ばれ☆おど!㉙
第29話は大幅に改稿しました。改稿前に読んで下さり、感想をいただいた方本当に申し訳ございません。
第29話 ジャンクフード大戦勃発!?
追跡銃〝チェイサー〟から放たれた弾丸は、大気を切り裂きながら標的に向かっていく。
鈍い音を立てながら次々に着弾。
そう。確かに命中していた。
10発以上だ。樹里に気づかれていなければ、今頃カン太はガッツポーズを決めていたにちがいない。
しかし、現実とはそう甘いものではない。
それはこうだ――。
樹里の〝使い魔〟と言ってもよい動物たちの嗅覚は、確実にカン太の気配を察知。騒ぎ立て始める。異常なほどの動物たちの興奮状態に気づいた運転手は、樹里を乗せた黒塗りの高級車を思わず止める。
樹里も車を降りて様子を伺う。そして怪訝そうな様子で運転手に告げる。
「この子達は車にある何かを探して欲しいみたい」
すると運転手は車を降りて、車体に異常がないか調べだした。
「お嬢様、動物たちに急かされた箇所を見たら、こんなものが車についていました。もしかしたら小型の発信機かもしれません」
運転手はそう言うと、背後に向き直り、腕を思いっきり振る。不審な異物たちはキラキラと輝き、それぞれ大きく放物線を描きながら、草むらに吸い込まれていった。
カン太は歯噛みして悔しがった。
「こん畜生!!」(惣流ア〇カではないです。エヘヘ)
「みんな、みんな、大っ嫌い!」(おまけです。サービス。サービス)
◇ ◇ ◇
カン太は重い足取りで、動物愛護部の部室にたどり着くと、深いため息をついた。
「はぁーーっ」
カン太は思う。
(部長は怒るよな。絶対にボコられる。間違いない)
意を決して、カン太は部室のドアをノックし、ゆっくりとドアを開けた。
そして、あらためて作戦の失敗を告げようとした時――。
「アカン! よくやった!」
「へッ?」
「なんだ? どうかしたのか?」
「発信機は見つかってしまい、はずされたんですが……」
「この画面をよく見てみろ」
すると、どうだろう。刻一刻と点滅する光点が、PCのスクリーンに映し出された地図上を移動している。
「アカンが打ち込んだものの中に、発見を逃れたものがあったということだ」
「なんだぁ! ハハハハハ……」
「だが、すべて発見されてしまったら、今頃どうなっていたんだろうな。今日がアカンの命日になっていたかもしれんぞ」
「いやいや、そんな。高校の部活で、ミスを咎められて死亡なんて聞いたことないですが」
「まあ、いい。次があるかもしれないしな。楽しみにしている!」
「オイ!」
「ともあれ、アカンよ。今回は見事な働きであった。ご苦労!」
二人の会話をよそに、新聞部部長のアイリは好物のポップコーンを片手に、PCのスクリーンを見つめながら、爛々と目を輝かせていた。
突然、意を決したように、アイリは金髪のツインテールを跳ね上げ、その小さな身体からパンチのある声を張り上げた。
「よし! すぐに追いかけるぞ!」
「おい。相手は車だぞ!」
源二の問いかけに、アイリは不敵な微笑みを向ける。
「わが新聞部をなめてもらっては困る。すでに車は手配済みだ。あれを見てみろ」
源二がアイリの指さす方を見ると、黒光りするワンボックスカーが校門の外に控えていた。
「フフッ。さすがだな」
「格の違いだ」
「ムム……」
さすがの源二もこの小柄の、金髪ツインテールの同級生には敵わない。
源二、アイリ、カン太、大福丸、うるみ、シータを抱えた緑子は校門の外に向かって走り出す。
「よし! 全員車に乗りこめ!」
ここでもアイリの号令がかかり、完全に仕切られている。
苦虫をかみつぶしたような表情の源二はうめく。
「ムム……」
全員が乗り込む。装備品の積み込みが終わると、またしてもアイリの仕切りで車が発進した。
しばらく走り、国道に入ると、ようやくターゲットの姿を捉えることができた。
「あれだ! 気づかれないようにあまり近づきすぎないで!」
テキパキと指示を出すアイリ。
それとは対照的な源二。
「ムム……」
カン太は源二の様子が、少しおかしいことに気づいた。
「部長? どうかしましたか? 顔色が悪いですよ」
「なんでもない。気にするな。大丈夫だ」
その時、アイリが号令をかけようと、高く掲げたポップコーンの袋から、大き目の一粒がこぼれた。それは弾けるように宙を舞い、勢いよく源二の顔めがけて飛んでいく。
そして源二が、最後に「だ」と発音して、開けた口に飛び込んだのだ。
源二は眉間に深いしわを寄せ、渋い顔になる。
「………………」
無言のまま、口に入った異物(ポップコーン)をかみ砕き、アイリを睨む。
緊迫した空気が車内に充満した。
しばらくして源二は口を開く。
「アカンよ」
「……は、はい」
「日本人のおやつと言えば、定番はこれだよな」
源二はおもむろに、学生服の内ポケットから〝かっぱ〇びせん〟を取り出し、あるフレーズを口にする。
「やめられない、とまらない!」
「?! 部長?」
「俺なら10袋は余裕で平らげることができる」
「……?」
「一日中ポップコーンを片手に、食っているヤツの気がしれん」
その目は鋭く光り、まっすぐにアイリに向けられている。――そう。明らかに挑戦しているのだ。
「味にもバリエーションがあるのだ。期間限定だが、甘えび味、紀州の完熟梅味がある。おぉ、考えただけでよだれが垂れそうだ」
「たしかに、それ美味しいですよね」
「さらにだ。地域限定で、山わさび味、にんにく醤油味、関西だししょうゆ味、瀬戸内レモン味、九州しょうゆ味が存在する」
目を閉じて、腕組みをしながら、厳かにうんうんと頷く源二に対して、アイリが声を張り上げる。
「わたしの大好きなポップコーンをバカにしてる? これ以上美味なお菓子はないぞ!」
「ならばユーもアピールしてみることだ。どこがうまいんだ?」
苦笑いをさらに引きつらせながら、アイリは声を絞り出した。
「……それは、それはな。うまいものはうまいんだ! こうなったら勝負だ!」
「ほーう、勝負か。どんな勝負だ?」
「早食い対決だ!」
「面白そうだ。受けて立とう」
慌ててカン太が、割って入る。
「あのう、FF外から失礼します……」
源二とアイリは一瞬動きが止まった後に、キッとカン太を睨みつける。
「はぁ? ここはツイッターじゃない! ナメてんの!?」
「アカンよ……教育が不足していたみたいだな」
地獄の使者でもしないであろう、恐ろしい表情を浮かべた両部長を前に、焦るカン太はしどろもどろになったが、なんとか言葉を探し出した。
「こ、ここはオレの顔に免じて、ほ、ほ、矛を収めて……頂けませんか?」
「オレの顔? ふーん、お前そんなに偉いのか?」
アイリは鋭い目つきでカン太を睨んだ。その声は怒りで震えている。
カン太は恐怖で逃げ出したくなるのを、堪えながら説明を試みる。
「い、いや、だから、い、今はそんな時ではないのかなぁって、思うわけで……」
アイリは怒りを、まき散らすかのように叫ぶ。
「運転手さん。ちょっと車止めて!」
キキキーッ
車が急停止すると、アイリがついに手を出した。
カン太の胸倉をつかんで、車から引きずり下ろす。
その小さな身体からは、とても想像できない怪力だ。
ボスッ!
カン太の腹に、強烈なボディーブローが決まった。
膝をつき、苦悶の表情を浮かべるカン太に、さらにアイリの華麗な回し蹴りが襲い掛かる。
カン太は思う。
(うわっ、白だ。クマさんのプリントでも入ってるかと思ったら、無地の白)
アイリのパンチラに気を取られているカン太の顎に、強烈な一撃が決まる。
そのままカン太は気を失った。
「後輩のくせに生意気な口を利くとこうなるのよ!」(いやいや、ちょっと、やりすぎじゃないですかね?)
アイリは手をパンパンと払いながら車に戻った。
見事なクリティカルヒットに、さすがの源二も恐れをなした。
「……アカンよ。大丈夫か? ……な訳ないな」
そう言って源二はカン太を抱き起し、ズルズルと引きずって車に乗せた。
車内では他のメンバー達が待ちくたびれていた。
これから樹里の応援に行こうという大事な時に、源二とアイリは何をしてるのか? といった様子だ。
リーダーとしての資質を疑うような空気が流れている。
「コホン……。うん。じゃあ、出発ね。あそうそう、勝負はこの一件が片付いてからで、どうかしら?」
「ゴホン、ゴホン。ユーがそう言うならこちらも異存はない」
やや、焦りながら二人は言った。
カン太は依然として意識を失ったままだ。
安らかな寝顔だ。
おや、おや、よだれが垂れている。
きっと純白の夢を見ているにちがいない。
(つづく)
ご褒美は頑張った子にだけ与えられるからご褒美なのです