【オリジナル小説】VTuber探偵ミコが行く! 第11話
↓のお話の続きです。途中からでも大体読めます。
お好みでBGMをかけながらどうぞ。
登場人物
※画像には生成AIを使っていますが、文章には使っていません。
氷室稲置(ひむろいなぎ)
ミコ(小石)のマネージャーだったが無職になったがめでたく再就職した。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。料理がそこそこできる。変人をなぜか吸い寄せてしまう人生を送っている。今回は語り手に復帰。
第11話:物語は枝分かれし始める
「じゃあ俺はこの後用事があるからもう出るぞ。動画の編集は終わったし、晩御飯のチャーハンは作ってあるからレンジでチンして食べろ。あと夜更かしはほどほどにな。FPSログインしてたらこっちから分かるんだからな。昼夜逆転を一周して生活習慣をもとに戻そうとするのは無理があるからな。分かったな?」
「はーい。わっかりましたー。明日もよろしくねー」
「……本当に分かってんのかよ。ったく」
稲置はタワーマンションの小石の部屋を出た。厳重なオートロックを抜け、警備員を横目に、溜まっていたゴミ袋をついでに出し、長いエレベーターの降下を終えて、エントランスを出る。
めでたく再就職が決まったので、電車で向かう。駅前の行きつけの店で家系ラーメンを食べた。ライスも付けた。これこれ。このために生きてるぜ。麺硬め味濃いめアブラ多め。早死に三段活用、基本である。
無職から奇跡の復活を遂げた後に飲む豚骨醤油スープはまるで、命の味がした。それまで何度もすすったはずの一杯だが、麺の一本一本の味がより強く、風味高く感じられる。
「こういう時に飲む酒ならきっと美味いんだろうな。あっ店長ごちそうさまでした!」
豚骨を寸胴で煮出した匂いで充満した店内を後にして、稲置はスマホを取り出してある人物にメッセージを送る。それは桜音だった。
結局彼女のマネージャーを専業ですることはできなくなった。一応断りを直接会って入れておくのが筋だろう。時間は遅いが、こういうことは早めに済ませておきたい。
メッセージを送ると、桜音から30秒ほどで返信が。今は火将ノエルの自宅に行っているとのこと。彼女の自宅は池袋の方にあるとのこと。ノエルとも面識があるわけだし、そちらにお邪魔してしまっても問題ないか。一応連絡して確認を取る。
「OKだそうです」
「分かった。これから行くよ」
そうと決まれば池袋だ。麻布十番駅から南北線に乗る。スマホに入れた電子決済アプリで改札をスムーズに抜ける。
電車はすぐに来た。やけに揺れる。この感覚はどうにも慣れない。逃げ場のない閉鎖空間に入れられて、俺たちはいつもどこかへ運ばれる。こちらの意志など構いもせず、こちらの運命を一方的に決めつけてくるようだ。
乗客は仕事帰りのサラリーマン、OLが多かった。みんなどことなく疲れているように見えた。それに若い女性も目立つ。小石と喧嘩していたときはなぜか人混みを苦痛に感じて電車を避けていたが、今はそうでもない。理由はよく分からない。
池袋駅から20分ほど歩いたマンションの前に、稲置は立っていた。よくある住宅地のもので、外観は白い。
オートロックがあるので、伝えられていた部屋番号のボタンを押していく。誰かがロックを解除したようだが、返事は無かった。恐らく知り合いだからそれだけで伝わると思ったのだろう。
エントランスを抜けてエレベーターへ向かう。冷たい鉄の箱に入り、4階へ上昇。
桜音、残念がるかもしれないな。空いた時間で何か手伝えれば良いかもしれない。例えば小石とコラボ配信とか。我ながら良い考えだ。
廊下を通って指定された404号室へ。インターホンを押すが、返事がない。何故だろう?
ドアノブを握ると、開いた。中は暗い。廊下の先に扉が見える。買い物にでも行ったのだろうか? いや、オートロックを開けた誰かがいるはずなのだが。
勝手に上がるのも気が引けたが、連絡を取っているわけだし問題ないはず。そう思って廊下を進んでいく。リビングへの扉を開けると、そこには。
異臭。
鼻孔から脳天へと貫くような鋭い異臭と共に、目を覆いたくなるような光景が深淵の中から徐々に、徐々に浮かび上がっていった。
「なあぁっっっっっ?!?!?!?!?!?!」
「桜音かっっっ?!?!?!?!?! いや……火将かっ?!?!?!」
稲置は脊髄反射で倒れている女性のもとに崩れるように駆け寄り、抱き寄せて容体を確認しようとした。しかし、彼女に触れた瞬間に、それは分かってしまった。その体はスーパーで買った肉のように冷たくなりかけていて、とても生命を感じられるものではなかったからだ。
「なんでこんなぁっ……。火将が……。桜音はどこに行ったんだっ? 火将っ!! 起きろっっ! まだ出逢ったばかりなのにっ!!! お前のこと何も知らないのにっっ。どうしてっっっ」
お前との物語は、これから始まるはずだったのに。
早すぎる。
一体、何がどうなってやがるんだ。
涙は出なかった。それよりも、万が一の事を考えて救急車を呼ばなければ。
そんな中、そこで初めて稲置はそれに気づいた。部屋の隅に薄ぼんやりと明るい光が灯っている。
それはPCの画面だった。
そこには使い慣れた、または見慣れたライブ配信サイトの画面が映し出されていた。
「なんだ……と……!?!?!?!」
それは、あまりにも不可解な光景だった。しかし、説明が必要だろう。
それは正確にはVTuberのライブ配信画面だった。投稿動画ではない。稲置は曲がりなりにもプロだ。その違いはこんな状況であっても誤らない。
その配信をしているアカウントが問題なのだ。それは今そこで横たわってる、火将ノエルの配信活動で使われているキャラクターだった。それは桜音と三人で泊まった際に見せてもらった、火将ノエルのバーチャルアバターそのものだった。
その魂はとっくに失われているというのに、人形が、器だけが勝手に動き出したとでもいうのか?
「やっほー! みんな呼吸してる? 今日は料理初めてだけど、オムライスを作っていくよー」
アバターは部屋の中の現実を否定するかのように、朗らかに、生き生きと、いつもそうしていたであろう、ように配信活動をしていた。
「これは……一体……?」
稲置はそこに立ち尽くす他なかった。それが彼にとって人生最大の試練の始まりだということを、まだ彼は知らなかった。
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