ばれ☆おど!㊴
第39話 怪物の正体
ポップコーンが滝となって流れ落ちている。
「でかした!!」
金髪ツインテールを弾ませながら、小柄なアイリは、ぜんじろうを褒めちぎる。
興奮のあまり、大好物のポップコーンが、こぼれていることに気づいていない。
ぜんじろうが指摘する。
「先輩! ポップコーンこぼれてますよ!」
「………………え?! え?! ええええぇぇ」
上機嫌だったアイリは、突如として襲った不幸に、床に手をつき、うなだれた。
ここは、南校動物愛護部の部室である。ふだんはメンバーの3人しかいない部室が、今日は新聞部のアイリと大福丸、市立高校のサクラとぜんじろうが、加わって、賑やかな部室になっていた。
「私のポップコーン……」
床に散乱したポップコーンを見つめながら、意気消沈するアイリをよそに――
「よくやってくれた!」
源二は労いの言葉をかける。
「毛塚君。偉いわ」
サクラも褒めた。
確かに、犯人たちの名前と、居場所を突き止めたのは、かなりの成果と言える。
ぜんじろうは有頂天になる。
そして――
調子に乗った彼は、うるみの前まで、ゆっくりと歩いていき、立ち止まる。
もちろん、顔はキリリとして、ヘアスタイルの乱れもない。口臭もチェック済みだ。
「漆原さん。あなたのためだから、俺は頑張れたんです!」
うるみは困ったような表情を見せている。
ぜんじろうは、うるみの瞳をまっすぐに見つめながら続ける。
彼の瞳には一点の曇りもない。とても澄んだ目だ。
「俺は、あなたがどう思おうと、一生、あなたを愛するでしょう。こんな気持ちは、生まれて初めてなんです! あなたをあきらめる事なんて、絶対にできません。どうか、俺と付き合ってくださいっ! お願いします!!」
そう言って、ぜんじろうは頭を下げた。
「……………………」
部室は静寂に包まれる。
源二たちは、二人の様子を、固唾を呑んで見守っている。
しばらくして、うるみが、ポツンと言った。
「少し、考えさせてください……」
ぜんじろうは顔を上げ、満面の笑顔で、目を輝かせながら、言った。
「よい、お返事、お待ちしてます!」
源二は、そんなぜんじろうに、皮肉を、力いっぱい込めて言ってやった。
「ゴホン……。毛塚君。ユーは神聖な部活動でナンパするとは、なかなかやるな」
ぜんじろうは答える。
「これは失礼しました。でもさぁ。源二先輩だって、ほら、うちの部長と……」
「ゴホン、ゴホン、ゴホン……。では、これより作戦会議を行う!」
「あれ? 源二先輩。おかしいなぁ? 急にどうかしましたか?」
「なに、大したことじゃないさ。それより、時間がない!」
「時間ですか? まあ、いいでしょう。じゃあ、作戦会議やりましょうか?」
「ゴホン。うんんん、ゴホン……。うむ。そうだ。では今から作戦会議を行う!」
こうして、作戦会議が始まった。
ぜんじろうの情報によれば、犯人は兄弟で、二人とも市内の学校に通う学生。所在地は雀ケ谷市、南在家〇〇〇-〇〇
問題は、サテンドールとのつながりがあると、厄介な事になること。
源二は考え込んだ末、カッと目を見開くと、話し始めた。
「我々としては、動物を虐待した者への報復は必ず行う。つまり警察より早く動く必要がある。しかし、サテンドールとのつながりも否めない状況だから、ことは慎重を要する」
そう言って、目の前の机をドンっと叩く。
「よって、フル装備で武装して、今晩深夜に決行する!」
◇ ◇ ◇
その日の深夜、間宮邸。
源二たちは、無言で作戦を開始する。
まず、偵察ドローン〝ランドサット〟を発進させる。
数分後、ぬいぐるみ型ロボットであるシータが、話し始めた。
もちろん、ボリュームは最低音だ。
「子機からの報告によると、ターゲットの二人は、ぐっすりと眠っているとのことです。特に、セキュリティ装置の設置は見られません。また、都合よく、両親は留守にしている模様です」
源二は小声で答えた。
「……よし、やりやすいな。では正面より突入する。シータよ。ロック解除してくれ」
「はい。現在、超音波透視で、鍵穴の内部データを把握しています。しばらくお待ちください」
すると、2体の子機がカギ穴までよじ登り、それぞれの触角のようなものを差し込んだ。
数秒で、かすかに、ガチャっという音がして、ロックが解除された。
源二はそっと、ドアを開け、振り返って合図を送る。
「……よし、入るぞ」
源二に続いて、うるみ、ぜんじろう、ボウガンを片手にする緑子、ポップコーンを片手にするアイリ、サクラ、大福丸、ぜんじろうが続いた。
まずは、弟の京太を襲う。
「そこの角の部屋にいます」
シータのナビは正確だ。
そっと、ドアを開け、部屋に侵入した。
両手をインシュロックで後ろ手にして拘束し、口をガムテープで塞ぐ。
あっという間に京太を捕える。
京太のガムテープ越しのうめき声が、小さく聞こえる。
暴れて、面倒なので、一発みぞおちに食らわせて、気絶させた。
アイリは、ひそひそ話のように話す。
「……おい……ちょろすぎて……これじゃあ……記事にするには迫力にかける」
源二が、小声で咎めた。
「……これは……記事にするための作戦ではない……あくまで……制裁だ」
次に、二階に上がった。
「一番奥の突き当りが、姉の綾香の部屋です」
シータのナビでスムーズに作戦が進行している。
源二は、部屋の前で、いったん呼吸を整えてから、ドアノブに手をかける。
ゆっくりと、まわして、ドアを押した。
目を凝らして、中の様子を伺う。
よく見ると、真っ暗な部屋の中で何かがうごめいている。
すると、シータは目からの強力なサーチライトを照射して、その付近を照らし出した。
すると、見たこともない怪物がそこにいた。
人間とほぼ同じ身長だが、粘膜のようなもので、体全体が覆われている。目のようなものが、一つあり、異常に大きく真っ赤である。口はねじれていて、不気味な舌のようなものが、垂れさがっている。
その怪物はぐちゃぐちゃと音を出しながら、何か話しかけているようだが、源二たちは、恐怖で、それどころではない。
迷わず、源二は、愛銃〝アンサー〟を怪物に向ける。
さらに、怪物が迫ってきて、トリガーにかけた指が動いた。
ドキューン
強力な改造エアガンの威力は、怪物の粘膜に吸収されて、全く効かない。
それでも源二は、フルオート(連射)に切り替えて、発砲を続ける。
緑子もボウガンを撃ちまくる。
だが、結果は、同じだった。
両者とも全弾打ち尽くす。
迫ってくる怪物に、うるみの電光石火の連続技が繰り出された。
すると、怪物の動きが、止まった。
そこに、カン太の秘奥義〝カン太百裂拳〟が炸裂する。
あ、たたたたたたたたたたたたたた……
あたー!
怪物は苦しそうにうずくまる。
だが、その時、意外なことが、起こった。
「ちょっと、人の家に勝手に上がり込んで、あんたたち強盗かなんかなわけ?」
その声は、怪物の中から聞こえてくる。
ぐちゃぐちゃ音を出しながら、怪物の粘膜が、剥がれ落ちていく。
――いや、そうではない。
着ぐるみを脱ぎ捨てるように、するっと、中から、人間が出てきたのだ。
その人間は、部屋の明かりをつけた。
ぜんじろうが、叫んだ!
「お前は、水玉模様だな! 源二先輩、こいつは犯人です!」
中から出てきたのは、金髪お団子頭の美少女、間宮綾香だった。
彼女はヒステリックに叫ぶ。
「アンタたちねぇ! いい加減にしてよ。警察呼ぶから!」
そう言って、アイフォンを片手にとった。
源二が、諭すように言う。
「警察呼んで、困るのは、ユーの方だぞ。この動物虐待犯め!」
「…………ハハハハハ!」
綾香の高笑いする声が屋敷中に響いた。
「何が、おかしい?」
「ハハハ……。あんたたちは騙されたのよ」
(つづく)