【連載小説】第1話 ひとりぼっちの高校生は少女の面影を見る #創作大賞2024#ファンタジー小説部門
第1話 (約1000字)
足の、親指と人差し指の間が痛い。それでも私はぐっと我慢して一歩一歩前へ、お母さんに手を引かれて歩いていた。進むたびに右手に持っている千歳飴の袋が地面につきそうで、少し持ち上げるようにして抱え直した。腕がだるくなり、どんなに足が痛くなっても、私はお母さんの手は決して離さず、しかし後ろに引っ張らないように気をつける。
神社の鳥居の前に来ると、お母さんは突然立ち止まり、しゃがんで私の顔をじっと見つめた。
「未紀、お母さんは行くところがあるから、ここで待っていてね。勝手にどこかへ行ってはだめよ」
私がうなずくのを確認すると、お母さんは満足そうに微笑んで、立ち上がった。ずっとつないでいた手を離して、お母さんは遠くで待っている男の人のところへ進んでいく。そのまま二人が並んで歩いて、後ろ姿が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。
私は神社へとつながる石段を見上げた。この上に行けば、お祖父さんがいることを知っている。でも足がずきずきと痛むし、お母さんはここで待てと言ったのだ。
私は石段の一段目の表面を手でそっと払う。そこに腰かけて、草履を脱いだ。足の痛みが和らいで、ひんやりと冷たい石の感触が気持ち良かった。詰めていた息を吐き出して、目の前の歩道を眺める。座っている横に巾着と千歳飴を置いて、私は暇をもてあそび着物の袖にある桜の刺繍を指でなぞった。凹凸を確かめるように刺繍に沿って指を動かす。
それに飽きると、私はただ足元を眺めていた。神社の前を通る人は誰もいない。道路を走る車や電柱の影が段々と左へ動いていく様子をじっと見つめる。私の頭の影がいつもよりもずっと大きい。そっと手で触れると、髪飾りが揺れて桜のかんざしが取れてしまう。お母さんからもらった大切なかんざし。私はそのかんざしを持ったまま、うつむいた。
「未紀か?」
突然声がかかり、私はびっくりして顔を上げる。そこには、お祖父さんが立っていた。いつも楽しそうに笑顔を浮かべているお祖父さんは、お母さんと同じうす茶色の目をびっくりしたように見開いていた。
思わずこぼれ落ちそうになる涙を堪えるため、私は口を堅く引き結んで、お祖父さんの顔を見上げた。
第2話
第3話
第4話
第5話
第6話(最終話)
※このお話は、続編です。よろしければこちらからご覧ください。