【ショートショート】初めての鬼#毎週ショートショートnote
改めて、僕の部屋で丁寧にお辞儀をする彼女の背中を見る。いや、もう彼女ではない。妻だ。
僕もお辞儀を返しながら、思わずにやけてしまう。付き合いは長かったが遠距離恋愛だったため一緒に暮らすのは初めてだった。
将来のことを踏まえて借りた、持て余し気味の1LDKに妻の荷物が入り、途端に華やかな雰囲気になる。
引越もひと段落つき、休憩して食事にしようと提案すると、妻が早速手料理を披露してくれるという。
何でも使っていいから、と伝えて僕はリビングに引っ込んだ。自炊はする方なので一通りの器具と食材は揃えてある。
何をごちそうしてくれるのだろうと、期待に胸を膨らませた矢先、妻の叫び声が響く。
「冷蔵庫、なんか匂うと思ったらタッパーが開いてるじゃない。めんつゆも開栓したら冷蔵庫に入れてよ。常識でしょ? やだ、醤油の口ちょっとカビきてるんだけど。フライパンも焦げが残ってるし。使ったらちゃんと洗っておいてよ」
僕はその場に直立して、一つずつ頭を下げた。
(410字)
前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。
今回のテーマは「初めての」「鬼」。
「鬼」はなかなか幅広いですが、「初めての」とつくと「鬼になる」というイメージ。
結婚式の時までは隠れていた角がメキメキと生えてくることと思います。
毎週ショートショートの1周年記念本が出ました!
いつものメンバー44名?(数え間違えそうな人数)によるアンソロジーです。
『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』
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