祖母、まだ生きてますよ。

先日、「おばあちゃんの屍をこえていけ」って記事を書いてしまってからだから

ちょっと気まずいんだけど、

祖母、生きてます…。

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ビールが飲みたい祖母

しかも、「毎日少しずつ元気になってますよ!」との報告。

おいおい、「危篤です、、いつ亡くなってもおかしくありません」って言ったの先生でしょうよ。わたしのセンチメンタルを返してくれ。

肺炎だったらしいが

すこし喋れるようになり

死にそうだった祖母は、なにを喋るのかと思いきや、

「治ったら… ビールが… のみたい」

と言っていたそうだ。

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また死ぬ死ぬ詐欺だったのか?

祖母がすこし元気になったと聞いたとき

「え、死なないのかよ!?」と、複雑な気持ちながらも

最終的には「まぁ、よかった」と感じた自分に、安堵した。

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欲望むき出しの女は強いって言うけど

やはり、祖母を見てると、欲望がむきだしの人の方が、強いなぁと思う…

キリストは貧しい人々にパンを分け与えたが
うちの祖母ならぜったい自分で全部食べる。

そんな人だ。

いつも愛用している2万円のフェイスクリームを、
「病院は乾燥する!もってきて!」と言う。

自分でお風呂すら入れないくせに。スキンケアやってる場合か?

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祖母は2万円のクリームを使っているが、

わたしの母が3000円くらいの化粧水を買おうとしただけで「もったいない!」と怒ったらしく、

母は50代になっても「ちふれ」か「無印」の1000円以下スキンケアなのになぁ。

おかげで80代の祖母、50代の母の肌を比べると
祖母のほうがモチモチしていて綺麗。

おばあちゃんの美肌は、癇癪とわがままでできている。

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祖母はグルメだ。

病院食が気に食わないらしく、「イチゴをもってこい」だの「リンドールのチョコが食べたいから買ってこい」だの、こだわりが強い。

しかし、祖母はひどい高血圧で、常に「減塩」を強いられている。

35年前…、嫁に来た母に「ごはんは、減塩食を作ってね!え、作らないなんて、わたしを早死にさせる気?」

といって、母は毎日せっせと味のない料理を作った。

わたしは0歳の時から高3まで、塩が一切はいっていない食事をしてきたため、

家の食事をおいしいと思えず、苦痛だった。

しかし、祖母自体も、「おいしい」と思っておらず
実は、影でこっそり、ポテチやスナック菓子を食べていたのである!

ああもう。

なんて、わがままで、我慢弱いんだ。

人間的に矛盾だらけで、しょうがないけれど、どこか、かわいいのだ。
祖母は…。

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抗癌剤する? という、ありふれた選択

そんな祖母に、食道癌が発覚し…

お医者さんから

「抗がん剤を使って、治療はつらいけど、延命するか」

「抗がん剤を使わず、自然に任せてしまうか」

の、2択を迫られた。

祖母はそんな選択ができるタイプではない。

そして私の父(祖母の息子)に

「どっちがいいと思う?」と訊いた。

父は「いやもう、祖母の好きにするしかないでしょ」と正論…。

祖母が「抗がん剤は…痛いのはイヤ!」と言うと、

父は、「じゃあ、抗がん剤、しなきゃいい」と言ってしまった。

祖母は、「じゃあ私に死ねって言うのね!?生きてて欲しくないのか!???」と泣きながら怒る。

しかし、「抗がん剤をやる、やらない」という、この問題で、祖母が納得する答えは、一体なんだったのか。

わたしにもわからない。

どう答えればよかったのか。

どう答えれば満足だった?

「死なないで!おばあちゃん!(号泣)」という劇ができる人、うちの家族にはいないんだよ…。

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介護って、学校みたいに、3月31日だからもうおしまいです、さようなら。

という節目がないのだ…と実感してしまった。

医者の言う「危篤です」から生還できちゃう人もいる。

かと思えば、すぐ死んじゃうこともあるから、覚悟も必要…。

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祖母の絶え絶えとした母で

「治ったらビールが飲みたい」

なんて、聞かなきゃよかった。

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もう、祖母を、悪者にして生きていけない

祖母と、もう一度、ビールが飲みたくなった。

やっぱりわたしは、あんな祖母のことを恨みながらも、やはり好きだったのだと気付いてしまう。

ああ、なんて、ずるい人なんだろう。

きっとこれからも、祖母を悪者にして生きていければ、

わたしは、人生のいろんな節目で、
「あんなおばあちゃんに育てられたから、しかたないのよ」
って言えたのにね。

それなのに…、死にそうなところで「ビール飲みたい」って可愛すぎかよ。ウケてしまう。

ビールの泡みたいに、しゅわしゅわと、過去の恨みが消えてしまうじゃないか。

祖母への恨みが消えてしまったら、わたしの弱みはわたしの責任になっちゃうのよ。それがイヤだったことに気づく。

自責なんてクソ食らえ。

いろんなことを、祖母のせいだからな!って、人のせいにできていた時代が終わってしまう。

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つめたいビールを注ぐ。

ごくりと一口のむと、じゅわっとした炭酸が、口の中で弾けて爆発する。

もう…ビールなんて嫌い。

大人の味。

祖母にずっと振り回されて悩まされて生きてきた子供時代の卒業。

強い炭酸をごくりと飲み込み、息を吐くと、キリリとしたのどごしのまま、なにごともなかったみたいに、胃に消えていく。

ビールって、ああ、祖母に似てる。

もう飲むのはやめよう。

次にビールを飲むのは、

祖母が無事生還した時か、ほんとうに死んだ時にするから。

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