酒場のコトバ
今日の英語
words to live by (座右の銘、処世訓)
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少し前に、ある媒体の編集長に就任した。
尼崎に、多くの呑兵衛に愛され過ぎている居酒屋がある。そこで酔っ払った客の発言で「これはなかなかイイぞ」と思ったものを、常連客同士で協力して書き留めているノートがあり、それを我々は酔言帳と呼んでいる。酔言帳に載せるwords of wisdomは厳選されたものでないといけない。僕はそのチェック役に選ばれたのだ。つまり編集長ということになる。
実を言うと選ばれたわけではない。酔言帳は僕が勝手に始めた。勝手に酔っ払いの名言を記録していたら他の客が面白がって、ゆるゆると続いている。仕事は自分で作るものと言うが、そのお手本と言えるだろう。記録用ノートはもともと大将のレシピ帳を勝手に拝借していたのだが、「ノート買ってあげるからレシピ帳に落書きせんといて」と専用のノートを買ってもらい、かくして酔言帳は店公認の媒体となった。
掲載までのプロセスだが、まず酔っ払いが発言する。次にそれが琴線に触れれば本人、もしくは聞いていた第三者が酔言帳に載せたいと申請する。酔っ払いの感度は玉石何でもキャッチするため僕(編集長)が内容を吟味し、イイねと思ったら決裁権を持つ女将に報告して掲載の可否を仰ぐ。このような厳密な過程を経てキラリと光る、もしくはベロンベロンに淀んだ名言たちが並べられ、読む人間に感銘を与えるのである。
今回は特別に、僕が選んだ珠玉のコトバたちをカテゴリー別に紹介したい。
・わかる気がするで賞
このカテゴリーでご紹介するのは僕が編集長としてうっかり共感してしまったコトバたちである。
「昨日のこと覚えてる?って聞かれるのがこわい」
Nさん(2022年12月18日)
編集長より: 本当ですね。恐怖に耐えてよく頑張りました。
中途半端なアワビより、ちゃんとしたトコブシを。
Mさん(2023年7月5日)
編集長より: ブランド価値に惑わされることなく、酔っ払いとしてきちんと物を見ている人のコトバですね。
「酔っ払いはテイク1がベスト」
Yさん(2022年10月16日)
編集長より: 酔っ払いはブレますからね。そのくせ取り繕おうとする。撮影する場合はお早めに。
・呑兵衛の鑑で賞
昭和生まれの酔っ払いは良くも悪くも気合が入っている。酔いが醒めたらそうでもないが、酒が入ると言うことだけは勢いがある。そんなコトバたちのカテゴリー。
「酒と人生は薄めたらあかん」
Jさん(2022年12月18日)
編集長より: つらいつらいつらいと喚いている翌朝と、濃くて短い人生に乾杯。
「男はケチと臆病と一生闘わなアカン」
Jさん(のお父さん)2022年12月18日
編集長より: たまには勇気を持って僕にも奢ってください。
ココロは満タンに。サイフは空っぽに。
Sさん(2024年3月28日)
編集長より: 酒はほとほどに、なんてアドバイスは余計なお世話であることがよく分かるコトバです。酔いはしたたかに、記憶はあやふやに。
・人生の真理で賞
いくつになっても学ばされる。そんなことを教えてくれるコトバたちのカテゴリー。
2杯でやめようと思って、2杯でやめれない。この歳になってもその理由がわからん。
大将68歳(2023年8月5日)
編集長より: 今日は飲まないと決めて飲んでしまうのも理由が分かりません。
調子と波は乗るものだと聞きました。
Pさん(2024年1月27日)
編集長より: 年上の彼女がいる方です。これからも適宜叱られると思いますが、そのスタンスを貫いてください。
色気は出すもんやない。出るもんや。
女将(2024年8月31日)
編集長より: この店のドリンクもそんな感じですね。
・よくあることで賞
どの酔っ払いにも当てはまるジェネリックなコトバたちだが、共感もできる内容を集めたカテゴリー。
「ここでした会話は、ここでしか思い出せん」
Sさん(2022年7月21日)
編集長より: まだ良い方です。全然思い出せない人の方が多いと聞きました。
「俺、飲んでる時は強いんですけど、次の日弱いんですよ」
Oさん(2023年1月23日)
編集長より: 結婚してからますますそうなった感じでしょうか。強く生きてください。
・誰かのコトバのパクリで賞
酔っ払いに限ったことではないが、どこかで見聞きしたコトバを自分のものにし過ぎる人たちがいる。他人のコトバだからこそ自信を持って言い切れてしまうのかもしれない。そんなコトバのカテゴリー。
「今日の俺の失態は明日の俺が解決してくれる」
Kさん(2023年4月8日)
編集長: はいはい。それでいいので、早く貸したお金を返してください。
酔言帳はもう少しで三周年を迎える。編集長としてこれからも励みたい。