【ショートショート】節分胎教 #毎週ショートショートnote
遠くから聞こえる鼓。町内に響く「鬼は外」の声。割れそうに痛む頭を抱え、荒い息を整える。
「大丈夫だ。しっかりと布団を被っていなさい」
夫は枕元の行灯を消し襖を閉める。
「改めさせてもらう!」
役人だ。玄関の開く荒々しい音。夫の制する声は「鬼は外」の声にかき消される。
襖が乱暴に開けられ、行灯が差し込まれる。
「妻はつわりが酷く臥せっております。どうぞご勘弁を」
「おい、そこの灯りをつけろ。頭を見せろ」
布団をはぎ取られた視界に、役人の足にしがみつく夫の姿が映る。私は横になったまま、守るように腹を抱える。
町内に響く鳴りやまない鼓。「鬼は外」の唱和。角が生える。抑えようにも抑えられない。
役人の手が私の結い上げた髪に伸びる。
刹那、鋭い笛が鳴った。
「小郷様!」
玄関口から若者の声がかかる。役人は身体を起こすと、夫と私を見比べ「大事にされよ」と言い残す。
外の騒ぎから耳を閉ざすよう、私は腹に「福は内」と何度も繰り返す。
(410字)
たらはかに(田原にか)様のいつもの企画への参加です。
今回のお題は「節分胎教」。月初なのに鬼レベル。
夜になって気づきましたが、今日が節分だったんですね。知らなかった。
大豆が無いんでゴマでも食べておきます。
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