
第五ボタン
第一ボタン 思い出
胸が痛い。
まるで鎖のようなものに縛り付けられているような。
そんなのはお構いなく、司会の人は着々と進行を進める。
自分の出番に近づくにつれ、汗が止まらなくなる。
息遣いも段々と荒くなっていく。
僕は頭の中でどうやったらこの状況から抜け出せるかずっと考えていた。
並大抵のことは一通り考えた。
爆弾を身に付けた人が入ってくるや地震が起きるなど、とにかく考えた。
それでも時間は過ぎていく。
「続いては表彰式に移りたいと思います。受賞者は前に出てきてください」と司会の人が言うと7~9人ぐらいのデカイ集団が僕の前に出てくる。
僕は左隣にある台から賞状を取り、右隣にいる校長先生に渡す。
そう、僕は賞状を渡す人に渡す係、所謂アテンドと言う役割なのだ。
普通の人からしたら、大したこと無いと思うが僕にとっては人前に長時間立つことが一大事なのだ。
今までの記録を大幅に更新した。
最高でも国語の授業で発表した1分30秒が限界だと思っていたが人って頑張れば限界を超えられるということを実感した瞬間だった。
表彰式も無事に終わり、先程までの胸の痛みが嘘みたいになくなった。
第二ボタン 大切な人
終業式も終わり、最後の教室に向かっていると前の方に茜部がいた。
清水茜部のことは中学二年生の時に知り合い、初めて喋った会話は茜部の方から「可愛いね」だった。
僕はその時から一目惚れをして、絶賛片想い中だ。
僕は急いで茜部の所へ行きながら、頭の中で話す内容を考える。
「清水ー!今日の終業式どうだった?感動した?」
「感動したよ!途中で泣きそうになった」
相手から帰ってくる言葉も予想し、完璧な状態で向かう。
清水と呼ぼうとした瞬間、茜部と仲が良い女子が集まって話し出した。
僕は間に入って話せるタイプではないので諦めて、自分の席に座った。
早く話し終われと願ってるとチャイムがなった。
集団は分解し、各々自分の席に座る。
茜部は僕の席の右二つ前なので、顔をあげると茜部の後ろ姿が見えた。
頭の中では話したいという気持ちがものすごくあるがなかなか自分からいけなくて、どうしたら良いかずっと悩んでいた。
そのせいで、先生の感動する話も耳に入ってこらず、回りは感動して泣いているのに僕だけが泣いてなくて、場違い間がものすごくあった。
第三ボタン 友人
その日の帰り道、
「めっちゃ緊張して、倒れそうだった!」
僕は当時のことを自慢気に話す。
「へぇー。頑張ったじゃん。」
「スゴいねぇー」
それを聞いてるか、聞いてないかの間で返事をしてるのが心友の悠治と結城だ。
悠治とは小学校1年生の時に出会い、結城は小学校6年生の時に転入してきて、知り合った。
最初、結城とは違うクラスもあって全然話さなかったが中学上がるにつれ仲好くなった。
今では3人でプリクラを撮るほど仲が好い。
「本当に疲れた。」
と僕がため息混じりに吐き捨てると暫くの間、沈黙が続いた。
何を話そうかと必死に考えていると前へよろけてしまった。
それを見た2人は「大丈夫?」と決して心配してもないのに言う。
後ろを振り返っても何もなくて、少し恥ずかしかった。
「荷物持ちしよ!」
沈黙をなくすために咄嗟に出た言葉がこれだった。
「良いよ」
「じゃんけんで負けた人ね」
「最初はグー、じゃんけんぽん!」
結城と悠治はグーを出した。
僕は…チョキを出してしまった。
最悪だ。
こんな結果になるはずではなかった。
僕が予想していた結果はまず最初にあいこになり、次は僕が勝ち、最終的に悠治が荷物を持つことになると信じてた。
だが、予想は大いに外れた。
悔しいが荷物を持たないわけにはいかない。
口では文句を言い荷物を持ち出す。
「次の曲がり角までね」と2人が言う。
僕は走って曲がり角まで行った。
僕はその場に荷物を置き、2回戦やろうと言う。
次は僕と結城が残った。
僕は命を懸ける思いで腕を降った。
「じゃんけんぽん!」
結果は…負けた。
その後、5回戦やったが全部負けた。
僕は心の中でまた、記録を更新したと思ったが言葉にはしなかった。
第四ボタン 家族
家に着くと今までの疲れがどっと押し寄せてきて、倒れるように寝てしまった。
朝、眼が覚めると制服で寝てしまった自分に後悔をした。
「はぁ…チッ」
僕は無意識に舌打ちをしてしまった。
寒いのを我慢して、服を脱ぎ、防水ワイヤレスイヤホンを耳につけ、サカナクションの曲を流し、お風呂には入る。
浴槽には浸からず、シャワーですますのが日課だ。
お風呂から出ると母親が起きていた。
「おはよう」
「おはよ。昨日の終業式どうだった?」
「とても疲れた。」
「…お疲れ様」
僕は服に着替え、すぐに部屋に戻る。
部屋でサカナクションを聴いてるとさっき言われたお疲れ様が頭の中で引っ掛かる。
今思えば終業式が終わってから誰ひとり言ってこなかった言葉であり、僕が一番求めていた言葉だった。
自然と涙が溢れたが悲しくはなかった。
第五ボタン だった人
家のチャイムの音で眼が覚める。
昨日、いつの間にか寝てしまったらしい。
「はぁーい」
気だるそうに返事をして、玄関に向かう。
扉を開けると結城と悠治が立って待っていた。
「なに?」と訊くとニヤニヤしながら「告白しに行くよ」と言われる。
何を言ってるのかさっぱり分からない。
「え?」と訊き直すが「告白しに行くよ」の一点張りでやっぱり、何を言ってるのか分からなかった。
すると直治が「だから、茜部に告白しに行くの。何度言ったらわかるの?」と言ってきた。
ここで嫌だと言っても通用しないことがわかったので、諦めて服を着替え外に出る。
自分なりのお洒落をして、覚悟を決め清水の家に向かう。
時間は21:00を過ぎていた。
家に付くと茜部に電話をして、外に出て来てもらった。
胸が痛い。
最初の痛さとは全く違う、それよりか遥かに痛い。
なんとか雑談をして、痛さを紛らすがそれでも痛い。
この場から逃げ出したいと強く思う。
すると僕を見守ってる2人から背中を押された。
僕は咄嗟に好きですと言い、頭を下げる。
数秒たった後、顔を上げると…
泣いていた。
それに気づくと心配になる。
「大丈夫?」と訊くと彼女は「大丈夫だよ」と言う。
「突然のことで驚いちゃった。ごめんね。」
「こっちこそ、夜遅い時間に呼び出して、いきなり告白して、ごめんね」
「ううん、大丈夫。頭が回らないから、明日でもいい?」
「いいよ!いつでもいいよ!」
本当は今すぐ言ってほしかったが時間も遅かったので、その場を後にした。
連絡がきたのが3日後の夕方だった。
メールではなく電話がきた。
僕は急いで外に出て、電話に出る。
「ごめんね」
最初に言われた言葉だった。