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【オリジナル小説】VTuber探偵ミコが行く! 第8話

↓の続きのお話です。途中からでも大体読めます。

お好みでBGMをかけながらどうぞ(PCなら聴きながら読めます)。



登場人物

※イラストにのみ生成AI利用。文章にはAIは使っていません。

速水小石(はやみこいし。ハンドルネーム:ミコ)

女子高生VTuber。主人公の後輩で、過去に引きこもりだったところを助けられてから配信者のマネージャーの仕事をしてもらう関係だったがクビにした。配信で稲置がバックレたことにして、彼の顔を晒して指名手配した。副業で探偵をしている。今回ようやく登場。

氷室稲置(ひむろいなぎ)

ミコ(小石)のマネージャーだったが無職になった?。19歳。高校時代は生徒会長をしていた。料理がそこそこできる。変人をなぜか吸い寄せてしまう人生を送っている。前回は母校で後輩といちゃいちゃしていた。小石との喧嘩の行方は一体?

第8話:世界はたまにご褒美をくれる


「それで、土下座の準備とシャネルのバッグは買ってきたのかな? 稲置先輩?」

「……すまん、これしか買えなかった」

稲置は手のひらサイズの、綺麗に包装された箱を小石に手渡した。場所は小石の配信用の部屋。港区のタワーマンションの一室だ。窓から眺める景色には、人々の喧騒が随分遠くに見える。高いところは得意ではないので、あまり見ないようにする。

何故か小石は和装をしていた。時期的な大人の事情では決してない。多分。

「……バッグじゃないみたいだけど、シャネルとは書いてあるわね」

「俺の予算限界だ」

「開けても良い?」

「どうぞ」

箱から出てきたのは、美しいコンパクトミラーだった。シャネルの店員に聞きながら、現実的な予算内で何とか探し当てたものだ。

「シャネルってこんなのも作ってるのね。知らなかった」

「あと土下座はしないからな。俺は間違ったことを言ったつもりはないし、したつもりもない。思ったことをそのまま言っただけだ。だが、ほんの少しだけ正直すぎた。本当のことを言うことだけが優しさじゃない。その点に関しては俺が悪かった。すまん」

この気持ちだけは、嘘だけど嘘じゃない。

「……まあ、小石もちょっとだけ言い過ぎたかもです」

小石は背を向けて、その表情を隠した。どんな顔をしているのだろう。覗いてみたい気もする。

「そこで、相談なんだが、今色々あって無職なんだ。小石のところでマネージャーか何か募集してないか?」

「……そういえばちょうど、マネージャーが一人空ができたところだったんですよ。稲置先輩が来てくれたらうれしいです」

そう言って小石は、こちらを向きながら満月のような穏やかな笑みを浮かべた。雲の陰り一つない、火星まで届きそうな、綺麗な光を放つような瞳をしていた。

「それは良かった。そのマネージャーに感謝しないとな」

「ええ」

「ところで給料についてなんだが、今までの1割でもいいから上げて……」

「今までって何のことですか? この前の人と稲置先輩は別人なんですよね? ちょっと何言ってるのかよくわからないです」

「……いや、今のは大人のジョークみたいなもんで、本当はどっちも俺なんだよ」

「?」

「? じゃない!!!! どう考えてもわかってるだろ!!! おい!!!」

「今までの人はデリカシーのかけらもない仕事もできない無能だったんですよねえ。ほな稲置先輩とは違うかあ」

「急に関西弁になるな!! 今デリケートな業界なんだからちゃんと忖度しろ!!! デビューできないだろうが!!!」

「デビューってなんのことです?」

「そういうのは流せ。一応言っておくことに意味があるんだよ」

「まあいいですけど、これからもよろしくお願いしますね。稲置せ・ん・ぱ・い♡」

「ああ。ここからは全力で行くぞ。一気に駆け上がる」

これから何があったとしても、俺たちは一緒だ。きっと何度も喧嘩するだろう。そのまま離れ離れになるかもしれない。それでも、別に良いじゃないか。

地球の裏側の人ともつながれる時代だ。いざとなったら、北欧辺りにでも逃げれば良い。戦争が起きたら、隣の国に逃げれば良い。世界はそれを拒むほどは残酷じゃない。

世界を恐れる心はあなたの中にあるのかもしれない。世界は確かに恐ろしいが、たまにご褒美をくれたりする。こんなふうに、ほんの1万円とちょっぴりの勇気一つで、温かい気持ちになれたりもする。

それはきっと見落としがちで些細なことだけれど事実だ。俺はそう思いたい。


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