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社会人で必要なことは、すべて小田急で教わった【④車掌編】

ある日の朝、いつも通り車掌区に出勤して、助役の出勤点呼を受けました。

私が乗務するのは7はこね。経堂から回送で新宿へ行き、箱根湯本への折り返しです。週末ともなるとロマンスカーはいつも満席でテンションの高い乗客を乗せて走ります。

ところがその日の点呼では、私の乗務する7はこねに特記事項がついていました。「本日、7はこね。〇〇組300名乗車。勤務態度注意。」
勤務態度注意って、何をどう注意するのさ。見るとS主任が乗務する次の9はこねも「△▼組、200名乗車。勤務態度注意。」
S主任、「お、高萩のほうが100人多いな、負けた。」いやいやそこは勝ち負けじゃない。

勤務態度に細心の注意を払いながら回送車を新宿駅に着けると、ホームの様子がすでにおかしい。それはそうです。特急ホームには組の皆さまが300名、私たちの到着をお待ちです。もちろん週末ですから、カタギのお客様も大勢お待ちです。11両編成のうち6両がヤ〇ザ、みたいな状況です。

車内は週末のロマンスカーとは思えない静けさです。気の毒なことに小さな子供連れのご家族も、こわもての団体様に囲まれて緊張しています。とはいえ、バブル全盛期。若い方々がどうしても血気盛んにやらかしてしまいます。「車掌さん、大変です。すぐきてくださーい」。日東紅茶の女性スタッフが血相を変えて私を呼びに来ました。寝たふりをする訳にもいかず、現場にかけつけると、あららな状態でお若いお兄さんがすごい剣幕でお怒りです。「おい、どないしてくれるねん。」

当時、このようなことは度々ありましたので、童顔の私は職務防衛上、パンチパーマをかけていました。写真の私は可愛らしい顔ですが、帽子を取るとパンチパーマです。(今、パンチのおじさん、見なくなりました)
これは帽子を取り、頭を下げてお詫びする際、パンチが先方の目に入るようにするためです。私はこの時も同胞であるパンチの先輩に帽子を執り、礼を尽くしてお詫びしてみましたが、ダメでした。

そもそも、私が謝ってすむような話なら、こんなに大騒ぎはしていません。仕方ないので、私は若いお兄さんに聞きました。

「わかりました。直接組長さんにお詫びさせてください。」
「組長は関係ないだろ」
「いえ大変失礼なことをしてしまいました。直接お詫びさせてください。」
「関係ない」
「いえ、あります」

私は組長が座る場所へ案内してもらい、帽子をとってパンチパーマを組長にお見せしながら、深くお詫びしました。

どうなったか。

若いお兄さん、「堅気に手を出すんじゃねえ」と一喝されていました。

この後も何度か乗務中、洒落にならない現場に遭遇しましたが、頭の方というのは大変に気品があり、話の飲み込みも早く、いつも事なきを経ていました。タチの悪い泥酔客より、よほど理解があります。

正面から向き合って想いを伝えれば、たいていの場合、話は通じるものだと学びました。
もう、今は無理ですが、当時は若かった。


【教訓】想いはトップに直接伝える。そうすると結構通じる

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