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ばれ☆おど!㊾

第49話 女装男子の神髄


 ?!


 シータが靴から取り出したもの――

 それは、短いベルト状になっている。

 カン太の脳内は疑問符だらけだ。
「シータ。そんなもので何をすればメデューサの声が出せるんだい?」
 カン太は思う。
(ま、まさか、それで首を絞めて、声帯を変形させるとか……いや、恐ろしいことを考えるのはやめよう……)


「はい。吾川様。これは源二兄さまが、過去に発明した声帯変換機です。あらかじめメデューサの声のデータをダウンロードしておきました」

 カン太は改めて、源二の発明品を目の当たりにし、驚きを禁じ得ない。
「え? そうなんだ。源二先輩。こんなものまで……あ、使い方教えて」

「わかりました。ではこれを首に巻いて下さい」
「こうでいいの?」

「はい。マジックテープになっているのでしっかり貼り付けてください。そして、一番端にダイヤルが付いていますので、回してみてください」

「これ?」
「はい。さあ、どうぞ」

 カン太がダイヤルを回すと、異変が起こった。カン太の声がメデューサの声とそっくりになったのだ。

「おおおおお、ほんとだ。声が変わった。すごいけど、ちょっと、きもちわりー! ハハハハハ……」

「吾川様。口調も真似してみてください。これだけは変換できないので」
「わかったわ。ほんと、た、す、か、る~ぅ。これで~あいつらもあたしの、と、り、こ」

「問題ないと思います」
「じゃーあ、みんな~、さくせん、か、い、し、よ」
 カン太は色っぽく微笑んでウインクする。女装男子の神髄を発揮している。


「………………」

 しばらくの間、あまりもの寒さの為、カン太以外の全員がフリーズしていた。

 最初に我に返ったのは、綾香だった。
「部長さぁ、何はしゃいでるの? みんな真剣なのにさぁ」

「い、いや、別にはしゃいでいるわけじゃないよ。ほら、迫真の演技ってやつ? 今必要なのは、相手をどれだけ高確率で騙せるかが作戦成功のカギになっているんだ」

「そうかしら? 私には違って見えたけど。あれは絶対にはしゃいでた。すごく楽しそうだったわよ。こっちは寒気で風邪をひくところだったわ」

「って、そこまで言うのかよ」

「ええ。もっと、言ってあげようか?」

「わ、わかった。オレの負けだ。たしかに楽しんでいたよ。すまない」
 メデューサの声でカン太は頭を下げて謝った。



 ◇ ◇ ◇


 作戦は、メデューサがいないので、当初の作戦を変更している。
 メデューサに化けたカン太が、無事に人質を確保したら、全員で人質のいる小屋の見張りをせん滅。かつ気づかれないように、素早くその場で脱出する――というものだ。

「部長……」

 綾香が小声でカン太を呼び留める。
 人質が捕えられている小屋へと足を向けていたカン太は振り返る。
「え? なに?」

「私の特殊メイクは一味違うわよ」
「何が?」
「私の特殊メイクは人間の動きを妨げないように、細心の注意を払って作り込んであるの」

「確かに、動きやすいね」
 カン太は腕をぐるぐる回して見せた。

「そうじゃなくて、表情を作る筋肉の動きよ」

「なるほど!」
「迫真の演技、期待してるわ」

 カン太は頷くと、右手の親指を立てて綾香にウインクを送る。
「ああ、まかせてくれ!」


 ◇ ◇ ◇


 カン太は物陰から躍り出て、小屋に近づいていった。
 すぐに、入り口の見張りが気づく。

「メデューサ様。どうしてこちらへ? メデューサ様は丘の方からで、挟み撃ちにするんですよね? まだ、奴らは現れませんが」

 カン太は思う。
(え? どうして? 今日俺たちが、ここを不意打ちで襲撃するのって、ばれてる?)

 カン太は冷や汗が出る思いだった。とっさにこんなことを言う。
「悪かった。作戦は変更だ。敵は最初に港の倉庫から攻めるつもりだ。お前も応援に回れ。私はちょっと、人質と話がある」
「はっ!」

 見張りの黒服が立ち去ると、メデューサに扮したカン太は小屋の扉を開けた。
 そこには猿ぐつわをかまされ、両手を後ろ手に椅子に括りつけられた女子生徒が二人いた。
 生徒会長の千年麻里奈、風紀委員の冷泉麗奈。

 彼女たちはカン太の姿を認めると、激しい憎悪のこもった視線で睨みつけてきた。

「………………」

 カン太は首に巻き付けてあるダイヤルを回した。

「ごめん。これは特殊メイクでメデューサに化けている。オレは吾川だよ」
 もとのカン太の声を聞いて、ようやく納得した様子の二人である。
 カン太は、黙って二人の猿ぐつわを外した。

「吾川君なの?」
 麻里奈は少し疲れているようだった。いつものようなハキハキした口調にキレがない。

「そうだ。オレだよ」
「……それより、大変よ!」

「え?」

「あなたたちの動きは監視されていたのよ。今日ここにあなたたちが乗り込んでくることも、あいつらには知られているわ」
「……ということは」
「そう。すぐに黒服たちとメデューサは万全の態勢でここにやってくる」
「わかった! じゃあ、急いでここを脱出だ!」
 二人を抱え込むようにして、カン太は小屋の扉を蹴破った。

 外に出ると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「あらら、オイタしちゃいや~ん」


 すでに、人質の二人とカン太は、メデューサたちに囲まれてしまっていたのだ。
「お姉さん、驚いちゃった~。スゴイ変装ね。声までそっくりとは。あ、そこにはね。隠しカメラが仕掛けてあ~るの。残念なひと。きゃはははははは……」
 メデューサの後ろに控えている黒服たちは、サブマシンガン〝UZI(ウージー)〟を構えている。その数七人。

 カン太は思う。
(まいったな。相手の方が上手だった。ここは大人しく捕まるしかない……)

 その時、突然疾風が駆け抜けた。うるみの電光石火の早業が炸裂する。確実に敵の急所をとらえている。
 しかし、不思議なことに、気絶するかと思われた黒服は何事もなかったかのようにその場で元のように銃を構えている。

 ぜんじろうが猛ダッシュで突っ込み、体当たりをかまして、黒服たちの群れを殴りまくる。ぜんじろうはハッとした顔になる。その目は大きく見開かれていた。
 そして、メデューサに見つめられていることに気づいた途端、その体は自由を失い、石のように動かなくなった。

 キーン、キキキーン、キーン

 緑子の放ったボウガンの矢は次々に弾き返され、地面に転がった。

 キーキキキ、キキ、キキキ、キキ、キーン、キ、キ、キキーン、キキキ、キキ、キキ、キ、……………………………………

 樹里が奇妙なリズムを刻む声で歌い始めると、野犬の群れがあちこちから現れて、黒服たちに襲い掛かる。腕に喰らいつき、喉元を狙って飛び掛かる。

 キャーン、キャン、キャインキャン

 黒服たちはこともなげに、野犬の群れを打ちのめす。犬たちは次々に倒されていった。

「さ~てと、もうおしまいかしら? こいつらはね。あんたたちに昔、殺されかけた奴らよ。今では全身強化サイボーグ。銃弾を受けても耐えられるのよ~。あ~残念、残念……」

 グサッ

 その時、メデューサの右腕にナイフが突き刺さった。次々に襲ってくるナイフはメデューサに向かってくる。
 しかし、黒服たちが囲むようにしてガードする。
 目をつむってナイフを構えるコトリは動きを止めた。どうやら、これ以上の攻撃は無駄だと悟ったようだ。

「ちょっと、早くなっちゃったけどさ~。人質交換といこっかぁ? それとも、もう少し遊ぶ?」
 そう言いながら、メデューサは鋭い目つきで、腕に突き刺さったナイフを引き抜くと、地面に放り投げた。

 キーン、キキン……

 カン太が話し始めた。
「わかった。でも人質はちゃんと、解放してくれよ」
「もちろんよ~」

 カン太は悔しそうな表情で叫んだ。
「みんな! 今はこいつらに従うしかない! 悪いけど、そうしてくれ」


(つづく)


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