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遠藤正二朗 完全新作連載小説「秘密結社をつくろう!」第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter1-2
鬼才・遠藤正二朗氏による完全新作連載小説、新展開の第11話がスタート!
「魔法の少女シルキーリップ」「Aランクサンダー」「マリカ 真実の世界」「ひみつ戦隊メタモルV」など、独特の世界観で手にした人の心に深い想いを刻んできた鬼才・遠藤正二朗氏。
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主人公の山田正一は、ある時『鍵』という形で具現化された強大な力を手に入れる。その力を有効活用するため、主人公のマサカズと弁護士(伊達隼斗)は数奇な運命を歩むことに。底辺にいた男が人生の逆転を目指す物語をぜひご覧ください!
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前回までの「ひみつく」は
【前回までのあらすじ】ある日、手にした謎の「鍵」によって無敵の身体能力を手に入れた山田正一(やまだ まさかず・29歳)。彼はその大きな力に翻弄される中、気になる存在になりつつあった後輩を失うことになってしまう。最初の事件で縁ができた若き敏腕弁護士の伊達隼斗(だてはやと)に支えられながら、2人は「力」の有効な使い道について、決意を固め、会社を起業する。まるで秘密結社と思えるような新会社"ナッシングゼロ"に3年ぶりに会う、実の兄・山田雄大が入り込み、マサカズの秘密を知ってしまった彼はそれを暴露しようとし、最悪の結果を迎えることに。これからは真っ当な道を進もうとした伊達とマサカズはあるルートからその受注に成功し、新たなミッションをこなす中で、バスジャック犯を撃退する活躍も見せていた。そんな中、マサカズと伊達の元に非常に高い能力を持つホッパー剛という青年が現れる。ホッパーが活躍する中、伊達を凍り付かせる一報が入り、それをきっかけに伊達はマサカズに事業を辞めることを申し出る。そんな中、マサカズはホッパー剛に鍵の秘密と力を託してしまい、歪んだ暴走の矛先は伊達に向けられ、マサカズが駆けつけた時にはもう…。その後、マサカズの元には新たな5人の若者たちが集まっていたが、そこにポッパーが現れ、戦いを挑むが惨敗。ホッパーの追撃をかわしたマサカズは雷轟流道場で短期間の修行をし、ある秘策をもってホッパーを撃退する。逃避行の旅に出た先でマサカズはある男と出会った後、自らの地元に降り立ち、いまだ自首をしない幼なじみの葉月にあるものを託す。その先にたどり着いた北海道の地でマサカズは異常事態に巻き込まれるが、マスクマンの格好で救出劇を遂げ、今度は南の地、那覇へと降り立ち、そこでマサカズは新たな決意を固めた。
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第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter1
平穏ならざる冒険の日々が、これから始まる。得体の知れない力に立ち向かうには、強く逞しい仲間たちと静謐の世に背を向け、吹きすさぶ烈風の中へと踏み入らなければならない。四月七日の昼過ぎ、自宅アパートの床に置かれた二十四インチの液晶モニターの前に、マサカズは強い意志を抱き腰を下ろした。
「これより、秘密結社エターナル第一回頂上会議を始める」
マサカズはヘッドセットを頭につけると、インカムに向けていつになく低い声でそう宣言した。画面には四名ずつ二段に分割されたビデオチャットの画像が表示され、上段のひとつにはマサカズの顔も含まれていた。八つのうち半数に当たる下段の四名については、表示されているものが素顔ではなく二次元のイラストやCGといった仮初めの姿で、その実態は声だけしかわからなかった。マサカズは咳払いをし、プリントアウトした原稿にあらためて目を落とした。
マサカズが逃亡先の那覇を発ち、小岩に戻ってから今日でちょうど二ヶ月が経っていた。その間、彼は新しい組織を構想し、その結成を目論み、ネットの掲示板を通じて構成員を集めていた。
“社会貢献と弱者救済を目的とした秘密結社を設立、生活は保証、アジト設立に協力できるオープニングスタッフを急募”これが掲示板に書き込んだ募集の概要だった。マサカズは起ち上げにあたって最低でも十名のメンバーを集めたかったのだが、二週間の募集期限で応募があったのは七名だけだった。
「我々八名は、一週間後の四月十四日正午、長崎佐世保港に集合。そこから船で無人島に向かう。そこで我々のアジトを建設し、そこを拠点として秘密結社エターナルの活動をスタートする」
マサカズはそう説明すると、再び咳払いをした。
「我々の合い言葉は“前向き”だ。常に前を向き、後ろを振り向かず突き進む。しかし安心してくれ、君たちに披露した通り、私の超能力は本物だ。それを用いて、不可能を可能にする! この無人島アジト建設作戦については万全を期して臨んでいる。ボスである私を信じてくれ!」
ネットを通してのやりとりしか経ていなかったため、マサカズはビデオチャットに参加している七人の本名を誰ひとりとして知らず、プロフィールとここまでのやりとりから連想できるコードネームを付け、それを呼称することで彼らと同意していた。
上段の左上に表示されていたのはトレーナーを着た青年だった。やや太り気味で表情に締まりがなく、瞬きの頻度が多い彼を、マサカズは『アイアンシェフ』と名付けた。なぜなら彼が牛丼店のアルバイト店員だったからだ。今後のアジト生活において、調理経験者はなにかと重宝するとの考えでつけたコードネームである。
その右隣の枠には七三に整えられた白髪の老人の、弛んで穏やかな顔があった。彼は以前、小学校で働いていた経歴があることから、『プロフェッサー』と名付けることにした。このエターナルという組織に参加することでセカンドライフを謳歌したいといった希望を持っているとの発言もあり、マサカズは彼に高いモチベーションを期待していた。
「計画書については、あとでもらえるって認識でOK?」
そう言ったのは、プロフェッサーの隣に表示されている白いランニング姿の青年だった。鍛え上げられた肉体の持ち主である彼は、ホッパーとの逃亡戦で取り付けられたGPS発信器について検索をした際、最も分かり易い解説動画を配信していた『シンちゃん』なる人物だった。彼が地元岡山県笠岡市から配信している『笠岡のシンちゃんねる』は、登録者数三万人を超える人気チャンネルで、スマートフォンやデジタルカメラ、携帯ゲーム機といったガジェット系の解説動画や、キャンプなどのアウトドア動画に定評があった。マサカズは彼をこれからの無人島での作戦において必要不可欠な人材だと位置づけ、応募に対して採用を即決した。メンバーの中では既に名前を公表している人物だったので、彼に限ってはコードネームを付けていない。「はい、のちほど送付しますので、確認してください」マサカズはそう告げると画面の下段、素顔を晒していない残り四名に注意を向けた。
下段の左端にはマサカズも読んだことがある、少年漫画雑誌に連載されていた、とあるヤンキー漫画のキャラクターが表示されていた。男性を自称する彼は現役の暴走族メンバーで、喧嘩の強さと度胸には自信があるとのことらしく、コードネームは『アウトサイダー』で同意した。基本的に荒事は自分で解決するつもりのマサカズだったが、違法行為に対して躊躇がないはずの彼は、今後政府組織と対する際、何かと役に立つと思われたため、活躍に対してそれなりの期待を抱いていた。
その隣では猫のイラストが、身体を揺らすコミカルなアニメーションを繰り返していた。応募内容の性別欄に男性と記した彼は、秘密結社については知識があると自称した。“互いの本名は伏せ、コードネームで呼び合うべき”、“アジトは孤島に作り防御力を高めるべき”、“戦闘要員は最低でもひとりは必要”、などといった提案を送りつけ、実のところ秘密結社と名乗ったのはいいものの、その実態については無知だったマサカズにとって知恵袋とも言える存在感を示していた。コードネームは『フリーダム』で、現在は無職で自由を誇っているとのアピールから、そう命名した。
残る二人はいずれもが女性だった。“死とは己に与えられた最後の自由”そのような文言をメッセージの最後に必ず付けてくる、骸骨をアバターとしていた彼女は、マサカズにとってパーソナリティを理解し難い人物だった。最初に送ってきた文面は「秘密結社という古の滅亡文化の再臨に幸あらんことを! なぜなら我は渇望する、死別を繰り返す堕胎の連鎖から産まれいずる真実の最果てを!」であり、何度ものやりとりで手探りを続けた末、エターナルに参加したいといった意思がようやく確認できた。やたらと“死”といった単語を愛用するので、コードネームは『デスサイズ』で同意に至った。マサカズは彼女の採用に躊躇もあったが、人数合わせのため仕方がなく受け入れることにした。
最後の一人は、見覚えのないアニメタッチのCGキャラクターをアバターとしていた。メールでのやりとりから推察すると、彼女は自分よりもずっと若い人物だと想定できたが、実像のほどはまだわからない。募集に対して真っ先にメッセージを送付してきたのが彼女で、自分がどれだけ世の中を憂い、改革をしたいかを積極的にアピールしてきた。コードネームは『ゲバラ』で、かつて実在したキューバの男性革命家の名前ではあるが、彼女からの提案だったため、それに従った。
自分を含む、この八名が秘密結社エターナルの全容である。三条葉月の自首に触発され、これからを前向きに生きていくため新たな組織を作り出し、謎の政府機関と対等に渡り合う決意が二ヶ月をかけてようやく実を結び、第一歩を踏み出すことができるようになった。以前の株式会社ナッシングゼロのように、公的な雇用手続きは一切取っておらず、素人ができうる範囲で作り出した組織だ。八名以外には誰にも認知されていない、正真正銘の秘密結社となる。他者の常識に照らし合わせば、ただのサークルに過ぎない組織だが、マサカズは鍵の超能力が空前の非常識を作り出し、前例のない結果を作り出せると信じていた。
鍵の力については、彼らをメンバーと認定した段階で動画ファイルを送って周知のものとした。スマートフォンでの自己撮影だったせいで、跳躍もただカメラが激しく上下するものにしかならなかったが、大木を蹴り倒し、鉄骨をゴムのように曲げる破壊力については、それなりに迫力あるものが撮れたと思えた。七名はどうやら信じてくれた様であり、動画の視聴をきっかけに組織から離脱する者はいなかった。
ナッシングゼロの残余財産の分配も無事に行われ、資金洗浄が済んでいない現金も合わせれば資金も潤沢だった。マサカズはこの二ヶ月で不安を感じることもなく、新組織の結成と無人島でのアジト建設に対してひたすら前向きを心がけ、たまに生じる不安や疑問は棚上げして今日まで進んできた。自宅に籠もる日々で生じる不健康に対しては、週に三度、市ヶ谷にある真山の雷轟流空手館道場に通い、稽古に打ち込むことで解消してきた。その都度、春山瞬が手製の弁当を差し入れしてくれたので、彼女の高校進学の祝いに銀のネックレスをプレゼントしたところ、春山は「どさくさでっす!」と、嬉しそうに叫んで腕に抱きついてきた。秘密結社などといった如何わしさを伴う計画を進めているマサカズにとって、彼女の存在は一服の清涼剤ともいえた。
三十分ほどやりとりをしたのち、マサカズは最後に「それでは来週、みなさんと会えることを楽しみにしています」といった挨拶で締め、オンラインミーティングソフトを終了させた。ほとんどの時間をマサカズが組織の理念や目的を抽象的に語るばかりに費やされ、ときおりシンちゃんが合いの手を入れたり質問をしたりするだけで、他のメンバーたちからの発言はまったくなかった。マサカズは、これについては彼らが一様に緊張しているのが理由なのだろうと考えることにした。
七名の仲間と共に、無人島に渡りアジトを建て、そこを拠点として社会貢献と弱者救済の事業を始める。具体的に何をするのかは決めていない。ただひとつはっきりとしていることは、組織力を背景にホッパーと彼が所属する組織に対して毅然とした態度で交渉に臨むことだ。マサカズは宇都宮から札幌、そして那覇への逃避行の結果、逃げずに前向きに進む、といった信念を何度も呪文のように唱え、二ヶ月間で自覚もなくその奴隷と化していた。カマキリのような構えをした強盗との遭遇がとどめになっていた。彼と繰り広げた茶番劇はマサカズにとってあまりにも惨めで、“逃げる”といった行為が導き出した報いのように思えていた。あのような経験を二度としないためにも逃げはしない。その決意に基づき、秘密結社エターナルという新たな組織が生み出されることになった。
あくる日、月曜日の夕方、マサカズは市ヶ谷の雷轟流道場にいた。彼はTシャツにテイラードのジャケット姿で、胴着姿の真山に深々と頭を下げた。
「そうか、しばらく来られなくなるのか」
「いえ、恐らくですけど、もう二度とこれなくなるっぽいです。携帯とかメールとかも通じなくなると思います」
マサカズの言葉に、真山は顎に手を当て眉間に皺を寄せた。
「ここのところの上達ぶりには目を見張るものがあったので、非常に残念としか言いようがないぞ」
「ごめんなさい。僕ももっと強くなりたいのですけど、距離的にちょっと難しくって」
「うむ、気が変わったらいつでも戻ってくるがいい。雷轟流は来るものを拒まん」
「はい!」
マサカズは、再び大きくお辞儀をした。無人島でアジトを作れば、この市ヶ谷に通うことはできなくなる。そのために別れの挨拶をする必要があった。もうひとり、ここには世話になった人物がいる。マサカズは道場を見渡し、その姿を捜した。
「春山なら、今日はおらんぞ」
真山の言葉に、マサカズは振り返った。
「あ、月曜日ってそうでしたっけ」
「いや、今日がちょうど入学式だ」
「あっそーか。先週言ってましたね。じゃあ、春山さんによろしく言っておいてください。とてもお世話になったって。お弁当、毎回美味しかったって」
「他人が伝える分量を超えているぞ。電話なり自分から直接言った方がよくないか?」
「まぁ、それもそうか」
ちりちり頭をひとかきすると、マサカズは視線を床に落とした。
「辞めちゃうって本当なんですか!?」
突然、背中から浴びせられた怒気をはらんだ甲高い声に、マサカズは全身を痙攣させて反応し、振り返った。そこには臙脂色をしたブレザーにチェックのスカート姿の春山瞬が、腰に手を当ててポニーテールを揺らし、不満げな表情を向けていた。
「あっ、また例のグループチャット? 僕が来たってタレ込み?」
「なんで辞めちゃうんです!?」
「あ、いや……ちょっと遠くでね、その新しい仕事を始めるんだよ」
「遠くってどのへんです?」
「長崎の、もっと先の方……」
マサカズは弱々しい口調でそう告げた。春山はその説明にひとつも納得していない様子であり、しきりに首を傾げ、ぶつぶつと何かを呟いていた。
「じゃー、たまに会いに行ってもいーですか? 新作とか試食してもらって感想とか欲しいし。高校からバンドも始めるから、聴いてもらいたいし」
「バンド? へぇ、パートは?」
「キーボードと……作曲もです。って、そーゆーことじゃない! 住所教えてください!」
「あ、いや、それはちょっと……」
消え入るような声でマサカズがそう言うと、春山は彼の手首を掴んだ。その顔から怒気は消え、小さな目は潤んでいた。
「教えてよー!」
強請るような嘆願に、マサカズはすっかり気圧されてしまった。
「あ、うん、決まったらメッセ送るよ」
「絶対ですよー!」
「う、うん……ゼッタイ……はい……」
彼女は秘密結社の本拠地を教えられる相手ではない。形だけの約束とはなってしまったものの、マサカズはこの場を取り繕うことで、少女のひたむきさから“逃げる”しかなかった。そのような考えに至った瞬間、彼はぶるぶると頭を振り、春山の手を握り返した。
「ダメ。教えられない。真山さんにも春山さんにも。なんなら僕の両親にも言えない。僕はこれから秘密の仕事をするんだ。けど、いずれは表舞台にも出られる。そうなったら連絡する。これは必ずする。時間はどれだけかかるかわからないけど、本当に絶対にする」
説得するかのようなその言葉に、春山は顔を引き攣らせ握られていた手を振りほどき、たじろぎ、小さく「いや……」と呻くように呟いた。マサカズは、なぜ彼女が自分に対して恐れを抱いているのか分からず、ちりちり頭を掻くしかできなかった。“前向き”の奴隷と化し、“逃げる”ことを拒絶するのが最優先となっていた現在の彼は、自分に好意を抱いてくれている少女が戸惑っている理由を察する繊細さを失っていた。逃げないため徹底的に鈍感となっていたマサカズは、もう一度春山に「その日が来たら、絶対。約束する」と念を押した。春山は視線を床に落とし、真山に肩を叩かれたことをきっかけに、マサカズに向け「さようなら」と強い口調で告げた。噛み合わないやりとりではあったのだが、マサカズはその点についても深く考える事はなく、ただ漠然とした違和感を覚えるだけだった。
このような奇っ怪な感覚に陥るのであれば、退会の挨拶は真山に電話で済ませればよかった。道場から市ヶ谷駅に向かっていたマサカズは、他にも柏城や猫矢、両親などいくつかあった挨拶先に対しても電話やメールで連絡を入れておくことに決め、春山とのぎこちない別れは心の隅に追いやってしまった。
第11話 ─新しい軍団を結成しよう!─Chapter2
今年は冬が短く、四月十四日の今日も上着が必要ないほどの暖かさだった。リュックを背負ったダンガリーシャツ姿のマサカズは、佐世保駅から港を目指して歩き出した。彼が九州に訪れたのは、これが初めてになる。東京から電車と飛行機を乗り継ぎ六時間弱もの時間をかけたため、少しばかりの疲労もあったはずなのだが、見慣れぬ土地に対する好奇心がそれを打ち消していた。
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