地下賭博場の亜人(デミヒューマン)
カードを混ぜ、一枚ずつ配る。
順番に、平等に、均等に。
六つの目がにらみ付けるようにこちらを見ている。
少しでも目を逸らせば、勝利の女神がこっそり逃げ出すとでも思っているのだろうか。
3人の男はじっとカードの動きを追っている。
緊張しているのか、真ん中のヒゲ面の男が「んん…」と息を洩らした。彼はいつも足首にナイフをくくり付けているが、実用性はほとんど無いと言っていい。武器を身につける事で、強くなった気分になりたいのだろう。
隣のメガネをかけた男は、ピクリともしない。ちゃんと呼吸しているのだろうか。なんだか不気味だ。ただ静かに、私の手元を見ている。
反対側に座った中年男性の額からはダラダラと汗が流れている。彼は全財産をこのゲームに賭けてしまった。もう後が無い。よくよく見るとジャケットの左胸が、少し膨らんでいる。拳銃を持っているのだろうか。注意しておこう。
さて、三人の手札が揃った。
勝者は全てを手に入れ、残った二人は全てを失う。
実にくだらない。人間のやる事は分からない。
「亜人種(デミヒューマン)は、賄賂に興味が無いからな。」
人間との戦争に負け、捕虜となった私が
この地下賭博場に連れてこられたのは今から12年前の事だ。
ここにはどうしても、買収されないゲームマスターが必要だったのだ。
私は仕事を全うした。どんな賄賂にも、脅しにも屈しなかった。これが私の戦いだった。どんな相手にも平等であること。決して不正に加担しないこと。この場所では、私はただの機械だった。いや、ただの「運命」だった。機械に細工は出来る。運命に細工は出来ない。運命で居る限り、私は彼らと対等だった。
人間達の勝負は、朝まで続いた。そして、ヒゲ面の男が叫んだ。
「やったぞ!億万長者だ」
メガネの男は黙って嘔吐した。押さえた指の間から消化不良のトマトが見える。
汗にまみれた中年男は顔面蒼白になったかと思うと、今度は赤くなって
「これは詐欺だ、不正だ、インチキだ」と怒鳴り散らした。
そして懐から拳銃を取り出すと私に銃口を向け、
「この亜人が、何か仕組んだんだ!賄賂を貰ったんだ!そうだろう!」と叫んだ。
やれやれ・・・なぜ人間という生き物は言葉と行動が一致しないのだろうか。
彼の理性は、不正が無かった事を理解しているのだ。
しかし今、銃口は私を向いている。実に不合理だ。
「はっ・・・もう終わりだ、おしまいだ」
彼は銃を降ろすと泣き出した。
「あぁ死にたい、くだらない人生だった」
今度は銃口を自らのこめかみに当て、泣きながら震え出した。
「死ぬぞ、死んでやる。死なせてくれぇ。」
やれやれ。
人間と言うのはやはり分からない。
死にたい、と言いながら心の中では
死にたくない、まだ生きていたいと叫んでいる。
男は引き金を引いた。私はとっさにカードを投げた。
短い人生だ。どんな場所でも誇りを持って生きればいい。
・・・カードは、撃鉄の間に挟まった。