ばれ☆おど!㊸
第43話 選ばれし者
ドガッ!!
蹴破るようにして、カン太は動物愛護部のドアを開けた。
いっせいに中にいた者たちは振り返る。
「やっぱり、お前たちか!」
「フフフ……お久しぶりね。坊や」
その青い髪の女はカン太をじっと見据えた。薄紅色の瞳は以前より凄みが増している。カン太はその目を見ないように注意を払う。
「いい大人が、仕返しですか?」
「あら、ご挨拶ね。これはお仕事なの。悪いけど、これはお遊びじゃな~いのっ。おわかりいただけるかしら~」
「遊びでこんなこと普通しないだろ? 要件はなんだよ」
「話が進んでたすかるぅ~。さっすが~。」
「わかったから、早く言ってくれ」
「じゃあ、仕方ないな~。お、し、え、て、あ、げ、る」
メデューサは麻里奈と風紀委員の冷泉玲奈を指さした。
「この人たちは、アタシのお気に入りに登録したから、連れて帰るね。もし返して欲しくなったら、ここにきてね。ウフフ」
メデューサはディスクをカン太に投げてよこした。
「おうちに帰ったら、良い子は必ず見てね。あ、そうそう。パスワードは、あ、た、し、の、な、ま、え」
カン太にウインクを送ると、メデューサは、黒服に命じて、満里奈たちを連れ去った。
◇ ◇ ◇
カン太はその場ですぐに電話する。
相手は、うるみ、緑子、綾香の三人だ。
部室にあるPCでさっそくディスクを入れて、内容を確認した。
その内容とは――。
① 地図の場所まで、指定の人間を集めてくること、期限は四月三十日深夜一時。
② 指定の人間は、南高の動物愛護部のメンバーである緑子とうるみ。そして他校の生徒である樹里、そしてぜんじろう。カン太を含めて五人。(この五人は皆、何らかの異能力を持っている)
③ 地図に示された指定の場所は日本海側の寂れた小さな港。
――となっていた。
しばらくすると、
うるみが駆け込んできた。しかし、全く息が乱れていない。
鋭い目つきになっている。
「メデューサがまだ生きているっていうことだけど」
「そうなんだ。オレも最初は信じられなかった。ただ、少し印象が違うような気がした」
「違うって? どう変わったのかしら?」
うるみの青み掛かった涼し気な瞳に吸い込まれそうになる。
「……え、えーと、そうだな。なんかこう、迫力というか、切羽詰まってるっていうか。うまく言えないけど、強い殺気を感じたんだ」
「そう……」
ガタ、ドタ、ガラー
けたたましい音を立てて、緑子が入ってきた。肩で息をしている。
「カン太! 急いできたわよ……チッ、先をこされたか」
うるみの姿をみとめると、緑子はあからさまに嫌な顔をした。
「緑子! 来てくれたか。間宮が来たら、まずはこのディスクをみんなに見てもらう」
「『来てくれたか』じゃないでしょ? あんた部長になってから、何もしてないじゃない」
「い、いや、それは……」
「急にやる気だして、どうしたのかしら?」
「違うだろ? 俺たちのせいで、うちの学校の生徒が連れ去られたんだ。オレはこの部の部長だから責任ってもんがあるだろう」
「それで? 誰が連れ去られたのかしら?」
「生徒会長と風紀委員の冷泉さんだよ」
「ふーん。生徒会長って、あ、あの人ね。あんたが鼻の下を伸ばしてた。そういうことか。なるほど。よくわかったわ」
「なんで、お前はそんなひねくれたものの見方をするんだよ!」
「あ、そうそう。私たちが新入生の勧誘活動の計画立ててたの、知ってる?」
「……。いや知らない」
「部長には責任があるとか、さっき言ってたわよね」
「……。そ、それはだな。だから! いまはそれどこじゃないだろ?」
「引きこもってゲームばかりしてるって、叔母さん嘆いてたわよ。ねえ? 責任ある部長さん?」
「わかったよ。じゃあ、オレはどうすればいいんだ?」
「じゃあ、罰をうけてもらうしかないわね」
「え? 罰ってなんだよ?」
そこに綾香が遅れて到着した。
「なんか、面白い話してるわね。それより何です? 誘惑事件ですか?」
「そうなんだ。ゆうわ……誘拐だろ! わざとか間違えたな」
「あれ? 違うんですか?」
「もういい……」
カン太は力なくうなだれた。
「それより本題だ。我が校の生徒二人が人質になっている。それも、今度は我々動物愛護部の部員が人質と交換で解放するという話なんだ」
「つまり、私たちが捕まりに行けば、人質を解放するってこと?」
「うん。そうなんだ。」
「それだと、人質は助かるけど、私たちはどういう目に合わされるかわからないわね。拷問されたうえ殺されるんじゃないの?」
「……とりあえず例のディスクを見てもらいたいんだけど。」
そう言うと、カン太は、PC取り込んだファイルのアイコンをクリックした。〝メデューサ〟とパスワードを打ち込む。
かすかにカチリと音がすると、画面上に地図が映し出された。詳細が添付してある。
うるみ、緑子、綾香の三人は画面に見入りながら詳細を確認する。
その時、綾香が立ち上がり怒りをあらわにした。
「なんでよ? 私の名前がないじゃない! 私も動物愛護部の一員なんだけど」
「おい、何怒ってるんだよ。いいじゃないか。わざわざ危ない目に合わなくて済むんだから」
「あのね! 私がこの動物愛護部に入ったのは、私の特殊メイクの才能を披露して有名になりたいからなの。それ以外この部にいる意味なんて私にはないの。」
「命がかかっているんだぞ!」
「大丈夫でしょ? あなたたちを信用しているからさ」
「とくかく認めない。これは部長命令だ」
「なによ。偉そうに」
そう言って、綾香はプイっとそっぽを向いた。
実際カン太の言う通りなのだ。目立たない小さな港に深夜行くとなったら、密航して海外に連れ去るつもりとしか考えられない。
その先に何が待ち受けているのか予測できない。
「シータ、君の意見を聞きたい」
動物愛護部のマスコットであるシータ。
――前部長の源二光蔵が発明したAIが搭載された優秀なロボットであり、いくつもの作戦で生死を共にした戦友でもある。
「はい。まず現地の様子を偵察して、より詳しく作戦を立てる必要があります」
「なるほど。確かにそうだね。いままでも、まず始めは、情報収集だった」
「はい。方法は二通り。現地でドローンを飛ばして、情報収集してその場で作戦をたてる。もう一つは、現地まで誰かを偵察に行かせて、その結果を待って、出発前に綿密に作戦を練る方法です」
「それだけど、できれば現地に行ってからというのは避けたいな。行き当たりばったりだと作戦の成功率が下がると思うんだ」
「そうですね。ただ、出発前の調査だと、時間的にも費用的にも無理があります」
「そうか……。簡単にはいかないね」
カン太は、普段みせない険しい表情になった。
部室はしばらくの間、沈黙が支配した。
「……………………」
沈黙を破ったのはカン太であった――。
「そうだ! 方法ならある。でも……。ちょっと頼みづらいかなぁ」
(つづく)