
単位落としそうだったからホストクラブに行った話
私は、決して大学時代、まじめな学生ではなかった。
大学4年生のとき、うっかり単位が1つ足りなくて、「卒業できない!?」と、青ざめていたころの話。
そんなとき、焦って取ったのが「音楽文化」の講義。
1年生と混じって授業を取るのは、非常に気恥ずかしかったけど仕方ない。
私はこの授業、全然聞いてない。申し訳ないけど、寝てた。
たぶん民族音楽とか、そういう授業だったんだろうけど、私は、民族音楽ってよくわかんないから「ホストクラブのシャンパンコール」についてレポートを出した。
こんなレポートを出したにも関わらず、成績は「優」だった。
音楽文化の授業で出した最終レポート。Dropbox漁ってたら出てきたのね。
今となったら、意外と面白いかもしれないなと思って、noteに公開しちゃう。
当時22歳ぐらいで北陸住みの田舎者が書いたものだから、世間知らずなのはゆるして〜!
~ホストクラブに行ってみた~
私は前々からホストクラブに行ってみたいと思っていた。
ホストクラブのイメージといえば、金髪のチャラチャラしたスーツのお兄さんがいっぱいいて、楽しく騒がしくお酒を飲むところ…。そして独特の一気飲みの掛け声にシャンパンコール、といったところ。
数年前にはたくさんのメディアに取り上げられていて、ホストはたくさんの漫画やドラマのモチーフとなっており、好奇心はつのるばかり。
しかしながらそのホストブームの当時、富山県の田舎の中高生だった私には、到底手の届かない場所であった。
今現在、大学4年生となり、親のすねかじりの身分ではあるがアルバイトでも結構稼げるようになった。就職も決まった。
さて、どうしようか。と時間を持て余していた頃、この音楽文化論のこの課題である。
わたしはふと、昔行ってみたいと思っていたホストクラブを思い出した。
私がホストクラブを思い出した理由はもう一つある。
付き合っていた彼氏が昔ホストをやっていた。その本人が「ホストクラブなんか、絶対行くところやないぞ」と言うのだ。
そんなことを言われたら逆に行ってみたくなるのが人間の性である。
だが、もしかしたらハマってしまうかもしれない…。ハマりすぎて破産してしまうかもしれない…。
そう思い私は初のホストクラブ体験を、あえて遠い九州の歓楽街、福岡県の中洲で選ぶことにした。
もう海外のイケメンにでも会いに行こうかと思ったが、どうやらホストクラブは日本独自の文化だそう。
ホストクラブ・「ラグジュアリー」へ
小松空港から福岡空港まで、飛行機で向かった。
どうやら富山空港から福岡便は出ておらず、仕方がないので小松空港まで行った。小松から福岡までは所要時間は1時間半程度。しかし飛行機のチケットが片道3万円程度。往復で6万円もする。
これはしょっちゅう行ける額ではない。よし、これならホストにハマるのは困難だ。
昼間は天神でショッピングを楽しんだ後、私はグーグルで「中洲 ホスト」の検索で一番上にでてきた「クラブ・ラグジュアリー」というホストクラブに行ってみることにした。
まず一人で行くのに異様に緊張しながらも、ここまできて引き下がるわけにはいくまいと、勇気を振り絞ってエレベーターに乗る。そのホストクラブはビルの7階にある。エレベーターの扉が開くと、そこにはきらびやかな入口があった。
「いらっしゃいませ」と声をかけてくれたのは、スーツ姿で金髪の男の子だった。身長は165センチぐらい。顔を見ると、たいしたイケメンでもなく逆に安心してしまった。でもなんか可愛い。
「はじめまして!ここ、初めてですか?」と訊かれたので、はじめてです。と答えると、黒い革張りのソファの一角に案内された。
店には、絶えずユーロビートの音楽がガンガンかかっている。結構うるさい。だがうるさいからこそ、ホストと顔を近づけないと声が聞こえない。
それにしても、おしゃれな間接照明とインテリアで、ホストみんなが何だかカッコよく見えてくるから不思議なものだ。
「僕、葵っていいます。はじめまして!」と案内してくれた子から名刺を渡された。
「この店、初回はどれだけ飲んでも1時間1000円です。初回はこの店にいるホストが全員代わる代わるつくんで、お気に入りのホストを選んでくださいね!」と、この店のホスト全員の顔写真が載ったファイルを渡された。
「これ、僕の写真だよ!」と彼はスタッフ紹介の写真に指をさす。
(写真と本物、顔ちょっと違う…)
と野暮なことを言いそうになったが、やめた。
だが葵君は、話がうまく、ホストクラブに似つかわしくない好青年であった。
正直似合っていない金髪も、スーツも、なんだか無理をしてこの場にいるような感じが、逆にキュンとしてしまった。
ちょっぴり応援してあげたくなるような、ブサイクさが母性本能を刺激させるような、そんなホストだった。
案内したあと、お互いのちょっとした自己紹介をしていると、「お邪魔します!」と他のホスト達が次々とやってきた。
今度ついてくれたのは、顔立ちの整った正当派ホストといった感じの2人のイケメンである。
彼らはレイと神谷龍といい、今度は4人で乾杯した。
イケメンにちやほやされるのはいいものである。
このホスト3人は、どうやらとても仲良しらしく、店の寮に3人で住んでいるそうだ。
葵とレイと神谷で「神谷一家」と呼ばれてるそう。
どうやらホストクラブ内でも派閥といったものがあるようだ。そして葵くんはその一家の新人で下っ端らしく、いじられキャラらしい。
やっぱり体育会系!シャンパンコール!
そして、富山県ってドコなの?とか博多でおいしいものは何?など、他愛のない雑談を面白おかしく話していると、
急に照明が一気に消えた。
うるさく鳴り響いていた音楽も消えた。
「ハイ!!シャンパン入りましたー!!!!!!」と、声が響く。
そして音楽が変わる。ドラマチックな照明が、後ろのテーブルを照らす。
これがいわゆるシャンパンコールか!
と私は掛け声のする方を振り返った。
「じゃあ僕たち、行かなきゃならないので…。葵は行かなくていいや。」
と、神谷くんとレイくんがシャンパンコールの席のほうに行ってしまった。
一体何が起こるというのだろう。
みるみるうちにそのテーブルにホスト達が集まり、女性を囲んでいる光景は、かなり異様だった。
「葵くんは行かなくていいの?」と聞くと、
「俺、みんなみたいにカッコよくないしさ…」と言った。
か、かわいい。
しかし葵くんの話術はかなりのもので、話してて面白かった。
大学にいる男子たちと全然ちがう。
私のことに興味を持って、うんうん、ってうなずいてくれる。
「お酒も好きだし、店の人とも家族みたいで、毎日楽しいよ!」
と彼は屈託なく笑った。
ちなみにシャンパンコールとは?
ちなみにシャンパンコールとは10万円以上するお酒を開けると、ホスト達がお礼としてするパフォーマンス。
これが非常に一体感があって面白い。
ホスト達は毎日、仕事前にみんなでシャンパンコールの練習をしているらしい。メインとサブがいて、サブが合いの手を入れ、メインが一気飲みをする。ダンスもある。
「姫!愛してる!」「飲んで飲んで!」とかそんな声が響く。
姫と呼ばれた女性を囲み、コールをするホスト達の姿に私は圧倒された。
完全にプロの技である。
どうやら店ごとにシャンパンコールは違うようで、相当なバリエーションがあるらしい。ちなみに「全日本コール選手権」というホストクラブの大会まであるそうだ。
これを見れただけでも私はここに来てよかったと思った。
10万も払って頼みたいものではないと思ったが。
姫、私の代わりに頼んでくれてありがとう。と心の中でお礼を言った。
ホスト遊びはお金がかかる
シャンパンコールが終わった後、店内はまたいつもの姿に戻った。
その後も代わる代わるホストが私に挨拶をし、乾杯をした。
ホスト達は話術に富み、初回の1時間1000円の時間中、全く飽きることがなかった。
というより、私自身も「はじめまして」から、いちいち自己紹介しなければならないので、時間がたつのが早いわりに、大して深い話もできなかったのである。
もっと色んな話がしたいのに、ホスト達はちょっと話してすぐ私の席を去っていった。
そうして、思ったよりも早く、初回の1時間が経ってしまった。
そして葵くんは「今日ついたホストの中で、気に入ったホストはいる?」と私に訊いた。
今日ついてくれたホストを思い出すと、一番面白くて、一番親しみを感じたのが彼、葵くんであった。
というか他のホスト、あんま覚えてない。
せっかく中洲に来たんだし、このまま帰るのもなんだか惜しい気がして。
もうちょっとここに居たいと思ってしまった。
「うーん、葵くん指名で!」と言うと、彼は散歩前の犬みたいに大喜びしてた。
「ホント!?俺を指名してくれる人ってなかなかいないから嬉しいよ!」
と満面の笑顔だった。
売れないホストを育ててあげたくなるお姉さん方の気持ちが、ちょっぴりわかってしまった。
ホストクラブって、こんなにお金かかるの?
葵くんは私に驚愕の事実を告げた。
どうやらこれ以上いると追加料金で、フリータイム8000円、指名料金2000円、シングルチャージ1000円、ビール1杯2000円、等々がかかると言った。
ビール1杯2000円なんて法外な値段をとるのかと思いながら、これがホストの世界なのかと尻込みする。
だが、酔っていたのもあり、一晩だけだしと思って、まぁいいや〜と。
しかし、指名したからといって葵くんと2人で話せるわけではなく、ヘルプといって他のホスト達もついた。そしてヘルプの彼らにも、お酒をおごってあげなければならないという暗黙ルールがそこにはあった。
もう楽しければどうでもよくなってきたので、気前よくヘルプの彼らにもお酒をおごってあげた。
そして彼らはビールを水のように飲み、どんどんどんどんビールは減っていった。
ちょっとは遠慮しろよと思いながらもそんなことも言えず、そろそろ財布の中身が気になっていた。
魔法が解けると
そんな様子を気にしてか、葵くんが「そろそろ帰る?」と言ってきた。
葵くんは私が学生だということを知っていて、そろそろまずいと思ったのだろう。
ホストの世界には売り掛けというものがあり、客が代金を払えなかった場合、その指名ホストが肩代わりすることになる。
だから、客の懐具合を見極めつつお酒を勧めなければならない。
私の場合、北陸から来ているので、すっぽかされた場合、回収はほぼ不可能であるということもあった。
そして、葵くんが会計を持ってきた。会計、なんと3万5000円。
なんとなく支払額、多くないか?と内訳を見ると「TAX15%、消費税5%」とあった。
フリータイム8000円、ビール2000円という法外な料金に、まだ20%近くも上乗せされているのである。
だまされた!と思ったが、仕方ない。
だが私の財布の中には2万円しかなかったので、葵くんと2人で一旦店を出て、コンビニのATMまで行った。
オシャレな間接照明のない、やけにノリのいいユーロビートもない、ただのセブンイレブンで、改めて葵くんを見た。
せいぜい165センチしかない、スーツを着た、ただのブサイクだった。
明るいところで彼を見てしまい、ちょっと早めに魔法が解けてしまったのである…。
こいつと話すのに3万5千円?おかしくないか?と自分に問いた。
そして、もう二度とホストクラブになんか行かないぞ、と心に誓いながら、私はホストクラブをあとにした。
もうお金がなかったが、自分で自分がいたたまれなくなり、コンビニで缶チューハイを買った。148円だった。
シャンパンコールがなくたって、お酒はおいしい。
〜おしまい〜
一体なぜ私はこんなレポートを出してしまったのか
ちょっとやさぐれてたんですよね。学生時代。
大学4年生で、「この授業を落としたら卒業できない!」ってときに、なんで私は自信満々でこんなふざけたレポートを出してしまったのか。
でも、このホストクラブのおかげで、わたしはホストにハマらない人生を送ることができました。ありがとう、葵くん。
そう思うと、3万5000円って、悪くないかもしれないですね。
いいなと思ったら応援しよう!
