だから、やりたいわ。その犯人捜し。いいいでしょ? 部長」
「もちろんだ。ユーの心意気しかと受け止めた。その方法だが……」

 アイリが、ポップコーン片手に、モグモグと小動物のように、かわいらしく頬張りながら、答える。
「犯人の情報は、男女二人組。外黒塗りのワンボックスに乗ってきていた。それと、現場に落ちていた、犯人のものと思われる、なんの特徴もないバンダナ。これだけで聞き込みは無謀だろうな」

 源二は眉間にしわを寄せながら、呻いた。
「悔しいが、今のところ、犯人を見つける効果的な方法がない……」


 ぜんじろうは思う。
(フフフ……チャーンス。漆原さんにいいところ見せてやる!)

「方法なら、ありますよ」
 きりりとした顔をうるみに向けて、ぜんじろうが、そう言い切った。

 アイリは金髪ツインテールを跳ね上げ、ぜんじろうをじっと見つめる。
「じゃあ、その方法を伺おうか」
 アイリの問いにぜんじろうは答える。
「うちには究極に鼻が利く愛犬が2匹います。警察犬など目じゃない」

 ぜんじろうは、うるみを見つめながら、続ける。
「俺に任せてください。あなたのためなら、俺は死ねる!」

 ぜんじろうは思う。
(よし! きまったぜ)

「………………………………」

(……あれ?)


イベント会場は再び、長い静寂に包まれた。



(つづく)


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