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ローンを組んでも欲しかった楽器の話

Bel Elan IIの購入の話である。
これまでの楽器も悪い楽器ではない。しかし、弾いていてときめきを感じるか?と言われると、そうではなかった。しかも、モダン楽器、とてもしっかりした造りで、大きく重かった。10代でこれから体ができてきて、バリバリ弾けるようになるのであれば、相応しい楽器だったのかもしれないが、アラカンでへバーデン結節持ちのあたくしには難しかった。

最初は師匠の昔使っていた楽器を譲っていただこうかとも考えた。しかし、ベルリンへ推し活に行った際、現地の楽器屋で楽器を見せていただいているうちに、もう少し頑張って、自分が本当に欲しいと思える楽器を探そうと心に決めた。

師匠は楽器フェチ(褒めてます!)で、ご自身の楽器も磨き上げてゆかれている方。予算を伝え、楽器を探していただいた。しばらくして、いくつかの候補を見せていただいた。最初のものは、音は悪くなかったが、見た目が美しくなかった。そう言うと、「見た目大事だね」と仰って、また次の楽器を探してきてくださった。次の楽器は、音も悪くなかったし見た目もそれなりだった。色が理想の色ではなかったけれどそれは産地によるものだから仕方がない。師匠も乗り気だったのだけれど、調査の結果候補から外れた。

こんな楽器だったらいいよね、と師匠と話をした。いやいや、そんな楽器ないですよね、あっても、あたくしの予算では無理!と言っているうちに、師匠、どこかからそんな楽器を探してきてくださった。やっぱりあたくしの予算では厳しい。でも、サイズも見た目も、弾き心地も理想。そうなったら、どうやったらコレを手に入れられるかを考えるしかない。

脱線するが、昭和なあたくしのさらに昭和な父親は、その生涯で一度もクレジットカードを持ったことも、ATMでお金を下ろしたこともない人だった。現金主義で借金を嫌っていた。しかし、MBAなあたくしには、借金ができないのは金利以上の利益を生むことができないイケてない会社(いやヒトだけど、この場合)である。

と言うことで、銀行へGo!だ。しかし、銀行はにべも無い。当たり前だ。楽器で一銭の利益どころか、負債しか産まない人間に、どうやって金を貸すと言うのだ?楽器の担保性を力説しても、受け入れられない。「ユダヤ人はダイヤモンドかヴァイオリンですぜ、旦那(チェロじゃ無いけれど)」と言っても、無理!と言われるばかり。担保にするなら土地か有価証券、な世界であった。

それでも、なんとかあるものないものを提出し、ローンを組むことができた。運転資金が確保できたことで、心安らかにBel Elan IIを購入することができる。

借金は、そう、金利以上の利益を産むのでなければ、するべきではない。あたくしがBel Elan IIと過ごす残りの人生は、この金利を払うに見合うのか?

まだこの楽器に出会って1ヶ月に満たないが、少なくとも今のところ大満足である。嬉しくて、楽しくて、ずっと弾いていたくなる。これまで弾けなかったところも弾けるようになる。目下の問題は、楽しすぎて練習しすぎてしまうこと。指や腕、体を傷めたら楽器そのものが弾けなくなってしまう。師匠からは「弾きすぎ絶対禁止」を言い渡されている。

(写真は何年か前、清水寺を訪れた時のもの)

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