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女性管理職について世の中の現状や課題を考える


取締役CFOでありコーポレート部本部長の土井裕介さんに、政府が目標に掲げる女性管理職比率の現状と課題や諸外国との差について触れつつ目標実現に向けた社会の考え方について聞いてみました。
性別を問わず全ての人が輝ける社会実現について考えてみましたので、ぜひご一読ください。
 (インタビュアー:船木)
 

政府の取り組みについて

政府は「2020年代の可能な限り早期に指導的地位に占める女性の割合が30%程度となるよう目指して取組を進める」と掲げました。当初は2020年を目標としたが断念されました。
理由として罰則や法律で規制されることがない点や管理職に登用できる女性がいないことが挙げられています。


罰則や法律がないことが目標達成できなかったと推測されていますが、罰則や法律で規制することで無理やり達成できたとしても、会社として任せたい役割を担える女性管理職を育成できないのではないかと感じますがいかがですか?


土井さん
日本は海外と比較した場合に、女性の社会進出や女性管理職割合が低い傾向があります。
日本は文化や国民性から、女性の社会進出や女性管理職割合の増加に寄与できなかったという背景があるのではないでしょうか。

けれども、日本の労働人口が減少傾向の中、女性の活躍は非常に重要だと私も考えています。
現在の社会構造の中で、女性の活躍を後押しするために強制力を働かせるのは、一定、仕方がないと思います。

ただ、管理職を望まない女性に、押し付けることは違うと思います。
ここで重要なことは、組織や人事制度を単純に作ればいいというだけではなくて、女性がモチベーション高く自ら挑戦したいと思える風土作りです。
背景設計からしっかりと構築していく必要があると思っています。
女性が自ら挑戦したいと思える風土作りを各企業に任せるとなると、政府の目標達成はまだまだ難しいと思っています。

―また、登用できる女性がいない点について、妊娠や子育て等のライフステージの変化によって、転勤や残業などがしづらいことが、 経験を積ませる上で弊害になるのではないかと考えていますがどうでしょうか?

土井さん
妊娠、子育てというライフステージの変化の中で、女性社員が男性社員に比べて、労働環境や仕事内容等の影響を受けやすいのは純然たる事実だと思います。
この点については、きちんと理解する必要があると思っていて、日本だけでなく海外でも女性の社会進出や管理職割合向上を阻害してきた要因にはなっていたと思います。

ただ、社会基盤を維持、拡大させていくことを考えると、子供が生まれ成長していく社会というのは非常に尊いことであり、大事なことだと考えています。

女性が自らの多くの時間をそのような素晴らしい出来事に向き合っていただいているという事実を改めて認識してみると、就業できる範囲において活躍できる機会や就業機会を新しく創出していくことは非常に大事だと考えています。
また、ライフステージが変化した女性でもしっかりチャレンジできる枠組みを作ることはとても重要なことだと思っているので、社会全体として仕組み化していくという思想自体はやはり必要だと思っています。

―女性管理職を増やすために、国は努力義務で東証プライム市場に上場する企業の女性役員の比率を2030年までに30%以上にする目標を設けるとしていますが、機関投資家が企業の女性活躍の取り組みを評価するという考えがあるため、優先的に女性を登用するのではないかと考えられます。
そこで課題となりそうなのが、女性を優先させることで男性からの反感が出るのではないでしょうか?

土井さん
性別や年齢に関係なく、顧客、社員、株主含めた各ステークホルダーに向き合って、 企業価値向上をできうる人材がしっかりと役員にそれぞれ就いて、その力をいかんなく発揮してもらうことの方が、本質的だと思います。
ただ、能力的に差異がないのであれば、現在は男性に偏りすぎているのも事実だと思っています。
これらを是正するために、一定の基準値を設けて取り組んでいくこと自体は、意味があるのではないかなと思います。

日本の企業全体として、「重役には男性が当然選ばれるというような慣習」がもしある場合、 性別、年齢、立場に関係なく、当然に能力や経験のある人員が経営に参画していくという土壌を作る必要はあると思います。

政府が設ける目標達成のために選んだ、と思われることで反感や拒否感が生まれると思うので、きちんと理解してもらうことの方が重要だと思います。

そのために、まずレギュレーションを作って、 慣習をなくし、純粋な能力や経験によって選ばれていくという環境が整った後に、数値基準を撤廃していくという流れを組めるのが理想ではないでしょうか。
このような形で公平なサイクルがまわるということをそれぞれの立場の方々がしっかり理解していければ、自然と反感や拒否感はなくなるのではないかと思っています。

諸外国の状況における日本国との差について

現状の日本は「管理的職業従事者」の割合が14.8%に対して、女性管理職登用が進んでいるアメリカでは40.7%、ドイツでは29.4%と大差があり、諸外国の推進スピードは速く、日本は増加しているものの遅れている状況です。

※第5次男女共同参画基本計画説明資料抜粋

各国では企業役員における女性のクオータ制の導入以降女性比率が上昇しているデータがありますが、日本においてクオータ制は法制化されておらず、それぞれの組織の判断に委ねられているため、海外と比較して女性活躍に課題があると言えます。
海外の状況としては、欧米諸国を中心としてクオータ制の導入に積極的な国が多いといえます。
特に世界で初めて企業役員への女性のクオータ制を導入したノルウェーは、2003年にクオータ制を法制化しており、2008年以降国営企業における女性役員の割合を40%前後で維持しています。

共同参画特集諸外国の経済分野における女性比率向上に係るクオータ制等の制度・施策等に関する調査 他より抜粋

―クオータ制のメリットは女性の社会進出の促進と人材の多様化が挙げられる、一方デメリットとしては、逆差別や運用負荷が挙げられます。
現在の日本でクオータ制を法制化するための課題はどこにあると考えますか?
私はクオータ制の運用負荷について組織体制・社会構造の考え方の刷新や人材育成で解消できると考えていますが、逆差別に対しては日本の組織体制的に課題の解消が難しいと考えています。
なぜなら、日本はまだまだ男性主導型の社会だと思うからです。
女性が優先して管理職になる場合、同じ立場の男性からはよい印象を持たれず、組織としてのチームワークを崩す可能性があると思っています。
 


土井さん
おっしゃる通りだと思っていて、クオータ制の法制化のための課題はいくつかあると思います。
1つは先ほどの話の裏返しとなるのですが、現状の管理職に男性割合が多いという事実に対して、国や政府及び市場から男性を優先的に管理職につけてくださいという働きかけが過去にあったわけではなく、国柄や文化などから自然とそうなっている状況があるのではないでしょうか。

今回その状況をクオータ制の導入で、法制化していこうと思った時に、あえて優遇措置として、絶対にこの基準の人員は女性にしないといけないという新たなレギュレーションを設ける形になるので、今までこのようなレギュレーションがない中で管理職を決定していた中で、いきなり新たなレギュレーションが加わるとなれば納得感がないと感じる方々が一定出てくると思っています。
なので、いきなり政府として、何パーセントは絶対に女性管理職にしてくださいと言ったとしても、それだけでは当然反論が出てきます。 

やはり、政府が行っていくべきことは、日本国内における今後の成長みたいなものを考えた上で、例えば女性の比率含めて、多様化していくことによって対応する企業や組織にどのような具体的成果が期待できるのか、その結果として日本国全体がどのように潤っていくのかを長期的なビジョンを自らの言葉を持って説明していく必要が、ルールメイクする側の責任としてあるのではないでしょうか。

目標や義務だけを強いるのではなく、対応する企業や組織が享受できるメリットや意義に関する説明がきちんとなされれば、おそらく理解してもらい促進はできるのではないかと思ってます。

政府の目標を達成するために

―日本国内の目標について、現状の女性管理職の達成状況は「係長相当職」で18.9%(2019年)で2025年に30%を目指していますが、どのようにすれば達成できると考えますか?
 

土井さん
管理職というものについて、理解を変えていかなくてはいけないかなと思っています。
例えば、管理職になったら部下をもって、チームの成果の全責任を負いますとか、高い成績の責任を負わされるみたいな感じになるというのが、今の日本社会における理解だと思っています。

そうなったら、やはり長時間労働であるとか、責任の増大みたいなところでプレッシャーを受けるという側面があるので、ライフステージの変化を勘案した時に、そのような管理職の働き方や仕事への時間の割き方はできないと思われる方々は多いと思っています。

管理職の働き方はできないと思われて、女性が自ら手を上げる機会がどんどん失われていく状況になっていくのは、非常に悲しいことです。
さらに言うと、最近だと、女性が手を上げないだけではなく、若年層の方々も管理職になりたくない、昇格したくないと言われる方々も増えてきているという情報も見聞きします。
これらは実は本質的には同じことが問題の根幹となっているのではないかと思っています。

管理職の責任範囲やミッション、目標みたいなところが明確化できてないことが1つの問題ではないかと思っています。
どこまで責任を負わなければならないのか、どこまでやらなければならないのかというのは、過去の働き方とはだいぶ変わっているのではないでしょうか。 

管理職といえども、責任の範囲、業務範囲があって、かつ、メンバーと管理職は職域の違いに過ぎず、単純にAという業務を行っているのか、Bという業務を行っているか、だけの違いであることをきちんと理解した上で、管理職に挑戦してもリスクは少ないことをしっかり理解してもらう必要があると思っています。 

これは女性も若年層の方々も、今の働き方の中で挑戦できる範囲内だからこそ、管理職への挑戦は問題ないと安心して思えるような形で管理職を定義して、皆が理解していく流れができれば良いと思います。

このように理解してもらえれば、挑戦する女性や若手の方々も増えるのではないかと思っています。

―最後に、プライム市場の上場企業を対象とした女性役員比率は9.3%で目標は
・2025年を目途に、女性役員を1名以上選任するよう努める。
・2030年までに、女性役員の比率を30%以上とすることを目指す。
としていますがどのようにすれば達成できると考えますか? 

土井さん
役員の責務として顧客・社員・株主等の各ステークホルダーそれぞれが何らかの利益を得られるように企業価値の最大化を目指さなければなりません。
また、昨今はAIをはじめとするテクノロジーの進歩はめざましく、世の中の潮流も激しく変化しています。

役員としての期待役割と世の中の流れを前提として置いた時に、企業をしっかりと舵取りしていくには一方向からの見方・考え方では正しく対応しづらい状況にあります。
そこで、企業経営の責任者たる役員自体が様々な分野での知見やアイデアを持って、取締役会等で多様な見解を集め、議論・決定をしていくことで、先を見通しにくい世の中においても、企業価値の最大化を図り続けていくことを可能にするのではないかと思っています。
昨今、役員の知見の幅を指し示すスキルマトリクスの公開がなされるようになっていますが、これはあくまで知見に関する部分であり、企業経営における真なるリスク認識と可能性への挑戦を行うには、知見だけでなく個々人の属性を源泉とするアイデア等も必要になるのではないでしょうか。

上場企業のみならず各企業において、特定分野での深い知見×多様な属人性を推進することに繋がる女性役員比率の一定のレギュレーションは、特に進歩の激しい不確実な世の中では、羅針盤のように企業経営に多様なサジェストを行ってくれるものと考えられます。
そのように各企業がきちんとこの制度の意味と機会を理解すれば、2030年までの達成目標もスムーズに実現できていくのではないかと考えます。

―様々な質問にお答えいただきありがとうございました!

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