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Her Dying Wish (1)

Send me off with a bang. 派手に見送って
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その人の最後の言葉は「明るく派手に見送ってください」だったと、葬儀の案内に書かれていた。当日は故人の希望によりバンド演奏もあること、また華やかで明るい服装で参列してほしいとも書かれていた。

故人にはお世話になった。いい人だった。だから悲しみも深かった。それはそれとして...

この角度で来たか。困った。
僕は華やかで明るい服なぞ持っていない。いつでも夜の闇に紛れて逃亡できそうな物ばかりである。夜逃げの準備はしていたがマツケンサンバのような葬式に出席する準備はしていなかった。不覚である。人生何があるか分からない。

他に思いつかなかったので、何かありそうなドンキホーテに向かった。店には様々な選択肢があり、葬式のシミュレーションが脳内で始まる。やはり現場、現物、現実の三現主義で進めると捗る。

しかし、もし故人の指定したドレスコードを参列者の多数が守らなかったらどうなる?なんだかんだ言っても葬儀である。一周回り切った忖度をした他の参列者が喪服を着ている中、1人だけマツケンサンバはものすごく浮くのではないか?

大学生の頃、とある会社の企業説明会に行った時に似たことがあった。説明には普段着ている私服で来ても大丈夫だと書かれていたが、頭の中のマナー担当が「これは罠です。スーツが無難です」と囁いたので、その声に従った。かくして当日、大きな会場にいる大勢の学生たちの中で私服だった人間は、たった1人だった。黒いスーツの集団の中に1人だけ白い私服。コントラストが残酷だった。オセロだったら立ち直れない負け方だ。その人は間違っていなかったが、この上なく居心地が悪そうだった。

あの人のようにはなりたくない。しかし、故人の意思も尊重したい。どうすれば良いのだ。ドンキホーテのパーティー衣装セクションで、しばらく悩んでいた。

続く

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