![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/57584542/rectangle_large_type_2_7a5aaa99fc68af026b820b701ba923c6.png?width=1200)
ばれ☆おど!(51)
第51話 寝返った好敵手
そこに現れた男――
やや憔悴しているが、その目は爛々と輝き、意思の強さを想わせる。
「スペクター!」
カン太は叫んだ。
源二、うるみ、緑子をはじめ、新聞部の大福丸もこの再会に驚きを隠せない。
スペクターは肩をすくめてヤレヤレといった表情をしている。
「そう、身構えるなよ。俺はお前たちに協力しようとしてるんだぜ」
カン太は深呼吸して大きく息を吐きだすと言った。
「そんなこと信じられるか! 何かの罠に決まってる」
あいかわらず、スペクターは薄く微笑んでいる。
「ハハハハハ……。それもそうだな。かつての敵が、突然現れて、協力を申し出るなんて信じられないよな」
スペクターは微笑みを消して、真剣な表情になる。
「俺は組織から追われる身だ。処刑されるところを逃げてきた。だから、組織が存在する限り、俺は永遠に逃げ続けなくちゃならない。それなら、組織をつぶすしかない。俺とお前たちは利害が一緒だ。お互いに協力できるはずだ」
カン太は疑いは晴れない。質問も詰問調になる。
「追われる身? 処刑? どうしてか説明してよ」
「お前たちのせいさ。俺は何度もお前たちに仕事の邪魔をされて、組織に莫大な被害をもたらした。その罪の償いさ」
その時、杏子のライトグリーンの瞳がキラリと光った。
そしてきっぱりとした口調でスペクターに告げる。
「ふーん。でもさぁ。口先なら何とでも言えるんじゃないの?」
「フフフ……。そうだな。口先だけなら何とでも言える。それならどうすれば信じてくれるかな?」
杏子の瞳は爛々と輝いている。
「そうね。じゃあ、組織の情報を漏らしてくれない? その確認ができれば、あなたを信用できるかもしれないね」
「そうか。俺も組織を追われる身だ。なんだって教えてやる。俺にはもう失うものなんてないからな」
「失うものがない? そうかしら? 命が惜しいんじゃないの? そうじゃなきゃ自殺すればすべて解決ね」
「ハハハハハ……。食えない女だ。そうさ。己の命を守るために、組織をつぶしたい。その可能性を模索した結果、お前たちに協力することにした。さあ、何でも聞いてくれ」
「そうね。まず、本拠地と、組織の構造。幹部たちの能力とかいろいろあるけど、まずは、本拠地ね」
「本拠地は、香港にある。後で詳しく地図を描いてやる。それとな。そこに入るにはちょっとした、難関がある。なんといっても地下にあるからな。強力なセキュリティーだ。アプローチの仕組みは目による光彩認証。指紋認証。パスワード。区画によってセキュリティーレベルが違って、いくつもゲートがある。中枢部に侵入するには、追加でDNA認証が必要だ」
「DNA認証って何?」
「まだ一般には知られていない高度な技術だ。検査機に入ってスキャナーでサーチし、本人の骨格を3Dで照合し、最後に数か所から、ごく微量な検体を直接採取する。約十秒という信じられない速さでDNAの配列を割り出す」
「でもさぁ。そんな超技術があるなんて、ふつうは信じないよね」
そう言って、杏子はスペクターの瞳を覗き込んで薄く微笑んだ。僅かな動揺すら見逃すまいとしている。
「フッ。だな。じゃあ、もう少し詳しく話す」
そう言うスペクターには動揺の欠片すら見当たらない。そして、鋭い眼光を放ちながら、自信たっぷりに、ひときわ大きな声で話し始めた。
「サテンドールの上位組織に、ラグタイムという軍事技術を資金源とする組織がある。開発済みだが民間に公開されていない技術なんていくらでもあるからな。軍事技術の公開は政治的な駆け引きや、倫理的な問題が絡んで、すでに確立されていても埋もれているのさ。そういう技術を不正利用して資金源にしている。DNA認証の技術は、とある超大国の未公開軍事技術の転用だ」
杏子は微笑みを絶やさない。
「ふーん。でもさ。あなたはただのヒットマンでしょ? なんで組織の幹部しか知りえないような情報を知ってるの?」
「フッ……。かつて俺は組織の幹部だったんだよ。どこの組織でもあるだろう? 権力闘争ってやつが。俺はそれに破れて、一介のヒットマンに身を窶(やつ)した」
「まあ、いいわ。じゃあ聞くけど、今回の誘拐の目的は何?」
「目的? 俺も詳しくは知らないが、噂だと、サテンドールの上位組織にあたるラグタイムのボスであるアモンが、お前たちをかなり気に入っていて、何としてでもお前たちを組織に引き込むつもりらしい」
「私も?」
杏子の表情がきつくなった。
「ハハハハハ……。いや、お前は対象外だろう。アモンの狙いは、お前たちの持っている異能力だ」
「高校生に、そんなに興味を持つとは考え難いなぁ。そんな事まで耳に入ることはないと思うけど」
「サテンドールのボスであるスザクの実の父がアモンだ。逐一オレ達との戦闘は、スザクを通してアモンに報告されていた」
「ふーん。なるほどね。つまり、今までの動物愛護部の異能力者の戦闘能力を知って、そのアモンっていう人が、自分のものにしたがっている、ということね」
「そうだ。お前たちだって、ただでは済まない。洗脳されるか、薬漬けにされて、ロボットにされるか……。どの道、お前たちにとっては過酷な運命だ」
「最後に聞きたいんだけど、組織の秘密を知った人間はどうなるのかしら?」
「フッ。言わなくてもわかるだろう?」
スペクターはニヤリとして杏子を睨む。しかし、その目だけは笑っていなかった。
「そうね。大体の想像はつくわ」
そう言うと、杏子は覚悟を決めた様子でカン太に告げた。
「だそうよ。吾川カン太部長。どうする? こいつの話しが本当なら、すでにここに来ている者は全員、命がかかった大事な話、ということになるんだけど」
カン太は大きく深呼吸すると、話し出した。
「そうだね。でも、この話が、本当かどうか、まずそこからだね」
「そうね。こいつの話を信じる信じないは人それぞれでいいと思うけど、いま、意見が分かれても何もできないわよ」
「そうだね。でもね。ここには分析、推論のスペシャリストがいるんだよ」
「え?!」
「シータ。今の話どう思う」
すると、綾香に抱かれたシータが喋りはじめた。
「はい。吾川様。今の話の論理的矛盾点は全く見当たりません。声の調子も波形分析にかけましたが、動揺している気配はありません。サーモグラフィーで体温の変化を計測してみましたが、特に疑わしい変化はありませんでした。また、過去の戦闘で何度かかわした会話の音声データとも比較、照合しましたが、疑わしい点は見つかりませんでした。これらのデータから、先ほどの話は真実であると推定します。この推測の信頼度は97%です」
「ありがとう。シータ。では、今の話を信じて今後の作戦を進めていきたいと思いますが、何か意見がある人はいますか?」
「…………」
「……いないようなら、今後は」
その時、反対の声が上がった。
反対の声を上げた者――
それは、ぜんじろうだった。
「俺は反対だ。コイツは自身を養っていた組織を裏切った。こう言う奴は、裏切りを繰り返すぜ。確かに、今は協力する気かもしれない。でも、条件さえそろえば、気が変わることも考えないとな。例えば、俺たちの首を土産に戻れば返り咲けるとか、古巣から誘いが来れば裏切るだろう。俺が心配しているのは、信用して裏切られたときに、こちらのダメージが大きいということなんだ」
「それなら、どうすればいいの?」
「簡単なことさ」
「……」
「いつ裏切られてもいいように、コイツが裏切ることを前提に行動するんだよ」
(つづく)
いいなと思ったら応援しよう!
![うさのうさ(紅花卯月)](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/46629655/profile_79c8845253605ae50dba88ecd8b3945c.png?width=600&crop=1:1,smart)