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【ショートショート】食べる夜#シロクマ文芸部

「食べる夜?」

「そうよ。だから今晩はこのままでいいの」

 仏間の中央に置かれた来客用の座卓の上には、たくさんの料理がところせましと並べられている。お野菜の煮物に、お漬物、白ご飯もあれば赤飯やそうめん、いなり寿司もある。果物やお饅頭も大きめの皿に入れてあった。

 そうそう、と手を打ちおばあちゃんは缶ビールを座卓に追加した。

「お祖父さんの初盆だからね。これが無いと怒られるわ」

 わたしは仏壇に置かれたナスとキュウリの牛と馬を眺める。昨日おじいちゃんたちはこれに乗ってウチに来たらしい。今日はウチにいて、明日の夜にまたこれに乗って帰る。

 おばあちゃんは机いっぱいにならんだお料理を眺め、良し、とうなずく。

紬稀つむぎちゃん、この部屋は一晩中電気とエアコンをつけておくから、続き間で寝るときは障子を閉めて寝なさいね。お母さんが一緒だけど怖かったら他の部屋で寝てもいいのよ」

「大丈夫。おやすみなさい」

 わたしは首を横に振り、おばあちゃんに笑いかける。わたしの頭にぽんと手を置くと、おばあちゃんは自分の部屋へ向かった。

 隣の部屋に布団を敷いて横になると、すぐにお母さんの寝息が聞こえた。

 明かりを消した部屋の天井に、欄間の模様が浮かんでいた。わたしは布団の中で、仏間側へ体の向きを変える。これで真っ暗だ。眼を閉じると、逆に隣の仏間の明かりがまぶたに映るようだった。


ことしもようけきゅうりができて

かなんだ? ごーや? こんなもんもつくっただか

おおごちそうしてもらって、ええよめもらったな

こどもはなんさいになった?

つむぎいうんか。あのこはべっぴんさんになるぞ

そりゃあわしのじまんのまごじゃ


 遠くで聞こえる笑い声の中に、おじいちゃんの声が聞こえた。

 わたしが目を開けると、すでに部屋は明るかった。お母さんの布団はたたまれていて姿はない。

 続き間の障子をそっと開ける。何も乗っていない座卓を台ふきで拭いているおばあちゃんがいた。

「おはよう。紬稀つむぎちゃん。よく眠れた?」

「おばあちゃん。ごちそう、みんな食べたの?」

 思わず大きな声で訊ねたわたしに、おばあちゃんは声を立てて笑った。



(872字)



どうも。シロクマ文芸部の幽霊部員です。


今回のテーマは「食べる夜」。
ひよこの家のお盆のお供えルールは結構厳しい方だと思いますが、その厳しいルールも世代交代を繰り返すとどんどん簡略化されています。私が死んだ頃にはお盆にお迎えしてもらえないかもしれません。


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