【朗読】ある男のラブレター

こえ部過去作品 2009/4/13投稿


俺は果たして成功したのだろうかと、

ふと疑問に思うときがある。

本当にこれでよかったのだろうかと、

不安になる時がある。

今、俺はあるバンドのライブに来ている。客席は満員だ。

歓声の中、ライブは続いている・・・。

本当は、この舞台に立ちたかった。

嫉妬していないと言ったら嘘になるだろう。

俺もかつては歌手を目指していたからだ。

歌唱力では俺の方が上だった。自作の歌詞にも定評があった。

だが、業界はそんなに甘いところじゃない。

チャンスをつかめない者は、落ちていくだけだ。

インディーズで頑張ってた俺のバンドも二年で解散した。

メンバーが就職して、次々辞めていったからだ。

だが俺は、音楽から離れたくなかった。

だから歌を捨て、評価の高かった作詞に専念した。

学校に通い、一から勉強しなおした。

そして偶然再会した同級生がボーカルをやってる、

このバンドに歌詞を提供する事になった、というわけだ。

イケメンで喋りも抜群にうまい。歌も悪くない。

こりゃあ売れてもしょうがないな。認めるよ。

まぁ彼らが売れて、俺の歌詞を若者が口ずさんでいるのを

嬉しくは思ってる。でも、俺は歌いたかったんだ、ここで。

彼らの歌としてではなく、俺の歌として。

もしもあのとき歌をやめずに続けていたら、ひょっとして

・・・なんてな。

もういいんだ。諦めて作詞家をやってたから、妻と出会えた。

「あなたの歌詞が好き」といってくれる君と。

もし、過去に戻れる機会を得ても、俺は戻らないだろう。

支えてくれた君に、俺を認めてくれる最愛の人に、

ひょっとしたら出会えなくなるかもしれないからだ。

だったら俺は、今現在を抱きしめたい。

出会えた幸せを、歌詞にのせて君に届けたい。

それが俺の選んだ道だ。

さぁ、次の曲は俺からのラブレターだ。

妻に届くよう、しっかり歌えよ。

そして俺と同じ境遇にある人にも届くように、

俺の分まで心をこめて歌ってくれ。

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