【ショートショート】立方体の思い出#毎週ショートショートnote
「あ、私のお豆腐、真四角じゃない」
部活から帰ってきた姉ちゃんが、食卓に残った一人分の晩御飯を見て声を上げる。それをみた母が俺を見て、ほらね、と目くばせをした。
俺たち家族はみな、西尾豆腐店の豆腐が好物だった。西尾豆腐店の一丁は4等分すると綺麗な立方体になる。毎晩のように切り分ける母は測ったように正確だが、姉ちゃんが遅くなることを知り、俺が切って大きいのを食べたのだ。
むすっとした顔で、豆腐の角を箸で三角に落としながら食べる姉ちゃんの顔。あの顔とそっくりな表情で芽依が千夏をにらむ。芽依の横では涼しい顔をして碧が豆腐を食べている。
「めいだけしかくくない!」
「芽依は他のおかずも食べないとダメ。にいにはちゃんと食べてるでしょ」
「ヤダ!」
握っていたスプーンを机に投げ、完全にふてくされる。
「芽依。約束する。次からパパが四角く切るよ」
涙を一杯に溜めた目が俺を見る。俺は頷くと、食べよう、と促す。
立方体の豆腐は家族4人の証なのだ。
(410字)
前回に引き続き、たらはかに(田原にか)様の企画に乗っかっています。
今回のテーマは「立方体」「の思い出」。
……って、なんすか?
立方体に思い出があるやついる!? いねーよな!?
(すみません。現在アマプラで「東京卍リベンジャーズ」を視聴中です。
さらにはそれを理由に「立法権の思い出」はパスします。ちょっと今、東卍がそれどころじゃないので)
毎週ショートショートの1周年記念本が出ました!
いつものメンバー44名?(数え間違えそうな人数)によるアンソロジーです。
『本作品はamazon kindleで出版される410字の毎週ショートショート~一周年記念~ へ掲載される事についてたらはかにさんと合意済です』
よろしければサポートをお願いします!サポートいただいた分は、クリエイティブでお返ししていきます。