医学部入試の女性差別について
こんにちは。
医学部受験コンサルの鈴村です。
4年前に書いた文章がひょっこり出てきました。そのまま再掲します。
今、読み返すと、女性の社会進出がある程度進んだからか、徐々に男性の生き方が女性に拠りつつあると感じます。
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医学部入試の女性差別について、私が個人的に思っているところを書きます。
これは個人の意見であり、所属する団体を代表するものではないことを、最初に申し添えておきます。
東京医科大学の入試で、女性と3浪以上の受験生が一律減点されていたことが明らかになった時、私は「一律に点数を引くとか、そんな雑な仕事してたのか!」と驚きました。
私の認識では、この10年ぐらいで、医学部入試の女性差別はなりを潜め、面接で面接官のバイアスがかかって点数を低く付けられることはあっても「女性」という属性で「一律に」点数が引かれているとは気づきませんでした。
だから、1次試験でしっかり点数を取って、面接で面接官のバイアスを乗り越える受け答えをすれば、女性といえども気にする必要はない、と考えていました。
現にうちの予備校では、その年に東京医科大学に入学した生徒が、全員女性だったこともありました。
年齢差別はあっても、女性差別については、面接官のバイアスを乗り越えれば、ほとんど気にする必要はないと、素直にそう思っていたのです。
なぜ、医学部入試で女性が差別されるのか?
それは、医学部が「医師養成学校」だからです。
医学部を卒業した学生は、ほぼ全員が医師国家試験を受験して医師免許を取ります。
そして、ほとんどの人が患者を診る臨床医になり、ごくわずかな人だけが研究医や国の医系技官になり、最近ではベンチャー企業を経営する人もいます。
つまり、医学部入試というのは、大学入試と就職試験を同時に兼ねているのです。
私が人事部にいたのはもう20年も前のことになりますが、おそらく今も、日本の就活は完全に男女平等になってはいないでしょう。
であれば、医師という職業の就職試験においても、女性差別が暗黙のうちに行われるのは、ある意味では自然の流れと言えましょう。
医学部入試における女性差別を解消するには、女性医師が働きやすい環境を…というのが定説になっているようですが、そもそも大学入試と就職試験を同時に行ういびつな構造が、この問題を引き起こしていると言えます。
ちなみに大学入試を管理しているのは文部科学省、医師国家試験を初めとする国の医療を管理しているのは厚生労働省です。
入口と出口を違う官庁が取り仕切っているのに、出口の矛盾を入口に押しつけても解決するどころか、ますます混迷の度を極めるだけです。
この「公平な」医学部入試のツケを、我々国民は何年かの後に、医師不足と医療崩壊という形で払わされることになるでしょう。
いえ、もうとっくに医師不足も医療崩壊も起きているのに、現場の医師の踏ん張りで必死に支えてきたわけです。
妊婦たらい回し事件の報道が、産科の決定的な崩壊を招いたのと同じことが起きてもおかしくありません。
国民皆保険制度を維持できるかどうかさえ、非常に危うい状況だと思います。
閑話休題。
出口のツケを入口に回さない一つの方策としては、医学部入試の定員を緩めて、在学中の脱落者を自由に認めるという手段があります。
そうすれば、1次試験の学科で点数を取り、2次試験の面接で医学への情熱と医師への適性をアピールできれば、100歳の高齢女性でも点数が達していれば、合格させることができます。
今の医学部は定員が厳格に決められており、規定を少しでもオーバーすると、国からの補助金が減額されます。
他学部に比べて補助金の額が大きいため、文科省はそもそも医学部に対して非常に厳しい姿勢をもって臨んでいます。
在学中の留年者や退学者が多い医学部があれば、即座に文科省が調査に入り、減らすよう指導勧告しています。
それを緩めて、入試は性別も年齢もボーダーフリーにし、6年間の厳しいカリキュラムを耐え抜いた者だけを卒業させて、国試を受験させるシステムにすれば、入試で差別をする必要なく、医師への適性があると認められた者だけが、現場に出ることになります。
まあ、色々な面で不可能でしょうけどね。
そもそも医師というのは、高い専門性を持ち、医師にしか許されない医療行為を行う非常に特殊な専門職です。
今は私立医学部の下限も偏差値62.5と、日本中の優秀な若者が医学部に集まっており、それでも下位10%は、6年間の勉強では国試に合格できない過酷な世界です。
ちなみに今は、男性でも医局に残らず、ハードな診療科や病院を避ける傾向はあります。
女性がイヤなことは、男性もイヤなのです、もちろん。
私の個人的な願いとしては、男女も年齢も関係なく、自分の生命や健康を預けるにふさわしい方々に、医学部入試を突破してほしい、ただそれだけです。
医師は誰もができる仕事ではありません。
医学部も誰でも入れるものではありません。
女性差別というわかりやすい事象に飛びついて、わあわあ騒いだツケは、結局、患者である私達国民が払わされるのです。
そもそもの発端は、文科省幹部の収賄容疑であるにも関わらず、その調査の過程で出てきた差別入試に、まんまと興味関心の対象を移されたところから始まっているわけです。
⭐︎今年の医師国家試験は明日から2日間にわたって行われます。皆さまの健闘をお祈りしております。