【オリジナル小説】VTuber探偵ミコが行く! 第1話
お好みでBGMをかけながらどうぞ。
登場人物
※イラストにのみ生成AI利用。文章にはAIは使っていません。
速水小石(はやみこいし。ハンドルネーム:ミコ)
女子高生VTuber。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係。副業で探偵をしている。
主人公
○○として表記。名前はまだない。ミコのマネージャー。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。
プロローグ
「あなたは独りしかいない。それがあなたの人生最後の勝負の敗因よ」
「君は人間を動かすのはお金だと思い込んでいるみたいだが、人間を動かすのは感情だよ。その思い違いが君の人生最後の勝負の敗因さ。そして私は独りじゃない。なぜなら私がこの勝負に勝ち、彼を取り戻すからだ」
私は、こうして人生で初めての殺人事件を解決することになった。六本木の映画館で上映されるような、恋人同士で笑いあえるようなエンタメな話では決してない。解決しても誰も幸せにならない、たった一人の人間が地獄から救い出されるだけの自己満足の物語だ。
それでも私はどうしても、その人間を救い出したかった。この物語は、私にとって大切なかけがえのない男性の破滅の運命に抗うためにあらゆる犠牲を払い、最悪の敵である二人の人間とインターネット上を含めた戦場で戦争をした記録である。
これが世界のどこかで今も戦っているあなたの心を辛いことから忘れさせ、ほんの30秒でも癒すことができれば幸いである。それでは始めよう。
第1話:起承転結は不幸の始まり
「あいつはまた配信で偉い人の悪口言いまくりやがってっっっ、マネージャーするこっちの身になってくれよおおおおおおおお!!!!」
個人VTuberであるミコのマネージャーを務める俺、○○は今日も今日とて、今に始まったことではないのだが、身近で一番のストレス源に対するぼやきを他に誰もいないマンションの一室の事務所で空しく反響させていた。
ちなみにVTuberとはバーチャルなコンピュータ上のアバターに自分の動きや声を連動させてネット上で配信する人のことを言う。今やネット上で配信しているユーザーの二割を占めるようになったらしい。
「あいつが悪口を言ったこの間企業案件貰った社長さんにお詫びに行くのは明日の早朝にするとして、今日はこの前にトラブった動画のサムネイル発注先のイラストレーターさんのところにお詫びの菓子折りを持って行かないとな。動画の編集も深夜にやらないといけないし、本当に真剣に転職先を探したほうが良いかもな」
本来なら労働基準法辺りに角度をつけてマッハ5くらいで抵触していそうだが、この仕事を始めてからまだ3ヶ月目なうえに、僕は高校の卒業と共にマネージャー業を始めた19歳である。今さら大学に通うお金もなければ時間もなく、転職しようにも手に職を持ってるわけでもない。完全にはめられた。
「あいつも最初は可愛げがあったのになあ。最近は馬車馬のように働かせるわ、事務所には来ないわ、起きるのは夕方だわでここまで社会不適合者とは思わなかったぜ」
彼女との出会いは高校だった。一応先輩と後輩の関係である。自分はそこで生徒会長をしていて、彼女はどちらかといえばクラスの問題児、だった。そこでひと悶着あり、彼女への対処を自分がすることになったということだ。簡単に言うなら、不登校である。
彼女が学校に来ないで何をしていたのかと言えば、インターネット配信だ。彼女は配信活動に没頭すると、現実を忘れてしまうのだ。それは比喩ではなく、文字通りの意味で、である。
当時、彼女の自宅に踏み込んだ時、自分は目を疑った。そこにいたのは銀色のデスクトップPCのモニターの光で辛うじて映し出されるだけの、彼女の、速水小石の、アイドルのように饒舌で可愛らしく一人語りし続ける姿だった。
現実逃避のあまり思考が過去にタイムリープしていた自分を、まさに回想の登場人物である女の声が現在に引き戻した。
「○○おつかれ~。明日アップする動画の編集終わってる? サボってたら給料はんぶんこだからね」
「ポップな表現で恐ろしいこというな!!! お前のやらかしの後処理のせいで編集なんてする時間1秒もねえんだよ!!!」
「あら、今日ってなにかあったっけ? いつも通り視聴数も回ってたしスパチャも入ってたし順調じゃない?」
「ああそうだとも!!! いつも通りクレームの嵐だよ!!! 」
ツインテールにしたコバルトブルーの髪の毛。美しい黄金色のカラーコンタクトをした大きな瞳。スパコンのコンピュータグラフィックスでレンダリングされたかのような寸分も狂いのない端正な顔立ち。
黙っていればどこかの作曲ソフトから飛び出してきたかのような、恵まれた容姿からは大変残念なセリフが吐かれ続ける。元後輩、現上司の、今後良くも悪くも長い付き合いとなる、速水小石という女がマンションの廊下の扉を開けて俺の日常に再び侵入してきたのだった。