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つゆだく


私の大好物は牛めしでした…
若いころは仲間と一緒に小銭をポッケに入れて近くの吉野家に出かけてたものでした…
学生服にジャリ銭しか入っていないと思われるのが嫌でポッケの中で跳ねる小銭の音をかき消そうと下駄の音を大きく鳴らして歩いたものでした…
牛めしが出てくるまでの時間空腹を悟られまいと仲間と賭博の話で盛り上がったり年上の女のすけこましになった話などまるで歌舞伎に出てくる悪党のような盛りに盛った自慢話で盛り上がりましたが、みんな内心は「早く牛めしを出してくれ…」と思っていたようで牛めしがきたとたんに無言でかきこみました…
今そんな学生の集団を見たら笑ってしまうかもしれませんが当時は無関心というより大人たちも必死だったのでしょう…牛めしの周りには活気があふれていました…
その頃から人は空腹には勝てないのだという教示を得た私は門下生が貧しい生活をしていたら家に招いておひつに余ったお米を妻に内緒でふるまってやるのです…
おかずもありませんが夢に向かって必死になっている門下生には米と舐めるみそがあれば十分なのです…
おひつにかじりつく門下生を見てはあの頃に食べた牛めしを思い出すのですがこちらは田舎ですので吉野家がないのです…
門下生に吉野家の話をすると「師匠…すき家というのが最近こちらにもできたのですが…」と言い出し現在はヱヴァンゲリヲンなるキャンペーンなどもしていると…
どちらかというと若者をターゲットにしているであろうその牛めし屋に大変興味を注がれたのでした…
一人でそのようなお店に入るには勇気がいりますので次の日弟子と一緒にすき屋に行ったのですが…牛丼のパターンがとても多いことに目移りするというよりも困り果て…タッチパネルの操作もわからずただ席に座ったまま弟子にすべてを託したのでした…
弟子曰く「僕のおすすめ牛丼つゆぬき玉ねぎ多めにしておきました!」と言われ当時つゆだく一筋であった私はつゆぬきというものが概念のレベルで分からなかったのですが一口食べてその考えは消え去りました…
この牛めしは米自体がうまいのでつゆ抜きの方が米とのコントラストが味わえるのです…
調べてみるとすき家を抱えるゼンショーホールディングの強みはステーキ屋や寿司屋をなどを抱えているため米をグループで大量に買うことでコストを下げていい米を提供しているとのこと…
はじめはドンブリを涙でつゆだくにしよう…などとぼやいた私ですが…
牛めしを食べ終わった後…つゆ抜きのうまさを知ってしまった今…もう汁かけ飯のようだったつゆだくを食べることはないのだろうな…と思うと青春が遠ざかるような気がして寂しさに放心していたのです…
豊かさとはなんなのか…つゆだくとの別れ…紅ショウガが少ししみた出会いと別れの春…

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