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【掌編小説】花吹雪のアサシン。のスピンオフのスピンオフ#シロクマ文芸部

 はい、こちら原作があります!

deko様が書かれた花吹雪のアサシンがかっちょ良すぎて、思わず妄想があふれ出しちゃった作品がこちら!

そしてそしてそのお話が素敵すぎることをお伝えしたら、七田様にけしかけらr……じゃなくてお誘いを受けて調子に乗りました!
是非お二人の作品をお読みになってきてください。


花吹雪とは……千の顔をもち年齢不詳、姿すら誰一人まともに見たことがない。風に乗って現れ、花吹雪のごとく風に消える――伝説のアサシン。
死を芸術にする暗殺者

お二人の作品より拝借。



(読了目安3分/約1,650字+α)


「子どもの日は明日なんですよ。それなのに、笹川センセが死ぬわけないんですう」

 東雲と名乗った女性は完全に酒に呑まれていた。不用心だな、と思いながらも僕はカウンターに突っ伏した彼女を見守ることにした。幸い今夜はほとんど客がいない。

「お嬢さんが言っているのはこの間亡くなったっていう衆議院議員の笹川善将先生のことかい?」

 彼女は重たそうに頭を持ち上げ、隣に座っていた彼を半眼で見あげる。

「おじさん、だれ?」
「支持者さ。先生は病死だって聞いたけど」
「それがおかしいの! だって笹川は病気なんてなかったのょ。それが心筋梗塞ぅ? ありえない」
「自室の摩天楼から窓の外を眺めながら穏やかに亡くなっていたんだろう?」
「ありえないありえないありえない! 窓の外を眺めながら穏やかに心筋梗塞って何よ? 変でしょ?」

 彼は少し虚を突かれたように眉を動かし、口元に笑みを浮かべた。彼女は無造作に髪をかきむしる。顎のラインで切りそろえられたストレートの黒髪は見るも無残だ。

「それなのに尾上主任は事件じゃないの一点張り。検死結果に異常なしって何よオオアリよ。いい? すみれは必ず子どもの日に笹川と会うの。その日しかないの。それを楽しみにあの子はずっと生きてるの。笹川だって同じだって、そう言ってすみれは」

 僕はそっと彼女に水を差し出す。彼女は反射的にグラスを受け取るが、僕を恨みがましい目で睨み、要らないと突き返す。

 ずっと腕を組み考え込んでいた男がはじかれたように顔を上げた。

「桂木すみれ」
「なぁに? おじさん、すみれ知ってるの?」
「ああ。確か先生が気に入って通われていた小料理屋にそんな名前の女性が」
「そうすみれ。あの子、病気で入院してたお母さんの代わりにちっちゃいときからずっと働いてさ。でも笹川のことは恨んでないって笑うんだよ。それがけなげでさぁ」
「ああ、そうか。あの女性は」

 男は口元を手で覆う。小さく呟いている言葉は手の外側へは漏れない。

 僕は彼女のコースターへ、ノンアルコールジンで作ったジントニックを置く。ライムの香りと、何より今の酔い方からすれば恐らく気づかないだろう。彼女はおもむろにグラスを掴むと一気飲みをするようにあおる。大きく息を吐き、ボトルが並ぶカウンターの向こうをぼうっとした様子で見つめる。

「おじさん、花吹雪にあうってどういう意味?」

 男は口元を覆ったまま、彼女へと目を移す。

「どういう意味、とは?」
「すみれが言ってたの。笹川は前に、どうせ死ぬなら『花吹雪にあいたい』って言ってたって。その時は酒の席の冗談だと思ってみんな笑ってたらしいけど、笹川らしくないの。議員って人一倍ことばじりに気をつけるじゃない? 花吹雪を『みたい』、じゃなくて『あいたい』。巡りあう、の『逢う』? それとも被害に遭う、の『遭う』? それとも花吹雪って」

 ジントニックのおかわりは、彼女のコースターに置く前に彼に奪われた。グラスを覆うように掴まれたジントニックが幾分泡立ったように見える。

「お嬢さん。今夜はもう遅い。この一杯は俺のおごりだ。これで最後にしな」

 思考を遮られた彼女はジントニックを受け取り、豪快にあおる。程なくして彼女のまぶたはゆっくりと下がり、上体はカウンターへ沈む。

「お客様」

 僕は非難するように彼を見つめる。彼は肩をすくませ、軽く両手を上げて見せた。

「もう眠そうだったからな。良かったじゃねえか。この街でも良い刑事が育ってるみたいで」
「お客様にとっては不都合では?」

 彼はニヤニヤと笑いながら首を傾げて見せる。そしてカウンターに十分な紙幣を置くと彼女を置いて出口へ向かう。玄関の取っ手に手をかけ、ふと彼が振り向く。

「そうだ、今日の話だが」
「私は何も見ても聞いてもいませんよ、常連さん」

 彼は満足したように笑うと、夜の闇へと姿を消した。




前にも後にも失礼しまっす。

ちなみにですが、七田苗子さんと目論んでいるのは、みんなで花吹雪のスピンオフを書いたらnote界がアサシン物語だらけになるのではないかと(笑)
まあアサシンが増える分だけ死体も増えるんですがそこはそれ。
はぶあないすGW!(無理矢理感ある)

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