【散文】百ミリ記念日 #秋ピリカ応募
七八ミリで僕らの時は止まっていた
三連休を喜ぶ貴女を置きざりに一年が過ぎ
貴女がいなければ一日はただの薄いロール紙
二〇二三年十月七日 土曜日 赤口 紅葉狩り
お弁当を持って出かけるのと張り切っていた
夏が過ぎて太陽よりも早起きをした貴女は
夜を手放せずまどろむ僕を連れ出した
奥山に 紅葉踏みわけ鳴く鹿の
そう歌いながら 幸せそうに
麦わら帽子を皿のようにかかげ
ワンピースに澄んだ風を絡ませて
頬を色づかせた葉とともに貴女は踊る
木々と 森と 山と触れ合う貴女の手を
僕はどうして繋ぎ止めておかなかったのか
貴女の魅力に気づけば手放せなくなることを
この世界の誰よりもわかっていたのは僕なのに
川辺に咲く薄青の野花に伸ばした貴女の手を
貴女に恋した湧き水が搦め 引き寄せる
声を上げる間も無い一瞬の出来事で
水中へと抱き寄せられた貴女は
僕の目の前で易々と攫われた
浅瀬で解放されたオフィーリア
明るい笑顔も甘えた声も奪われて
返されたのは冷たい貴女の身体だけ
貴女のすべてとともに時が止まる
百ミリになったらお祝いしよう
過ぎた日めくりカレンダーは
貴女との思い出の積み重ね
七八ミリの幸せな日々は
零れ落ちるほどに嫋やかで
力を込めなければ脆く崩れる
百ミリになったらお祝いしよう
夢の中の貴女はまどろむ僕に言う
貴女のいない二二ミリの時が過ぎて
空虚な日々も六百グラム程度はあって
百ミリの時とともに貴女のもとへ向かう
森はあの日と変わらず静かに紅葉していて
踊る貴女がいないことが不思議に思えて
呼びかける僕の声は虚しく森に響き
たださざめく葉音だけが応える
手を伸ばした薄青の野花は
今年も綺麗に咲いていて
川辺で貴方の声を思い出す
持ってきた日めくりカレンダー
透き通る十月六日の端に火を灯す
一瞬で燃え広がった紙は空へ上がり
秋空を舞い駆けるように消えていった
毎朝カレンダーをめくるのはいつも僕で
今日のメモ欄には先に外出する貴女の文字
弾むような橙色の言葉が僕に朝を告げる
今晩はおでんだから早く帰ってきて
三年目のお祝い 一緒に考えよう
ゲリラ豪雨だって 傘がいるよ
今日を乗り越えれば三連休
注文してたお肉が届くよ
お誕生日おめでとう
一瞬で燃える日々
貴女の思い出が再生し
声きく時ぞ 秋は悲しき
そう歌いながら 火をつける
百ミリの日々が秋空へ飛び立つ
その階段を貴女が上っていけるなら
あの日から止まったままの僕らの時間
同じ日々を歩むことはもう無いのだけれど
百ミリのお祝いで貴女をおくることができるなら
二〇二四年十月七日 月曜日 先勝 百ミリ記念日
貴女のいないこの世界で 僕は新しい日を一から重ねよう
(1,054字)
秋ピリカグランプリへ応募します。
要項を見たところ「■物語であること(エッセイは不可)。」とあるので、必ずしも小説でなくても良いと解釈して自由な形式にさせてもらっています。
公式のヘッダーのデザインがとても美しいのでそのイメージで書かせていただきました。
どうぞよろしくお願いします。